324.どう使おうがオレの自由だ
謁見の間は、ほぼ全員が揃っていた。壇上の玉座の前でマントを揺らし振り返る。腰掛けるオレの足元に、リリアーナが当然のように座った。
一段下に座ったのはクリスティーヌだ。その下に控える形で、左側にウラノスとアルシエルが並んだ。向かい合う右側はオリヴィエラが腕を組み、ロゼマリアが控え目に一歩下がって立つ。マルファスはまだ戻らず、アガレスがロゼマリアの数歩後ろでモノクルを磨いていた。
正面に立つのは、アスタルテ――。ククルを迎えに行ったアナトとバアルも、もうすぐ姿を見せるだろう。
「サタン様。リリアーナと主従契約を結んだ理由をお聞かせください」
「必要だった」
「……その金鎖は見覚えがあります。私が返上したものでは?」
出会って間もない頃のアスタルテに与えた護符代わりの金鎖は、配下として契約する前のリリアーナに与えた。夢魔の魔王がもつ能力が不明な状況で、洗脳されたら面倒だと先手を打った形だ。咎められる所以はない。
「我が手元にあるものを、どう使おうが自由だ」
「ええ。ではクリスティーヌのブレスレットは?」
青い石がついたブレスレットとピアスは、同じ石を分割して製作されたジュエリーだ。アスタルテは知らぬが、クリスティーヌの僕である蝙蝠のジンも同じ石の鎖を巻いている。
「愛玩動物に区別がつくようアクセサリーを授けるのは、アナトの進言だぞ」
何が問題なのだ。まったくわからん。意味がわからぬまま責められる状況に、自然と表情が険しくなった。逆にアスタルテの表情は曇り、ついに額を押さえて大きくうな垂れる。
「我が君、彼女らは愛玩動物ではありません」
「……では何だ」
「魔族の女性です」
「雌なのは知っている」
途端に真っ赤になったリリアーナは顔を押さえて、オレのマントに包まった。首から上をすっぽりとマントで隠し、中で何か呟いている。
あの時は悪いことをした。知らぬとはいえ、未婚の若い雌竜の尻尾を持ち上げるなど……辱める気はなかったのだが。
「未婚の雌と理解しているのに、なぜ契約したのです!? 指輪まで渡して! これではこの子らの婚期に差し障りがでます!!」
「だが……育児放棄された幼子を保護して、愛玩動物を持てと推奨したではないか」
なぜ叱られるのだ。そう告げた途端、周囲の反応が大きく3つに分かれた。事情がわからずきょとんとしたのはクリスティーヌ。残りは抗議する者、呆れる者だ。何が間違っているのか言わぬまま責められるのは好かぬ。むっとして玉座の肘掛に寄りかかり、姿勢を崩した。
「私は正妻になるんだもん!」
「我が君、娘はペットではなく……っ!」
黒竜は親子だけあって似たような反応を見せた。興奮した様子で抗議する。ウラノスは「まあそれもよかろう」と達観した顔で溜め息を吐く。ロゼマリアは苦笑いし、アガレスは肩を落とす。オリヴィエラは堪えきれずに腹を抱えて笑い出した。アスタルテは崩れるように座り込み、立ち直れずにいる。
「陛下、それは……ひどいかも」
「リリーが可哀想だよ」
ククルを伴った双子神にまで責められ、オレは不機嫌さに拍車がかかり乱暴に立ち上がった。
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