282.鱗を剥ぐ所業は罰か、助けか
「ダッタス!」
「生きてっ……よかった、よかったな。アルバス」
抱き合って喜ぶ彼らのくしゃくしゃの顔に、過去の記憶が蘇る。
拾った時のバアルとアナトは、ズタボロでひどい状態だった。呼吸しているのが不思議なほど傷を負った子供達は寄り添う。バアルの右腕は千切れ、かろうじて骨で繋がる状態。足も叩き潰され、両足があり得ない方角に曲がっていた。
アナトに至っては首と腹に大きな切り傷があり、血だけでなく内臓や肉が外へ溢れる。目玉も片方垂れ下がり、まるで獣に食い荒らされた死体だった。好奇心で拾ったが、彼と彼女は今は立派な配下だ。この人間達も、拾った以上は衣食住と仕事を確保してやらねばならない。
「お前も魔王様に忠誠を誓え。この方が助けてくださったんだ」
「魔王!? え……バシレイアの?」
民の噂は早い。黙って待てば、2人は慌てて膝をついた。腕を切り落とされたのがダッタス、内臓を撒き散らした方がアルバスらしい。片膝をつく騎士や貴族の拝礼を知らない彼らは、両膝をついてぺたりと座った。石畳に手をついて頭をさげる。
「お役に立って、助けていただいた恩を返します」
「俺も連れてってください」
頷けば、安心したように彼らは頬を緩めた。その時、離れた地区で爆発があったのか。激しく地面が振動して爆音が響く。
「……今のは?」
「ドラゴンが出たと聞いたぞ」
彼らの声を聞きながら、爆発した方角に感じる魔力の高まりに苦笑いした。逃げてきた国王か王太子でも捕まえたようだが、人間相手に力を込めすぎだ。
「オレは行く。お前達は東門で待て。攻撃対象から外してやる」
この世界の都は外壁で守られている。それだけ魔物や他国の侵略が多い証拠だった。東西南北に門を設ける街が多く、小さな村は東西か南北に2ヶ所が一般的らしい。空から確認した東門の位置を示したのは、ここから最も近いためだ。彼らは蘇ったばかりで体力がなく、家族を連れて混乱した街を抜けるのは無理だった。
頷いたのを確認し、踵で石畳をひとつ叩く。リリアーナの魔力の上空を選んで転移した。足元の景色は、惨状と表現するのが似合う瓦礫の山だった。瓦礫の上で、彼女は大きく尻尾を叩きつける。
がらがらと音を立てて、瓦礫が砕けて落ちた。何やら苛立った様子に眉を寄せ、リリアーナを呼ぶ。顔を上げるなり、興奮して空に飛び上がった。
「どうした」
空中で報告を求めるオレに、リリアーナは覚えたての念話を駆使して説明を始める。大きな建物は教会で、宗教家らしき黒服が飛び出してきた。それらを待って塔を折ったところ、派手な貴金属を身に纏う数人が逃げ出したという。捕まえようと竜の手を伸ばしたが、何かに突かれた。
僅かな傷だが、鱗の間を擦り抜けた痛みを訴える。右の前脚を必死で持ち上げて鳴く姿に、傷口を確認した。小さなトゲらしき物が刺さっている。よく見れば、剣だった。
柄まで刺さったのに、痛いで済んでいるのは鱗のお陰だ。硬さに負けた剣が曲がり、鱗の隙間から抜けない。足をつくたび気になるトゲを、彼女は顔をしかめて覗き込んだ。
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