276.一方的な蹂躙の先にあるもの
川の流れをいじったことで、荒野に水が供給され始めた。砂漠ではなく土が残る大地は、貪欲に水を飲む。一定の量を蓄えると、今度はそれを植物を芽吹かせるという形で吐き出した。
低い場所から草原が発生し、いずれ豊かな畑が作られる土地は、まだ土色と緑が斑らな光景を晒していた。
「ユーダリルだ」
明確に目的地を告げる。配下に任せて成果を座して待つのは性に合わない。最前線に立つこと、弱者である民を守ることは、過去の世界でも己に課した義務だった。今回の戦地が危険かどうかではなく、最後の国を滅ぼすなら己の手を汚すべきだと判断した。
バシレイアの同盟国テッサリア、助けを求めて移住したキララウス。今後の世界はこの3つの国が主流となる。軍事国家など不要だ。魔国の魔族もゆっくりと併合するつもりだった。
歯向かった4つの国を滅ぼし、盤上のゲームに一度終止符を打つ。その上で、新たな統治システムの構築や人材の育成と登用に力を尽くすべきだ。
グリュポスは豊かな恵みを齎らす森へ変えた。ビフレストとイザヴェルの跡地は、今後放牧を中心とした街が作られる。荒れ果てた大地に麦を撒き、黄金の穂を実らせる手筈も整った。
ユーダリルの外壁が見える。かなり古い時代の遺跡を使用しているのだろう。ところどころ崩れた壁は、他国の侵略と魔物の攻撃を防いできた証だ。ドラゴンやグリフォンなど空を飛ぶ種族に目をつけられなかったのは、この土地に価値がないからだ。
耕作すべき平地がほとんどなく、放牧を多少営んだとしても豊かではない。鉱山があるものの、権益を王侯貴族が独占した。産出した鉱石や宝石を奪い、過酷な現場で働かせるために他国を攻めて奴隷を確保する。彼らの手法は古典的で、ひどく野蛮に思えた。
麦も人も奪えばいい。安易で短絡的な行動のツケを払う時がきた。ただそれだけの話だ。
ぽんとリリアーナの首筋を叩くと、彼女の内側に魔力が集まり喉へ流れ込む。吸い込んだ空気に火種を混ぜて吐き出す。ドラゴンが得意とする炎のブレスが、ユーダリルの街並みを焼き払った。
兵士が出払った街は無防備だ。弓を射る者も少なく、年老いた者や若い子供が主流だった。哀れと同情することはない。年老いた者は奪う側にいた。他国の女を犯し、男を奴隷にして働かせ殺した加害者だ。あの子供が食べた食料は、他国を脅した戦利品だった。
だが、救える者もいるだろう。
「リリアーナ」
わかっていると咆哮を上げたリリアーナの鳴き声が、びりびりと大気を震わせる。拾った当初なら人間を無差別に焼き払ったドラゴンは、己に攻撃を仕掛けた者を返り討ちにした。それ以外の逃げる者を追いかけず、大きな建物を中心に焼き払う。
言葉にせずとも理解する配下が増えたことに、オレは頬を緩めた。熱い炎の余韻が頬をかすめ、足元で足掻く王城の上を旋回したリリアーナに合図する。不満そうにしながらも、彼女は少し高度を落とした。
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