223.送り込まれた手足を動かす策
頷こうとした時、荒々しい足音で駆け込んだのはリリアーナだった。尻尾が勢い余ってドアをたたき壊す。それでも気にせず突進し、手前で足を止めた。
「その子起きたの? 今の魔力、サタン様だった?」
解放した魔力量にびっくりし、続いて自分の庇護下と考えるアナトの安全を確かめに来たのだろう。魔力が高められた場所を特定したのだとしたら、感知能力も大したものだ。黒竜王が後ろに控えているのを見て、僅かに眉を寄せるものの何も言わなかった。
親子の確執は深いが、主君が口出しする分野ではない。無視して、起き上がったアナトが伸ばした手に触れた。
「バアルがいる」
双子神ゆえに互いを感応するらしい。確信を秘めた口振りに、今度こそ頷いた。収納空間に届いたのなら、仮死状態なのは間違いない。手紙を送ったが、読むより早くアースティルティトが動いたのだ。
時間の感覚がずれている。この世界に来て1年経っていないが、元の異世界では数年経っているらしい。魔族でなく、人間だったら会う方法を模索している間に、どちらかの寿命が尽きる。
とんでもない暴挙を仕出かしたバシレイアの前国王はすでに鬼籍だった。捕らえた獲物を切り刻んだウラノスを思い浮かべ、仕方ないと切り替える。
右手を収納へ入れ、触れた手を掴んで引っ張り出した。アナトが慌ててベッドの脇へ移動する。目の前にずるりと落ちたのは――ククルだった。
「ククルなの?」
見慣れた青い髪ではなく、真っ赤な炎に似たククルの髪色に目を見開いた。戦いの最中に愛剣を引き出す際、触れたのは確かにバアルだ。感触ではなく、微量に纏った魔力で感知したのだから間違いない。
「まさか!」
収納へもう一度手を入れると、今度こそバアルに触れた。空中で受け止めて、ククルの隣に並べる。赤毛の少女と青い髪の少年……見た目は少女同士に見えた。性別も性格も外見も、何一つ共通項がない2人を前に溜め息を吐いた。
「あ、増えた!」
無邪気に目を輝かせるリリアーナの後ろから、オリヴィエラも顔を覗かせた。部屋の中を確認し、安全だと判断してロゼマリアを伴って入る。仲が良いのは結構だが、まるでロゼマリアの従者のようだ。
ぱたぱたと派手な足音がして、クリスティーヌも飛び込んできた。何やら手に書物を持っている。
「これ、師匠から預かったの」
クリスティーヌが差し出した本を受け取り、サイドテーブルに置こうとしてタイトルに気づく。急ぎ手元に引き戻した。
「応用か」
仮死状態と蘇生の魔法陣を利用した、古代竜の氷漬けや過去の魔物の封印方法が記載されている。殺せなかった強い魔族が羅列された内容に興味はあるが、表紙に描かれているタイトルは特殊な魔法文字だ。手で触れて魔力を流すと、魔法陣が浮かび上がった。
「なるほど」
ウラノスは蘇生の魔法陣の作成者ではない。この本を手に入れた吸血種だから、利用しただけだ。過去にこの本を残した筆者の研究の成果を、ウラノスは己の力として利用したのだろう。
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