27.我が治世に貢献すればよい
「なんだこれは」
部屋の扉の外に、3人の少女達が寝ている。壁に寄りかかったり、床に転がったりする様子は見ていて気分が良いものではない。面倒な連中だ。結界を張ったため、室内に入れずここで寝たらしい。彼女らを抱き上げて1人ずつ運んだ。オレが使ったベッドだが、文句は言わないだろう。
ふと気づいた。過去に部下が同じようにベッドに入り込もうとしたが……あれと同じか? 寂しかったと言われた記憶が蘇る。オリヴィエラの事情はわからないが、リリアーナはまだ子供だ。1人で寝させたのは可哀想だったかも知れない。ロゼマリアは親が投獄された城で、怖がった可能性もある。
部下の管理は主君の役目。配慮が足りなかった。溜め息を吐いて、すたすたと廊下を横切る。朝日が眩しい庭に、昨日の子供が待っていた。
「待たせた。早いな」
時間の約束はしていないが、待たせたのは事実だ。そう口にすると、照れたように頬を緩ませる。昨日は薄暗い場所で見たので気付かなかったが、この子は女の子か。
「お前、女か」
そう告げた瞬間、焦った顔で後ずさる。この街の兵士は程度が低い。幼いといえる年齢だが、雌にとって危険な状況だったのは理解できた。身を守るために親が男児のフリを言いつけたのだろう。指摘して悪いことをした。
「病人とケガ人の家を教えてくれるのであったな。礼はする」
少女の用心を気づかなかったフリで流した。きょとんとした顔をした後、彼女は手が届かない位置を歩く。それでも何軒か家を教えてもらい、状況を確認した。
衛生状態はもちろん、食料が足りず、家もひどいボロ家ばかりだ。この世界の平民の暮らしは、オレがいた世界の最底辺より酷い。罪人ですら、ここまで酷い扱いはされていなかった。
「サタン様!」
駆け寄るオリヴィエラの声がした。続いてリリアーナの魔力が追いかけてくる。微弱な魔力はロゼマリアか。
振り返れば、予想通りの3人が並んでいた。
「もう、起きたのなら私も起こしてくださればよかったのに……」
唇を尖らせたオリヴィエラに対し、リリアーナは笑顔で手を伸ばす。何を望むのかわからず見ていると、指を絡めるように手を繋いだ。
「こうする、仲良い」
仲がいいと手を繋ぐ。どこかで覚えた知識らしいが、間違っていないが正しくもない。しかし不快でなかったため好きにさせた。
「病人達は……働けなくても国民なのです」
ロゼマリアの懸念がわからぬが、何か心配事があるようだ。表情を曇らせて言葉を探す姿に、少し首をかしげた。
「当たり前だろう。国民である以上、庇護対象だ」
ぱっとロゼマリアの表情が明るくなった。もしかしたら、動けない奴らをオレが切り捨てると考えていたのか。あの国王や貴族の態度を見て育てば、仕方ないだろうが……。
「ケガも病気も治す。その上で国の歯車として働き、我が治世に貢献すればよい」
生きている以上、魔王の庇護を得る権利がある。庇護する存在を守り、彼らを効率的に動かし配置するのが王たる存在に求められる義務だった。動けるようになれば、国民は勤労の義務を果たし、国に貢献する。当たり前の理だが、あの王侯貴族に理解できたとは思えない。
権力者とは他者を守る存在であり、虐げる存在ではないのだから。
「……ありがとうございます」
礼を言うロゼマリアが潤んだ目で見上げてくる。ひとまず、病人とケガ人を一ヶ所に集める必要があった。その指示をだし、もじもじと両手をすり合わせている案内役に向き直る。
「助かった。肉か金、礼の品を選ばせてやろう」
「お、お肉!」
最初から少女が欲しがるものは、食料だとわかっていた。時間が止まった収納空間から肉を取り出し、子供が持てる大きさに切り分ける。魔法でいくつかに分割し、一番大きな塊を渡した。
「い、いいの? 貰ってもいいの?」
「構わん。報酬だと言ったであろう。それより家まで送ってやる」
治安が回復する前の街で、肉を持った少女が歩いていれば襲われる。仕事の対価として与えた肉を、何もしていない第三者に渡すことは腹立たしい。困惑した顔をした少女に、ロゼマリアが頷いた。王女の確約に安心したのか、少女が指差す方角へついていき、そこでもケガ人を見つける。
「お前に仕事をやる。他にもケガ人や病人を見つけてこい。たくさん見つけるほど、多くの褒美をやろう」
目を輝かせる少女は、嬉しそうに何度も頷いた。これで街の問題がひとつ片付く。足元の掃除はまだ時間がかかりそうだった。
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