第436話 エックスバーアール管理図を使おう 1

 本日は家族で王都に来ている。

 義父に孫を見せるため、王都で落ち合う約束をしていたのだ。

 それは無事に終わったのだが、オーリスが一人でふらっと出かけて深夜に帰って来た。

 不貞を働いたというわけではなく、盗みを働いたのだ。

 本人曰く、


「育児のストレスを解消したかった」


 とのこと。

 ジョブを考えるとそれはストレス解消ではなくて、仕事なんじゃないかなと思ったが、本人がストレス解消になるというのならそうなのだろう。

 彼女は大量の金貨を見せてくれた。


「国営カジノの地下金庫から盗み出した、ナンバー不揃いの金貨よ」


「金貨にナンバーの刻印はないけどね」


 まあ、日本でも最近はナンバー不揃いの紙幣を要求するような犯罪も聞かないよね。

 そもそも、一般の商店などではわざわざ紙幣のナンバーなんて確認しないし。

 なんなら、ゲームセンターなどの両替機使えば、ナンバーを確認されること無く使用できるだろう。

 金融機関に持ち込めないってのはあるかもしれないけどね。

 そして、この国では通貨にナンバリングするような考えはなく、犯罪により入手された通貨を判別するような仕組みは考えられてはいない。

 そもそも、情報伝達手段も限られているので、刻印があったとしても商人たちにどのナンバーが犯罪により入手されたかなんて通達できない。

 そんなわけで、刻印の必要性はないわけだ。

 そんな金貨を手に取ってみていると贋金だときづく。


「捨てちまおう。こいつは偽もんだよ。よく出来てるがな」


 その言葉にオーリスは目を見開いた。


「偽物?まさか、国営カジノの大金庫からかっぱらったのに」


「ゴー◯コインだよ」


「ゴーン?」


「いや、そこはゴートでしょう」


「ほら、この作品的にはそっちよりこっちですわ。本物以上の完成度を誇ると言われた清掃作業員のコスプレ」


「そこは忘れてあげよう」


「でも、どうして贋金ってわかったの?映画では本物以上の完成度を誇ると言われる物をチラ見で偽札と見抜いて、そもそもそれって設定破綻しているよねとか言われていたのに」


「重量だよ。この国の金貨の重量は23.0g以上っていう決まりがある。金の含有量と金貨の大きさから考えたら、それ以下のものは贋金なんだ。そして、この金貨の重量は22.954g。分銅の精度を考えたら贋金とはわからないだろうけど、俺のスキルならそれがわかる」


「でも、それなら偶々これが重量測定で問題なしと判定された可能性もありますわ」


 とオーリスが言うが、俺は首を横に振る。


「全ての金貨がその重量で出来ているんだよ。エックスバーアール管理図を描いてみたらわかるけど、それが示す結果は製造工程で異常が起きているってことなんだ。その異常は高精度な贋金を作ることが出来る設備があるっていうことなんだ。秤が狂っているにしてもばらつきがないのはおかしいんだよ」


 エックスバーアール管理図とは、製品の寸法や重量の平均値とばらつきを記録している管理図である。

 その管理図で見られる異常の種類は複数あって、一つは管理値を外れた測定結果がある。

 その他には、9点が中心線に対して同じ側(中心線以上または以下)にある、連続した4点が中央付近の領域から外れたところにあるなど、全部で8個の異常判定ルールが存在する。

 この金貨のように公差を外れているのは論外だが、仮に公差下限ぎりぎりのものがあったとしたら、間違いなく管理値の外にあり、さらには連続して中央値付近から外れており、中心線に対して同じ傾向、つまりした側になっているので、異常と判断することになる。

 こいつの優れているところは、作業者が品質確認を怠って嘘のデータを書いていたとしても、それが不自然なものであれば、管理者がそれに気づいて測定しなおしたりできる点にある。

 作業者はエックスバーアール管理図の見方を知らないため、毎日同じ数値などを平気で記入するので、そういったことに気づきやすいのだ。

 まあ、管理者も見てないんだけどね。

 JIS規格にも規定されている管理方法なので、使っていることになってはいるけどまあお飾りです。

 っていう噂を聞いたことがあります。


「まさかそんなものが国営カジノにまで出回っているとは驚きですわ」


「これは早目に対処しないと大きな問題になるだろうねえ」


「そうは言っても、盗んでみたら贋金だったなんて言えませんわ」


「義父に相談してみようか」


「え?」


 俺の提案にオーリスが驚いた。


「何か変な事を言った?」


「ええ。またこの話を繰り返すのかと思いまして」


「まあ、何度目だっていうのはあるけど、こっちでもエックスバーアール管理図のことを書いておきたいから。っていうか、下手にパロディ無しでやろうとしたら、色々とやりたかったことが出来なかったので、こっちでなんの気兼ねも無しにやり直したい」


「メタ発言ですわね」


※作者の独り言

 パロディ無しで書き直ししている方で、かなり我慢しながらエックスバーアール管理図の話をかいたんですけど、やっぱりストレスたまるよねっていうことで、こちらで書き直しすることにしました。

 両方呼んでいる読者の方はごめんなさい。

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