第435話 育児の作業標準書
俺とオーリスの子供サクラが生まれてからというもの、俺の生活は育児が中心となった。
経済的に余裕もあるし、義父が体裁を気にして出産して間もない母乳の出る乳母を用意してくれたのだが、この世界でも子供は母親の母乳で育てる方が病気になりにくいという事がわかったので、義父には内緒でオーリスの母乳を与えている。
粉ミルクなんて代物も無いしね。
授乳は男である自分には出来ないが、それ以外のことはなるべくやるようにしている。
男が仕事をして女は家事育児なんていうのは高度経済成長が作り出した生活スタイルであり、男女ともに仕事をするのが当たり前の社会においては、男が家事育児をしないという方がめずらしい。
まあ、冒険者なんていういつ帰ってくるかわからない職業なら、家に残っている方がやることになるのだろうけど。
そんなわけで、今は子供のおむつを洗濯している。
洗濯なんて当主であるオーリスの伴侶である俺がやる事ではないのだろうが、子供の汚した布を洗うのも育児をしている実感がある。
紙おむつなんて便利なものはないので、汚れたら洗うしかないのだ。
以前オッティに紙おむつの生産を持ち掛けたが、
「おむつの生産工程なんて見たこともないし、クリーンルームをつくるのが大変だからむーりーまん」
と断られてしまった。
個人的にはむりーずって言って欲しかったな。
パス、パースでもいいんだけど。
※ダジャレは別としておむつはパンパースが一番はかせやすかったですね。
それと、オッティに言われたのだが、紙おむつが快適すぎておむつが取れない子供が増えているんじゃないかというのが目から鱗だった。
おもらししても不快じゃないから、いつまでたっても出る前にトイレに行けないままだというのだとか。
母乳だけの時はうんちも臭くないけど、離乳食がはじまると徐々に臭くなっていくから、いつまでもおむつが取れないと親は大変だぞって言われた。
確かに、今はうんちが全然臭くないのだが、そのうちこれが臭くなってしまうのだろうか。
腸内フローラを整えてそれは絶対に阻止しないと。
臭いうんち触りたくないし。
日和見菌に対して「日和やがって」とリンチを加える善玉菌を増やしたいところだけど、ヘルメットとタオルで顔を隠して、ゲバ棒で叩いてくるイメージに善玉という名前を与えてもいいのだろうか?
「アルトー。少し寝るからサクラのことを見ていて」
オーリスに頼まれたので、洗濯に区切りがついたところでサクラのところに行く。
サクラは俺が抱っこした途端に泣き始めた。
軽く揺さぶってみたり、話しかけてみたが一向に泣き止まない。
「アルトの抱き方が悪い」
睡眠不足で不機嫌なオーリスは、泣き続けるサクラを俺から受け取り抱っこする。
すると直ぐにサクラは泣き止んだ。
「このまえ教えた通りに抱けばこうやって泣き止むでしょ!」
そう怒られるが、俺の作業標準書スキルを使って抱っこしているのに、それでも泣き止まないのは抱き方の問題じゃないと思う。
ここはやはり、泣き止まない真因を探るために確認をしていかなければならないだろう。
そう決意して4Mの確認をすることにした。
勿論、機械や材料なんてものはないので人と方法を確認することになる。
「まずは、屋敷にいる人達に同じように抱っこしてもらって、泣き止むかどうかを検証してみないとなあ」
という訳で、屋敷の人達に協力してもらい、サクラを抱っこして泣き止む泣き止まないを確認していく。
抱っこの直前に抱き方を指導して、同じように抱っこしてみる。
すると興味深いデータが取れた。
男性陣は子供を持っている人も含めて全滅だけど、女性陣は殆どが泣き止ませることが出来た。
未婚の女性で2名ほど泣き止ませられなかったというのはあるが、25名のうちの2名なので8%程度となる。
PPM管理だと大問題だけどね。
この結果を受けて再現トライをしてみる事にした。
再現トライは俺が女性に変装して抱っこするのと、女性に変身して抱っこする2パターンだ。
さてどんな結果になるだろうか。
まずは変装だ。
「サクラ、ママですよ」
オーリスに変装してサクラを抱っこしながら話しかける。
結果はギャン泣き。
直ぐにオーリスにサクラを渡して、今度は変身する。
そしてオーリスからサクラを受け取った。
「サクラ、ママですよ」
今度は泣かない。
赤ちゃんの男女センサー優秀だなと感心した。
続いてスターレットに変装してサクラを抱っこしてみる。
すると、今度も泣かない。
やはり男女センサーはあるな。
「解決したよ」
とオーリスに話しかける。
「どういうこと?」
「オーリスに言われて作った作業標準書には、作業の急所として女性である事っていうのが抜けていたんだ。だから、俺がサクラを抱っこしても泣き止まなかった。対策として、サクラを抱っこするときには女性に変身して抱っこするようにするよ」
作業標準書スキルは指導してくれた人のレベルに影響される。
初めての子供だったので、当然レベルは低かったわけだ。
実際、前世の会社でも経験の浅い社員が作った作業標準書では、重要なことが抜け落ちていて作業者に伝わらないっていうのがかなりあった。
思い返せば自分のスキルで作った作業標準書は、金等級の冒険者をギルド長に紹介してもらったこともあり、かなり出来の良いものだった。
まあ、対策書で作業標準書に不備があったので修正しますなんてのは最近では通らなくなったので、何故不備があったのかまでは踏み込まないとね。
会社が社員教育の費用をけちるからです!
対策書には書けませんが。
対策が出来て満足している俺に、オーリスが次の課題を与えてきた。
「抱っこは解決できたから、次は背中スイッチね」
背中スイッチとは、抱っこして寝かしつけた赤ちゃんをベッドに寝かそうとしたとき、背中がベッドに触れたとたんに泣き始めるというものである。
今までは抱っこしても泣き止まなかったので、背中スイッチのところまでは到達出来なかったが、今回抱っこの対策が出来たことで次の段階へと進んだわけだ。
「俺たちの戦いはこれからだー」
「次回作の前に子育てをちゃんとやってね」
「はい……」
※作者の独り言
我が家では子供からみた続柄で父、祖父二人は泣き止まず、母と祖母二人は泣き止みました。
育児ヘルパーの女性が抱っこしても泣き止んでいます。
なお、2歳くらいまでは母親がトイレに行くと追いかけて行きました。
父親と一緒に待っている事が出来ませんでしたね。
お気に入りのユーチューブを見せても駄目でした。
3歳前くらいからはトイレくらいは待てるようになっています。
なお、沐浴と入浴については父親である自分がやっても泣かなかったので、ずっと自分が担当していました。
泣いていてもお湯につかると不思議と泣き止むんですよね。
なお、背中スイッチは攻略できずに終わっています。
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