第401話 迷宮ジョブ教習所
泥まみれのシルビアが目の前に立っている。
泥パックの全身バージョンかな?
鎧に泥パックしても意味なさそうだけど。
「アルト、水。泥を落として」
「ここじゃまずいから裏に行こうか」
「訓練所でいいわよ」
急いで訓練所に移動してシルビアに水を掛ける。
塩水噴霧試験スキルで作り出した純水だ。
それを振動試験スキルで水切りしようと思ったが、流石にそれは自制した。
風魔法をドライヤー代わりに使って、シルビアについた水滴を飛ばしていく。
温度管理スキルで訓練所全体を恒温槽にしてしまい、強制的に乾燥させる方法もあるのだが、やはり人に厳しいので止めた。
完全に水を乾燥させるには恒温槽がいいんだけどね。
泥が落ちたシルビアにどうして泥んこ遊びをしていたのかを訊ねた。
「遊んでいた訳じゃないわよ。迷宮の調査をしていたの」
シルビアの話では迷宮で新しく見つかった横穴を調査していたら、リドル(なぞかけ)の部屋を見つけたのだという。
そこでは〇と×の扉があり、問題に対して答えだと思う方に勢いよく走っていくしくみなのだとか。
で、間違うと泥の中にダイブしてしまうと。
ウルトラクイズか!
「その調査に呼ばれてないんだけど」
そういった迷宮の調査では、一人工程保証度評価満点の俺がいつも呼ばれるのだが、今回は全く話が来なかった。
「あんた、オーリスと一緒に王都に出掛けていたでしょ。その間に発見されて、あんた抜きで調査することになったのよ」
昨日まで出掛けていたから仕方ないか。
明確に何日に帰ってくるとは言えないしな。
オーリスの仕事もだし、道中の障害もあるかもしれないし。
で、泥まみれになったところで調査を打ち切って、冒険者ギルドに帰ってきたら俺がいたと。
「因みに、どんな問題が出たの?」
「『敵に魔法使いが居るときに、魔法に気を付けなければならない』って問題で、○を選んだら泥の部屋よ」
「教習所か!」
思わず叫んでしまった。
運転免許の学科試験の引っ掛け問題みたいだな。
魔法以外にも気をつけなければならないから、答えは×なのだが、それはどうなんだろうと誰もが思うやつだ。
「奥に何があるのかわからなかったけど、ひとまず危険は無さそうね。泥まみれでも怪我はしないし」
シルビアの言うことには賛成できない。
今のところは泥だけど、剣山になったり濃硫酸になったりする事があるかもしれないけどな。
作者の趣味からして。
タイトルは『魁!冒険者ギルド品質管理部』。
上の言うことには絶対服従の教育を施す私塾が舞台。
高校生が伝説の暗殺拳使うけど、ヤクザには勝てない設定です。
多分そんなのがあってもおかしくない。
「ずっと泥の罠かどうかもわからないよね。今からちょっと見に行こうか」
「そう、それなら案内するわ」
シルビアと一緒に迷宮に行く。
件の横穴を通り辿り着いた場所には石柱があった。
石柱は腰の高さ程度であり、上部には石板が埋まっている。
「石板に手をかざすとジョブを判定して、出題がはじまるのよ」
シルビアが仕組みを説明してくれた。
俺は試しに石板に手をかざしてみる。
すると、石板には俺のジョブである品質管理の文字が浮かび上がった。
「第一問、ノギスの測定時にゆびかけを強く押しても測定結果は変わらない」
問題を読み上げる声が迷宮内に響く。
そして、目の前に〇と×の扉が出現した。
「×だな」
ゆっくりと×の扉に近づき手を触れる。
扉はびくともしない。
「勢いよくぶつからないとダメなのよ」
「当たったら痛くない?」
「勢いがついていると不思議と柔らかくなるのよね」
シルビアも一度試したようだが、ゆっくりと扉に触れるととても硬い。
まあ、ゆっくりと扉を押し開けられるなら、誰も泥んこにならないからな。
俺は諦めて助走をつけて×の扉に飛び込む。
扉は砕けるが、不思議と体は痛くない。
そして、扉をくぐり抜けた先には地面があった。
後ろからシルビアがついてくる。
「違うジョブでもついてくる事が出来るの?」
「そうみたい。でも、回答者が間違うと全員スタート地点に戻されるのよね」
なんて不思議な魔法空間。
この先に何があるのか気になるな。
「第二問、グループ企業内で相次ぐ不正が見つかり、社長がまだ隠している不正があるなら申し出て欲しいと言ったので申し出た」
次の問題が読み上げられた。
「こんなもん×に決まっているだろう」
「〇じゃないの?」
「たとえ親を人質に取られても不正の事は口にするべきじゃない」
俺は×の扉に体当たりをした。
当然のごとく地面はある。
※この物語はフィクションです。
「ほらね」
とシルビアにどやった。
が、シルビアは呆れ顔だ。
解せぬ。
「第三問、リコールに繋がる不良を発見した時は国土交通省に気を付ける」
「引っかけ問題だな。一番気を付けるべきは社内のおしゃべりな社員だ。×」
正解は当然×。
※この物語はフィクションです。
「第四問、検査員の資格がない作業者に正規検査員の名前の判子を渡した」
「〇」
※この物語はフィクション
「第五問、CPKが実際には1.32しかなかったが、生産管理に泣きつかれたので1.68になるようにデータを作りなおした」
「〇」
※この物語はフィクション
「第六問、客先の監査当日だけ日本人の作業者を用意した」
「〇」
※この物語は
「第七問、他者の製品の解析依頼が来たので、余計なところまで確認して寸法不良を報告した」
「〇」
「第八問、上司がいない時でもスマホで遊んではならない」
「×。福利厚生の一環だ」
※絶対にチクるなよ。
そんな感じで進んでいき、いよいよ最終問題となった。
「最終問題第五十問、不良を見逃してくれたらお金をくれるというので見逃した」
「×」
「え?×なの?」
俺の答えにシルビアが驚く。
「そうだよ。ここで金をもらって見逃したら、次はそれをネタに脅されるかもしれないし、そもそも不良は後工程で見つかる可能性が高いからね。見逃すなんてやったら自分の首を絞めるだけだよ」
俺は自信満々に×の扉に飛び込んだ。
勿論その先には地面がある。
「ほらね」
とシルビアのほうを振り向いたら、まばゆい光に包まれた。
視界がやっと戻ると、俺たちは最初の石柱の前に立っていた。
「あれ?」
「元の場所に戻ったみたいね」
「体に異変もないし、何だったんだろうね」
二人して間抜けにも見つめ合うが、答えは出なかった。
迷宮にはまだまだ解明されない謎が多く潜んでいる。
※作者の独り言
この物語はフィクションです!!
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