第400話 ポカヨケが頭から抜けてしまいました

最近異世界でミスを防ぐにはどうしたらよいのかを考えすぎて、センサーを使ったポカヨケを考えられなくなりました。

対策会議で「どうして仕組みだけで対応しようとするの?」って言われて、「ああこちらの世界ではセンサーがつかえるんでしたね」って中二病っぽいせりふをはいたりもして。

今回はそんな自分のリハビリです。

それでは本編いってみましょう。



 俺とシルビアはカレンに呼ばれて賢者の学院に来ている。

 この前のアンデッドモンスター騒ぎの追加報酬の件かなと思ったが、着いて話を聞いてみたら全然内容は違った。


「王都の貴族が自分の主催するパーティーで、出した料理に問題があったからそれを解決する魔法が欲しいと賢者の学院に要求してきた訳か」


 俺は椅子の背もたれに体重をかけて、後ろにのけぞった。


「ええ。重要なスポンサーだから学院としても無下には断れなくて」


 カレンは困った顔をした。

 だが、それで俺が呼ばれる意味が分からない。

 シルビアは勝手についてきただけなので、元々ここにいる理由は無いのだが、俺はカレンからの使いに呼ばれてやってきたのだ。


「料理の問題っていうのが、肉料理の付け合わせのクレソンが、招待客の伯爵夫人にだけ無かったのよ。これならアルトの専門分野でしょ」


 カレンがそういう。

 専門分野と言われると微妙だが、部品欠品と考えれば専門分野なのかな?


「そんなもん、次から気を付けるでいいじゃない」


 シルビアが横から口を出した。

 それに対してカレンは首を横に振る。


「怒った貴族が盛り付けを担当していたメイドの腕を切り落としちゃったのよ。次から気をつけようにも彼女は二度と仕事はできないわ」


 流石平民の命は軽い世界だ。

 前世でもこれくらい簡単に不良を流出させた作業者の腕を切り落とせたらどんなによかったことか。


 …………


 何か?


「そういう事になっているのなら作業者の聞き取りは絶望的だけど、作業していた調理場が一般的なものだと仮定して、対策を考えるしかないか」


 現場現物現実の確認は重要だけど、ステラと王都みたいに離れているし、失敗した本人も腕を切り落とされて解雇されているから、いまさら話を聞くのも無理だろう。

 実際の工場でもよくあるよね。

 不良が発覚した時には作業者がいなくなっている事が。

 なにせ不良をつくるのは、問題行動の多い派遣社員が多い(当社調べ)ので、解雇とまではいかないが契約更新がされずに消えていく。

 で、悪いことにいなくなった後に客先で不良が発覚したりするので、聞き取り調査が出来ないわけだ。

 別に隠している訳じゃないですよ。

 そんな時は想像でなぜなぜ分析をしたりするんです。

 それしかないから。


 で、今回の事も想像でしかないが、クレソンを皿にのなかった事象に対しての作業者の変化点は無いんだと思う。

 ただ標準作業みたいなものは無くて、次々と皿にのせていくだけだったのではないだろうか。

 そして、皿にクレソンが乗っていなくても、次の作業が出来てしまう。

 それが皿を運ぶ行為なのか、皿を運ぶ使用人に手渡す行為なのかはわからないが。

 クレソンを乗せる工程を飛ばしても、次工程の作業が出来てしまう事に問題がある。

 運ぶ時に確認すればいいと言えばそうかもしれないが、それは工程内での保証が出来ていないので対策としては駄目だ。


「メイドにギアス使って間違えたら苦しむようにしたらいいのよ」


 シルビアが全国の品管がやりたくてもやれない事を平然と言ってくれた。

 間違った作業者には地獄の責め苦を。

 作業者の人権よりも品質の方が重いんですからね。

 不良を作った作業者の手なんてサンダーで切り落とせばいいと思います。

 閑話休題?


「シルビア、とても魅力的な提案だけどそれはだめだ」


「どうしてよ。今更非人道的だなんて言わないでよね」


「そうじゃなくて、ミスを流出させないことも重要だけど、発生させないことも重要なんだ。今回のことで言うならば、皿にクレソンを乗せ忘れた事も再発を防止しなきゃいけないんだ。ギアスを使っても忘れる事は防げないよね。忘れた事に気づかせることは出来るけど」


 まあ、流出しなけりゃいいじゃないって思う人も多いだろうけど、ミスの対策というのは発生と流出の両方でするものなんですよ。

 クレソンを乗せ忘れないようにして、乗せ忘れたものをお客様に出さないような仕組みを作るのが真の対策になりますね。


「そうよ、いい案が出なければギアスの提案をしようと思っていたんだけど、アルトなら他の対策を考えてくれると思って呼んだの」


 カレンはそう言うと期待の眼差しで俺を見る。

 カレンはゴーレムを作ることが出来るし、折角だからゴーレムを使ったポカヨケを作ってみるか。

 俺はそう決断した。


「カレン、ゴーレムを使ったポカヨケを作ろう」


「ポカヨケ?」


「ミスを防ぐ装置だね。フライパンや鍋の蓋をゴーレムに開閉させて、順番通りに料理を皿に乗せていくような装置を作るんだ。以前ライトの付与魔法でつくったゴーレムの応用だね。ほら、カレンがサイノスに告白した時の――」


 カレンが顔を真っ赤にして、手元にあった研究日誌を俺の顔に投げつけてきた。

 恥ずかしかったのか?

 そりゃあ、俺とシルビアの目の前でサイノスにマーキングをおねだりしちゃったからなあ。

 こっちも恥ずかしくなるわさ。


「過去の思い出は置いといて、ポカヨケの説明をしよう。ゴーレムは蓋る。そうするとフライパンや鍋から料理を取り出せるようになる。で、料理を取り出したら今度は蓋を閉めて、次に皿を覆っている蓋を取る。そうすると、作業者は皿に料理を盛り付け出来るようになるよね。それをゴーレムが判定して、次の蓋を取るんだ」


「それだと盛り付ける回数ごとにゴーレムの数を調整しないといけないわよね」


 カレンが現実的じゃないと評価した。

 確かに、今の説明だと専用ラインと受け取られても仕方が無いよな。

 だが、汎用ラインのポカヨケだってある。

 チャンネル切り替えにより、動作するゴーレムの数を変えてやればいいのだ。

 蓋を取る動作が2回とか3回の命令を予め与えておけば、あとはそれをコマンドワードで切り替えてやればいい。

 工場でもシーケンサーのプログラム切り替えなんてあるからな。

 溶接ロボットもチャンネル切り替えで何種類もの命令を入れておく事ができる。

 溶接ロボットはゴーレムみたいだしな。


 そのことをカレンに説明してやった。


「そこまでゴーレムにやらせるなら、料理の盛り付けもゴーレムにやらせればいいじゃない」


 シルビアがもっともな事を言った。

 人がミスするくらいなら、最初からロボットにやらせればいいのだ。


「ゴーレムは盛り付ける事はできても、それが美味しそうに出来たかどうかまでは判断できないのよ。それが出来るようになれば人間なんて仕事が無くなるわね」


 カレンの言葉が胸に刺さる。

 単純作業はどんどんロボットに置き換わってきている。

 ただ、外観検査などの判断が入る作業は、ロボットではまだ遅いし、判断を正確に出来ない部分もある。

 できなくは無いが、コストがかかり過ぎっていう場合もあるが、これらの課題をクリアー出来たら、人々は仕事を失う。

 この世界だって、ゴーレムの運用技術が向上したら、人々はどんどん仕事を失っていくだろう。

 果たしてそれは良いことなのだろうか?


「なに難しい顔してるのよ」


 シルビアに背中を叩かれる。


「このままゴーレムの研究が進めば、人は仕事を失うのかなって考えちゃって」


「失敗して貴族に腕を切り落とされるよりはマシじゃない?」


「それもそうか」


 気を取り直して、カレンにポカヨケの仕様を伝えることにした。


「途中で料理を補充する必要が出来たときは、特別なコマンドワードでゴーレムに蓋を開けさせる。重要なのはコマンドワードを実行させるための、命令の指輪は作業者に持たせないこと」


「それって不便じゃない?」


 カレンが俺の言った仕様に納得が行かずに訳を聞いてくる。


「作業を一時中断するときは、管理監督者がポカヨケの解除、再起動をするべきだよ。今回でいえば、クレソンを皿に乗せたところで無くなったのを補充するつもりが、乗せていないのに補充してしまえば、折角のポカヨケもその機能を果たせなくなるからね」


 これはポカヨケがあるのに不良が流出するパターンの最多要因(当社調べ)だ。

 なので、コントロールボックスの中に緊急解除ボタンを設置して、コントロールボックスの鍵は班長に持たせてある。

 作業者が自分でそれをやると、かなりの割合で不良を作ってくれるぞ。


「そういうものなの?」


「そういうものなんです」


 ポカヨケシステムの仕様を伝え、カレンはそれを作ってみると言ってくれた。


 後日、カレンが冒険者ギルドにやってきた。


「折角作ったのに、貴族からは要らないと言われたわ」


「そりゃまた、どうして」


「ギアスの方が手っ取り早いって」


「あー」


 工場でも、手順間違った作業者に電撃ショック与える仕組みにすれば安上がり。



※作者の独り言

ゴーレム使ったポカヨケは剣と魔法の異世界なら可能だろうけど、解決方法全部それでいいのかよってなりますよね。

現実世界は全部それでいいのですが、予算の都合でそうもいかなかったり。

それにしても、ポカヨケを使う対策が頭から抜けてたのはまずかったよなー。

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