第338話 対策出来ない

なぜなぜ分析で、発生を対策出来ない事って有りますよね。

それでは本編いってみましょう。


「知らないモンスターと遭遇したのか」


 今日相談に来ているのはカイエンだ。

 迷宮で知らないモンスターと遭遇して戦闘になり、ボコボコにされて命からがら逃げて来たというのだ。


「通常攻撃でダメージを与えられなくて。魔法を使えるメンバーもいなかったから、結局撤退することにしたんだ。そのころには全身傷だらけにされたよ」


 カイエンはそう説明してくれた。

 通常攻撃が効かないモンスターか。

 スライムやワーウルフなんかの類は、通常の武器では傷をつけることは出来ない。

 だが、カイエン隊ももう新人ではないので、それなりのモンスターの知識は持っているはずだ。

 そんな彼らが知らないとなると、一般的なモンスターではないのかもしれないな。


「それで、相談っていうのは?」


 カイエンの話は如何にして逃げてきたかというのを詳細に教えてくれているのだが、それは日記にでも書いておいて欲しい。

 対策を考えるとなると、逃げる前の事実が重要なのだから。

 選別での武勇伝を語って、どのロットを何個選別した結果、不良がどれくらい発生したのかを全く言わない人みたいじゃないか。

 対策書に数字を記載したいんだよ。

 あなたが蚊に何か所刺されながらも選別したとかは、とりあえずこちらの対策書が書き終わったら聞きます。

 っていうのと同じ状況だな。


「そうそう、いつものなぜなぜ分析で知らない相手がいなくなる対策を立てて欲しいんだ」


 あっけらかんと言い放つカイエン。


「そんなもんは無理だよ」


「なんで!?」


 俺の素っ気ない態度に驚くカイエン。

 品質管理の手法を使って全部が解決するわけじゃないぞ。

 今回のもそれだ。

 知らないモンスターがいるのは当たり前であり、この世の中に存在する全てのモンスターを知っているなんて人物はいないだろう。

 どこの大賢者だよ。


 未発見のモンスターだっているのだから、それすらも知っているなんて無理だろう。

 前世でも対策不可能な発生原因は対策は出来なくても、再発防止対策書を受け取ってもらえたぞ。

 一例をあげるならスパッタ付着だな。

 スパッタというのは溶接の時に飛び散る溶けた金属の事である。

 こいつが製品のシート面やボルトの座面に付着すると組付け不良になるので、スパッタ付着無き事という検査規格になっている。

 だが、残念なことにこいつが付着禁止範囲に付着したものが客先に流出してしまうのだ。

 当然再発防止対策書の提出を求められるのだが、ここでの不良の発生原因となっているスパッタ付着で、当然なぜなぜ分析をしていくと、スパッタが発生したというのが出てくる。

 じゃあスパッタを無くせるのかといわれたら、それは無理な話だ。

 技術革新でも起きればスパッタの発生しない溶接が開発されるのかもしれないが、現状でそれを研究して対策なんてことは出来ない。

 スパッタの付着防止のために、カバーをつけるのが精々だな。

 というか、カバーはついているのが当然なのだが、予期せぬ方向にスパッタが飛散して、製品に付着しちゃったりするんだよね。

 飛んでる間に冷めて溶け込まなくなるからって言った生産技術の担当者を恨みました。

 それを再発防止対策書に書いてしまうと、生産技術の知識の確からしさをどう評価するのかなど色々と面倒なので書かなかったけど、実際の問題点はそこなんだよね。

 生産技術のいうことをついつい鵜呑みにして、酷い目に遭ったことは一度や二度ではない。

 お願いだから味方を後ろから撃つような事はしないで欲しい。

 想像で言わずにきちっとした理論でやろうね。

 いつその事を客先から突っ込まれるかひやひやしています。

 まあ、逆に弊社から発行した再発防止対策書でも、そこまでの事は求めてなかったけど。

 それをするとクローズまで時間がかかるから、敢えて目をつぶってやり過ごした。

 ISOやらIATFの審査時にクローズしてない再発防止対策書なんて見せられないですよね。

 どことは言わないけど、兎に角提出したらクローズにしてくれるところだってあったくらいだぞ。

 その気持ちはよくわかるが、良いものを作るという基本的な考えからは外れているな。

 俺がいえた義理じゃないが。


 おっと、話が脱線しているな。

 元に戻すと対策が出来ない事なんていくらでもあるということだ。


「いいかいカイエン。世の中の事を全部知ろうなんて賢者でも無理な事だ。それを今ここで対策を考えるなんて出来ないんだよ。未知のモンスターに出会った時にどう対処したらいいかを考える事が対策だな」


「それじゃあ、なんだかわからないまま戦うって事?」


 納得がいかないといった口吻のカイエン。

 俺はカイエンの言葉に首を横に振る。


「別に戦わなくてもいいんだぞ。外見をスケッチしてきて、それを誰かに見せて鑑定してもらったっていいんだから。戦うならまずは遠距離攻撃なんだろうけど、石化とか混乱の特殊能力を持っていると面倒だよな。効果範囲がどの程度なのかもわからないし。やはり戦わないのが一番じゃないかな。避けられないなら魔法や火で燃やしてみたりするのもありだな。今回魔法使いはいなかったんだろうけど。燃やしたり水をかけたりしてみたか?」


「斬撃と打撃だけだったよ。そうか、他の攻撃手段も試せばよかったな。ダメージが通らないのは向こうの皮膚が厚いからだと思って、ずっと接敵して攻撃していたんだけど、途中でそうじゃないって気が付いたんだよね。もっと早く気が付いていれば、怪我をすることもなかったんだなー」


「まあ、そういう事だ。未知の敵と遭遇したときはいきなり近接戦闘をせずに、取れる手段に応じて戦うべきだな」


 この辺はTRPGの知識からくる経験だな。

 知識ロールで失敗したときは、弱点や有効な攻撃を知らないものとして対処しなければならないからな。

 GMによってはプレイヤー知識を使う事でペナルティを渡してくる事もあったぞ。

 目つぶしで光が出る魔法使うのって普通だよね。

 アンデッドじゃなくても視力を奪うのに使うぞ。

 なんで、それがペナルティになるんだよ。

 っていう愚痴はさておくか。


「あ、そうだカイエン。一応冒険者ギルドでも未知のモンスターが出現して、通常攻撃が通用しないっていう情報を共有しておきたいので、どこで遭遇したのか詳しく教えて欲しい。それと外観だな」


「わかったよ。あれはだな、俺達が迷宮の地下15階層で――」


 カイエンからもらった情報をギルド長に報告しておいた。

 尚、カイエン達は対策として固定でパーティーに参加してくれる魔法使いを探している。

 いいんじゃないですかね。

 後は諦めて逃げるタイミングか。

 攻撃が通用しないとわかったら、直ぐに逃げるように心がけておけばいいと思うぞ。



※作者の独り言

溶接不良については、工程内不良の撲滅は諦めてますよ。

出来ることは発生を減らすことと、絶対に流出させない事くらいですね。

もっと問題なのは、訳のわからない理論で対策をしなくていいってFMEAやFTA作成時にいう生産技術ですかね。

全員じゃないけど、偶に変な自信もっている人いますよね。

毎回立ち上げ失敗しているので、反省してもらいたい。

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