第337話 祝日の仕事

 今日はステラの街の祭日だ。

 神に感謝を捧げ、盛大にお祝いする日である。

 神に感謝するのは世界共通なので、今日はどこに行っても祭日である。

 前世では祝祭日という言葉だけ残ってはいたが、祭日というのは無くなっており、休みとなるのは祝日であった。

 旗日なんて言い方もしていたな。

 まあ、世間は休みなのだが、自動車業界は年末年始とゴールデンウイーク以外の祝日は出勤する会社が殆どであった。

 商社は休みなのはずるいと思います。

 ただ、納入だけはやっているみたいなので、物流部門の人は不平不満があるんだろうな。


 さて、そんな前世の話はさておき、祭日ということで仕事をしているのは出店とか、酒場のようなところくらいなもので、みんな街中の広場で祭りを楽しんでいる。

 綺麗に飾った山車が通りを練り歩き、それを子供たちが追いかけている風景を見ると微笑ましくなる。


 俺とオーリスは領主席からそれを眺め、目の前に出された料理や酒を口にしている。

 ビバ、特権階級。

 というか、スポンサーでもあるので当然の扱いか。

 領主自ら屋台に買いに行く訳にもいかず、メイドさんたちに気になった屋台に行ってもらい、そこで食べ物を買ってきてもらっている。

 輪投げやダーツで商品がもらえる屋台もあるのだが、そこに領主が行くと向こうが恐縮するだろうから、買ってこられるものだけで我慢だ。


「天気もいいし、祭りをするには最高の日だなあ」


 口にしていたワインのグラスを離し、俺は晴天の空を見上げた。

 雲一つないわけではないが、夏の暑さは無くなり心地よい日差しが降り注いでいる。


「こんな日でも冒険者ギルドは営業しているのですのよね。問題が起きなければよろしいのですが」


 オーリスがフラグを立てるような事を言ったので、一瞬ドキッとしてしまった。

 そういう事は思っても口にしちゃだめだぞ。

 確かにオーリスの言うように、冒険者ギルドは今日も営業している。

 護衛任務を受けていた冒険者が帰還する事もあれば、祭日など関係ないモンスターの襲撃などもあるからだ。

 モンスターの襲撃は神様の力で止めて欲しい。

 あんたに感謝している日なんだからな。


 そういえば、前世でもどういう訳か祝日に不良の連絡が多かったな。

 選別に呼ばれて向かうのだが世間が休みなので、楽しそうな家族連れを多く見かけた。

 怒られながら選別するこちらとは真逆の過ごし方だな。

 願わくば、あの家族が離婚前の最後の家族旅行であって欲しい。

 何も知らない子供の笑顔が、次の日は泣き顔に変わって欲しい。

 選別に向かう車に同乗している作業者のYさんの言葉に同意する訳にはいかなかったが、その気持ちはなんとなく理解できた。

 祝日に作業着を着ている人を見かけたら、優しくしてあげなくてもいいので、近寄らないでください。

 心が荒んでいます。

 会社カレンダー通りといえばそうなのですが、やはり人間なので隣で遊んでいる人がいると黒い感情が芽生えますよね。


 しかし、本当に不思議なもので、どういうわけか祝日の不良の連絡の多さは異常。

 発生日の統計を取った訳ではありませんが、祝日に連絡をもらうことって多いですね。

 相手先も祝日の仕事で心が荒んでいるから、どうしても厳しく見るのでしょうか?

 部品欠品だから、厳しく見ないでもわかりますけど。

 どうみても、弊社が悪いですね。

 いや、毎回それというわけではないが。

 傷や錆びの連絡も有りましたよ。

 やっぱり厳しく見るようになっているんじゃないかな?

 とある公務員の友人も、土日の取り締まりは厳しめって言ってたし。

 法のもとには平等であるべきなので、冗談だとは思いますけど。

 本気にしないでね。


「しかし、世の中魔王との戦いの最中なのに、こうしてお祭りをしていていいのかな?」


 みんなが楽しむ光景を見ながら、ふと今もモンスターに襲われている村があるんじゃないかという事が頭をよぎった。

 そんな俺の手をオーリスが優しく握ってくれる。


「こんな時だからこそではないでしょうか。私たちは魔王の軍勢には屈しないという姿勢をアピールすることで、強く生きていけるのだと思いますわ。寧ろ、ここでこのお祭りを自粛してしまっては、今後の戦いでも萎縮していてしまうでしょう。神の与えた試練為ればこそ、普段通りに生きていこうとする姿勢、矜持を見せるべきですわね」


「そうだね」


 俺はオーリスの顔を見つめる。

 オーリスは照れて頬が人恋初めし少女が手渡した秋の実のように染まる。

 楽しき恋の盃を酌んでもいいですか?

 どうも、お笑いコンビ島崎・藤村のボケ担当藤村です。


 真面目にやります。


「来年のお祭り迄には、魔王を倒して楽しいお祭りにしようね」


 オーリスは俺の言葉に頷くと、手を握ったまま広場で楽しそうにしている人々の方を向いた。




※作者の独り言

祝日の不良の連絡多すぎ。

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