第334話 年上エリート女品管が僕の前だけで可愛い

「そこ、腕が上まで上がってないぞ」


 シルビアが新人をしご……、可愛がる様子を訓練所の端から眺めている。

 今日も相談がこないので、暇をつぶすために冒険者ギルドの中をうろついていたのだが、シルビアが新人教育をしていたので、それを見る事にしたというわけだ。

 数名の剣士の男の子がショートソードの素振りをしているのだが、そのうちの一人が疲れたのかショートソードを振りかぶるのが中途半端であり、それをシルビアが指摘したところだ。


「すいません、疲れて――」


「モンスターはお前の言い訳を聞いてくれないぞ!」


 言い訳をする男の子をシルビアが叱咤した。

 まるで、客先の品管にいた女性だなと俺は前世を思い出した。

 工場品管は殆ど男性で構成されているのだが、ごくまれに女性も配属される。

 花のようなという形容詞は似つかわしくない。

 女独眼鉄というのがピッタリだな。

 外見ではなく雰囲気がですよ、念のため。

 万針房で「品質とはなんぞや……!?良品とはなんぞや……!?返答せい!!」って聞いてきそうなんだよね。

 万針房は品管事務へと続く通路です。

 通りたくないんだけど、大豪院邪鬼じゃなかった、弊社の部品担当に呼び出されて客先の品管事務所に行かなければならないので、通るしかないんだよね。

 富樫みたいに相手の顔を蹴る事はしないけど。

 というか、実際には弊社を呼び出した担当よりも職位は上です。

 品管にいる女性はみんな優秀で出世するんですよね。

 測定も女性がやっているのをみますが、こちらはかなり若いスタッフですね。

 僕もそっちに行きたいです。

 新規の製品で測定方法の打ち合わせの時は、そっちに行けますけどね。


 そんな怖い女性品管の手料理が美味しいとか、車の中は人形だらけとかいう話を聞いても、全然ときめきません。

 中松警部が犬が好きってのと同じくらい信用出来ないですよね。

 そんな怖さを持った人を女性だからと舐めてかかる下請けもいて、官渡の戦いの顔良よろしく、見事に撃ち取られています。

 会社の偉い人は三国志とか戦国武将の話が好きなので、時々こうして織り混ぜようね。

 史実と演義の違いとか突っ込まれたら泣くけど。

 さて、話を戻すと、女性の品管ってどうも気が強くて毎回泣かされます。

 自分のところだけでしょうか?

 再発防止策の報告でも、一番ツッコミがきついです。

 まあ、優秀だからってのもあるのでしょうけどね。

 弊社の品管担当者はあまりの厳しさに逃げ出してしまい、その後自分が担当として引き継いだわけですが。

 あれ、転生前の設定と違っている?

 気にしない、気にしない。


 そんな厳しい品管の女性も、弊社のどうにもならない不具合について、一度助けてくれたことがありました。

 どれくらいどうにもならない状況だったかというと、曹操の前に縛った状態で連れてこられた呂布くらいの状況です。

 劉備、余計な事を言うんじゃない。

 おっと、三国志の話はいいか。

 あの時助けられた恩をいつか返そうと思っていましたが、今の妻がその時の彼女です。



 …………


 嘘です。

 ごめんなさい。


 そうそう、大学の工学部だと、工場と同じように女性が少なく、-1σくらいの女性が凄くチヤホヤされてたりするんだよね。

 外見ではなく、性格がですね。

 チヤホヤされるから、調子に乗るんでしょうね。

 作者の知る女性は容姿は普通でしたが、オタサーの姫かってくらいにあれな振る舞いをしてましたよ。

 当時はそんな言葉は無かったですが。

 それでも凄くオモテになってましたね。

 社会人になったらモテなくなりましたけど。


 大学時代は遠くからそれを見ていて、卵子に群がる精子ってあんな感じなんだろうなって思ったことがあります。

 男ってバカですね。

 そんな大学生とはうってかわって、品管の女性はチヤホヤされない。

 会社には仕事をしに来ているから当たり前か。

 プライベートとかは、極力会社の人とは関わらないようにする風潮もあり、女性として見ることも無いですけどね。

 仕事仲間止まり。

 というか、性格がキツいのでなるべく近寄りたくないですね。

 おっと、客先の品管って設定だったな。

 テヘペロ(・ωく)


「全くなってないわね」


 指導を終えたシルビアがこちらにやってきた。

 腰に手を当てて、プリプリと怒っている。


「新人の頃なんてあんなもんじゃないのかな」


 俺は苦笑いをした。

 工場勤務初日の作業者もあんな感じだったなと思い出す。


「あんまり厳しいと辞めちゃうんじゃないかな?」


「それでいいのよ。命がかかっているんだから、中途半端な気持ちで冒険に出るくらいなら、もっと他の道に進むべきよ」


 その言葉を聞いて、シルビアなりの優しさを理解した。

 命を落とされるくらいなら、別の生き方をすればいいんだよな。

 中々そう言ってくれる人はいないけど。

 だからこそ、シルビアの存在は貴重なのである。


「茶でもしばく?」


「そうね」


 シルビアと一緒に冒険者ギルドを抜け出し、ステラで最近人気のカフェで、ゆっくりとお茶を飲むことにした。

 前世でお世話になった、あの厳しい客先の品管の女性は、今でもティア2や車両メーカーと戦っているのだろうかと、ティーカップから上がる湯気を見ながら、前世の世界に想いを馳せた。



※作者の独り言

男女共同参画社会とやらがまだまだ押し寄せていない製造業の品管ですが、当然女性がゼロというわけではありません。

雑草ではありませんが、踏まれて強くなったのか、元から強かったのかは知りませんが、兎に角男女差を感じさせませんね。

女性の活躍している職場ですは嘘じゃないよ。

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