第321話 溶接記号いい加減に直そうね
またも現実世界ででかい品質偽装が表に出てきましたね。
重要保安部品で品質偽装とか、流石にねーわ。
重要保安部品じゃなければあるのかといわれると、そこはノーコメントですけど。
もちろん、品質偽装なんてあるわけ無いじゃないですか。
とは言えないくらい、現実世界でニュースになっていますね。
子供用シロップに異物が混入したり、薬の法定検査やらなかったりもあって、そこに至るまでの経緯を想像するのが日課に。
品質問題の裏には、経営に起因する問題があると思いますが、果たしてそこまで踏み込むことが出来るのか注目ですね。
それでは本編いってみましょう。
今日はホーマーに呼ばれてエッセの工房に来ている。
なんでも大発見をしたのだとか。
さて、どんな大発見だろうか。
「今から溶接治具を作るから見ていて欲しいんです」
そういうと、ホーマーはMAG溶接の治具を作りだした。
そこにSTAMに近い鉄パイプと、JSCっぽい材料で作ったブラケットをセットした。
これがどんな大発見だというのだろうか?
「次にロウ付け治具を作ります」
今度は同じパイプとブラケットを使い、ロウ付けをするための治具を作りだした。
「見てください。同じ形状の製品を作るのに、治具形状が違うんです」
ホーマーは興奮気味に治具を指さして俺に説明した。
確かに、見比べると溶接治具とロウ付け治具の受けの位置が違う。
当然だな。
「溶接治具とロウ付け治具の受けの位置が違うし、ロウ付け治具の方は受けのクリアランスが大きいんですよ」
ここで説明しておくと、ホーマーのスキルで作り出す治具は自動で最適化されている。
なので本人の経験が無くても、良品を作ることが出来るのだ。
今回もそれだな。
「ホーマー、溶接もロウ付けも同じように金属を接続するんだけど、熱が製品に与える影響が違うんだ。一般的にはどちらも歪みが出るとされているけど、ロウ付けは自然冷却してやると、入熱前の形状に戻るんだよ。だから、治具の形状も当然違ってくるんだ」
ロウ付けは伸びた分元に戻る。
ただ、伸びるのを抑えてしまうと、戻り量の方が多くなるから元の形状にならないのだ。
そのためクリアランスを大きくとって、伸びを規制しないようにしているのだ。
これが全ての材質や形状に言えるわけではないのだが。
熱で応力除去した場合はまた違うので、形状や工法によっても違ったりはするか。
何にしても、溶接とロウ付けでは治具の作り方が違ってくるのだ。
ついでに言えば、ブラケットは何も溶接やロウ付けだけが接合の手段ではない。
ブラケットをパイプに巻き付け、爪を折って加締めることで接合する方法もある。
この辺は自動車の配管をみてもらえば、それぞれの違いがわかってもらえると思う。
そして、全てに意味があってそうしているのだ。
ええ、意味があることなんですよ。
その割りには、最初の図面の記号がロウ付けになっているのに、途中からMAGに切り替わったりしたけど、図面がそのままなんてのもありますけどね。
関係者が誰もいなくなったら、どうしてそうなっているのか経緯がわからなくなるから、早いところ直した方がいいと思いますよ。
工程変更したときの受け入れ検査よくパスできるなって思っています。
という記憶が蘇りました。
転生してから随分と時間が経っているので、いまがどうなっているのかはわかりません。
溶接でいえば、アークからスポットに変更したりするときも、まあ色々とありますよね。
品管としては溶け込みの評価がいらないので、ロウ付けにしてもらえるとありがたいです。
どうせ設計なんて強度やら、なにやら気にしていないんだ(以下自主規制――
「塑性加工して、応力除去してない個所のロウ付けでもなければ、溶接程の歪は発生しないから、治具にこうやって差ができるわけだ」
「そうなんですね!」
ホーマーは納得してくれたようだ。
「今のところ、溶接を出来るのはホーマーだけしかいないけど、そのうちオッティが溶接機を作りそうなんだよな。その時は、ホーマーが講師になるかもしれないから、今のうちからキチンとした知識を付けておかないとな。スキルだけに頼った品質だけじゃなく、適正ジョブを持たない人でも良品を作ることが出来るように教える事を念頭に、これからは経験を積まないとな」
オッティなら間違いなく溶接機を作る。
そして、普及させようとするだろう。
そんなもんの品質管理なんかしたくないから、ホーマーに押し付け……
俺一人では手が回らないから、ホーマーにも成長してもらわないとな。
重保やそれに類する部品の溶接の品質管理ってすごく大変なんだよね。
誰だ、スポット溶接機の水を止めた奴は!!
しかも変化点がどこからなのかわからないとか、全部廃却じゃないか。
溶接ロボットが故障したから手で溶接した?
今から客先に謝りに行こうか!
なんて愉快な話を聞きました。
愉快じゃない話はもっと沢山ありますが、それはまた次の機会にでも。
尚、自分はJISの溶接資格を持ってなかったので、溶接は無免許運転でした。
資格が必要な仕事は、有資格者にお願いしてましたよ。
「そうそう、製品受け面へのスパッタやフラックスの付着が無いことの確認と、トグルクランプの確認は必須だから、必ず教育するように」
「はい」
ついでに始業点検でみるべき項目も教育しておくか。
スキルで作り出した治具はどうなのか知らないが、普通は製品受け面に付着物があると位置がずれる。
それと、トグルクランプは熱で駄目になりやすい。
量産ラインだと、一日で交換する場合もあるのだ。
設計が溶接の事を知らないと、レイアウト的に熱源の近くをクランプするしかなくなるので、そんなこともあるのだ。
そして、駄目になったトグルクランプはクランプ出来ていないので、寸法不良になるのは当然だな。
溶接治具を見ながら、他にも注意すべき点をホーマーに教えていたら日が暮れた。
それだけ溶接では大変な思いをしたって事ですよ。
※作者の独り言
溶接治具はノウハウの塊なので、あんまり詳しくも書けません。
色々と言いたいことはありますが、生産技術はもっと設計と話をするべきかと。
まずは溶接記号を修正するところからだな。
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