第320話 工場長?事業所長?
「ギルド長って一番偉いのか?」
俺が訊くと、オーリスは花瓶に花を活けている手を止めた。
「唐突ですわね」
振り向いて笑顔でこたえるオーリス。
今日もとても綺麗だ。
惚気ました。
「ちょっと前世を思い出してね」
「どんな風に?」
「今はオーリスがオーナーでありギルド長だけど、ギルドの運営を誰かに依頼すれば、その人がギルド長になるわけだよな。そのときに、食堂も宿も売店も受付も全部管轄するのかなと思ってね」
これは伝わりにくいかもしれないな。
ただ、前世ではよくあることだった。
大企業の工場または事業所には当然長がいる。
殆どは役員であり、工場組織の頂点だ。
ところが、中小企業ともなると事情は変わってくる。
工場長といいながらも、製造部長や製造課長みたいな位置付けだったりするのだ。
製造と品管の意見が対立した場合に前者だと工場長の鶴の一声で決まるが、後者だと品管部長と工場長の意見対立でいっこうに物事が決まらないとなる。
特に一族経営の小さな会社だと、工場長が社長の弟で、品管部長が社長の息子だったりして、凄く面倒なことになるのだ。
関わり合いになりたくないので、不良を納品しないでください。
作るなとは言いません。
「そんなの全部管轄に決まってますわ」
オーリスはそう答えた。
まあそれなら問題ないか。
「でも、ギルド長を雇うのであれば、経理部門は管轄下に置かないほうがいいのかしら。横領されたときに経理部門も管轄していると発覚しにくいですわよね」
「そうだね。冒険者から素材の買い取りや、報酬の支払い、依頼人からの依頼料の受け取りっていう日々のお金の出し入れはあるけど、それらの管理を任せるのは余程信頼できる人物じゃないと難しいよね」
工場長や事業所長じゃないけど、偉い人が会社のお金を横領したのがあったよね。
転生するときに会社名は忘れちゃったけど。
それとは逆に、経営状態が思わしくないときに粉飾決算やっちゃったりもするし。
とある会社がチャレンジしろって圧力かけたら、売り上げよりも利益の方が金額が大きくなっちゃったなんてのもありましたね。
どこの会社だったかは転生するときに忘れちゃったけど。
なので、お金はオーナーがしっかり管理したほうがいいと思います。
まあ、工場の組織図でいうと、営業だったり購買だったりは本社機能として位置しており、工場長の管轄外となっている事が多いですね。
それと品証も本社所属ってのが多かったな。
工場は品管。
そんなわけで、本社の連中が決めた協力メーカーがどうしようもない酷い会社でも、不具合が出た後の品質会議では品管が矢面に立たされるわけですよ。
工場長以下、各部門の偉い人達が出席するなか、そんなポンコツメーカーが対策になっていない対策を報告すると、「品管はどんな指導をしているんだ」ってなるのですが、どう考えても購買と品証が悪いんです。
取引するって決めたのは購買だし、最初の監査に行ったのは品証なんだから。
こっちは配られた手札で勝負するしかないんだぞ。
「子供でも出来たら、冒険者ギルドの運営を誰かに任せようかしら」
オーリスはそういうと妖艶な笑みを浮かべたので、今日のお話はここまで。
※作者の独り言
事業所長なんだけど、つい癖で「工場長」って言って訂正されるの恥ずかしいですよね。
よくやります。
あと、本社の組織なんなんって現場の声を聞きますね。
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