第319話 ドラゴンのブレス食らっても使える武器と防具って

 今日はランディが相談に来ている。


「ゴブリンが棍棒で攻撃してきたのを防いだだけで、盾が割れるなんて不良品だよ。ただ、俺だけで行くと不安だから、アルトも一緒に来てくれないか」


 彼にそうお願いされた。

 ランディの話を聞いたところでは、デボネアの店にあった、中古の盾が安かったので購入したのだという。

 その盾を持って冒険に行ったが、ゴブリンの攻撃を防いだときに、盾が割れてしまったから、返品して代金を取り戻したいのだという。

 相談窓口のカウンターには割れた盾が置いてある。


「これがねえ」


 俺はそれを手にとって、割れた箇所やその周辺を確認する。

 何となくだが、割れた原因はわかったのだが、どうしてこんなものが出来たのか、それを確認したくて、デボネアの店に一緒に行くのを承諾した。

 ランディは返金してもらえると喜んだが、果たしてそのようになるかは別の話だぞ。


「デボネアにガツンと言って欲しいんだけど」


 向かう道すがら、ランディはそう言うが、なんで俺頼みなんだよと苦笑した。

 話を聞けば、彼も最近は美味しい仕事にありつけず、資金繰りが苦しいみたいだ。

 そうでなければ中古の盾なんて買わないよとは、ランディの談である。


「デボネア、いる?」


 店に入り声をかける。

 すると、奥の工房の方からデボネアが顔を出した。


「アルトにランディか。何じゃ?」


「アルトがこの盾は不良だから、返金してもらった方がいいって言うから来たんだ」


 いきなり嘘をかますランディ。

 そんなの0.1μmも言ってないぞ。


「アルト、それは本当か?」


 デボネアがこちらをにらむので、全力で否定した。

 部品の不良で、納入メーカーに来てもらったときに、いきなりこうやって言う現場の人いるよね。

 まだ原因がハッキリしてないんだから、雰囲気を悪くするのは止めて欲しい。

 そして、そういう時に限って、自社の責任であると発覚することが多い。

 間に挟まれるこちらの身にもなってくれ。

 逆パターンもあるけどね。

 こちらが寸法を守っているのに、後工程の治具が寸法公差無視した厳しい作りになっていたとか。

 散々文句言われた挙げ句、悪いのが治具だったと発覚したとき、現場の人はどっかに逃げて、生産技術の人が謝ってくれたなー。

 そんなわけで、原因がハッキリするまで強気に出るのは止めよう。


「アルト、そりゃないぜ」


 ランディが情けない声を上げた。

 知らんがな。

 そんなランディにもわかってもらうべく、俺は今回の盾が壊れた原因を話す。


「まず、この盾が壊れた原因だけど、盾が硬すぎたことによるものだな」


「硬すぎ?盾は防具なんだから硬ければ硬いほどいいんじゃないのか?」


 ランディは納得できなそうだが、デボネアは頷いている。

 これは加工者ならわかっていることだからな。


「硬いってことは摩耗しにくいんだけど、一点に集中する衝撃には弱いんだ。たぶんだが、ゴブリンの棍棒の一部が尖っていて、それがたまたま盾に当たったのだと思うぞ」


 このへんは前世でも苦労した。

 金型の摩耗を考えて、硬い材質で金型を作成したが、今度は破損に悩まされるということになったのだ。

 製品が鉄みたいな柔らかい材質ならいいのだが、ステンレスのような硬いものだと、金型の摩耗も馬鹿にならないからな。

 柔らかめの材質で作った金型表面にチタンコーティングしたりもするのだが、コーティングがはげるのが頻繁に発生する。

 試作時のショット数だと寿命がわからないから、新規の材質って難しいですね。


「測定したところ、ランディのもっている盾はかなりの硬さだ。多分元からこんな硬さだと加工できないから、後から硬くしたんじゃないかな?デボネアには心当たりがあるかな?」


 俺がデボネアの方を見ると、彼は頷いた。


「おそらく焼きがはいったんじゃろうな。元々の持ち主はドラゴンのブレスに焼かれて死んじまったからなあ。仲間が水の魔法で直ぐに冷やしたが、間に合わなかったそうじゃ」


「加熱後の急冷か」


 デボネアの説明で納得がいった。

 ドラゴンのブレスによる高温で加熱したところに、水を掛けて急冷すればとても脆い金属が出来上がる。

 焼き入れも急冷するのだが、それには温度が重要なのだ。

 ある程度温度が下がった状態で冷やさないとクラックが入ることもある。

 それに冷却時間も適切でないと、靭性がないままの脆い金属となってしまう。

 俺が前世でバーナーであぶって油で冷却した金属は悉く折れてしまった。

 あんなもん、手でやるものじゃないな。

 おじいちゃん職人は上手くできていたけど……


「焼き入れされた硬いものが必ずしもいいとは限らないのか」


 ランディも解ってくれたようだ。


「それならせめて一言、言ってほしかった」


 彼は恨みがましそうにデボネアを見た。


「アルトに言われて気が付いたくらいじゃからな。お前さんに売った時は気づいてなかったわい。それに、自分で作ったものじゃないから、硬さなんてわからんよ。アルトのスキルがあってこそじゃのう」


 デボネアに言われてランディは肩を落とす。


「新しい盾を安く売ってやるから、それで勘弁じゃな」


「もう買う金がないんだよ……」


 デボネアの提案にランディは弱弱しくこたえた。

 そうだな。

 ランディは金が無いんだった。

 仕方がない、ここは一肌脱ぐか。


「よし、じゃあ俺がランディの盾を買うよ。その代金でデボネアから盾を買えばいい」


「え、だってこんな壊れた盾を買ってどうするの?」


 俺の提案にランディは目を丸くした。


「熱処理の参考になるからね。これをエッセとホーマーに渡して勉強させるさ。ドラゴンのブレスで焼きの入った盾なんてそうそうないからね」


 こうしてランディは新しい盾を買う事ができた。

 一件落着だな。




※作者の独り言

ドラゴンのブレスで焼きの入った盾とか、どうなるんでしょうかね?

ちょっと気になる。

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