第297話 設備屋時代の思い出
「お盆といえば、設備屋にいた時は休めなかったな」
引き続きグレイス領にて、鯛の養殖を観察しながら、前世の思い出が口から出る。
鯛が餌に群がり、水面が荒れて水飛沫がこちらまで飛んで来るのを手で避けながら、前世を思い出していた。
「工場が長時間稼働停止するのなんて、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆くらいだからな。俺も業者の搬入に付き合って休みは無しだったぞ」
餌をやるのを止めたオッティは、そんな俺の仕草を笑いながら見て、ひとしきり笑ったあとにそう言った。
オッティは業者の設備搬入と動作確認に付き合うので、長期連休はいつも出勤となっていたのだ。
これは日本中どこでも見かける光景だ。
レンタカーのトラックはこの時期逼迫するので、早めに予約をしておかないと大変なことになる。
自分も5t車をよくレンタルしては運転したものだ。
ガソリンスタンドに入るときに、間違ってバックギアにシフトをいれてしまい、後の車をびびらせたのは良い思い出だな。
排気量が大きかったから、運転するのは楽だったな。
高回転のスターレットは低回転トルクが無くて、常に2000回転発進だったから、比較するとかなり楽になっていた。
「設備の搬入で労災起こされると大変だったな」
「ああ、だから怪我をしたら工場から出て、車に飛び込めって言われたな。もちろん冗談だけど、それくらい客には迷惑をかけるなってことだったんだろうな」
「そうだ。なにせ死亡事故ともなると警察が入ってくるから、他の業者の作業も止まる。その結果、休み明けのラインも止めて、遅れた搬入業務をしなくちゃならないんだからな。車両メーカーで死亡事故を起こした設備屋は、その後指名停止になったんだぞ」
オッティの言う話は俺も聞いたことがある。
ただし、指名停止になっても、その設備屋しか出来ない仕事もあったので、別の会社の下請けという形で仕事は継続していたな。
汎用性の無い仕事なので、設備屋とか電気屋は転注しにくいってのはあるな。
某会社では、転注されるのを防ぐために、客の工場の電気配線の図面を作成せずに、社長の頭の中にだけしまっておいたというのがあった。
社長が急死したせいで、大混乱したと聞いたぞ。
まあ、見積りを出させて、それを他の業者に安くやらせるってのが横行したから、仕方がない部分もあるけどな。
なにせ、構想だけではお金にならないが、それでも手間はかかっている。
他人の構想があるなら、その分安く出来るから、構想が回ってきた業者は当然最初の業者よりも安くなる。
そんなことをやっているから、国内の設備屋が見積りを出すときに、曖昧な構想しか出さなくなるのだ。
そして、値段だけ見て海外に発注して、使い物になら無い設備を購入する羽目になる。
どこの会社とは言わないけどね。
「それと、設備の搬入では思いがけないアクシデントがあるな。そのお陰で、予備日も出勤になったぞ」
オッティが続けて言う。
そう、アクシデントは付き物だ。
ドリルの刃が折れたり、故障して動かなくなったりしたもんだ。
それなので、近くのホームセンターに工具を買いに走ることが何度もあった。
なにせ、商社と工具メーカーが休みになっているから、通常の仕入れルートが使えないのだ。
ボルトやナットも現合あわせだから、突然必要になったサイズが手持ちに無いとかもあったな。
そんな特殊なサイズも、ホームセンターには置いてあった。
ホームセンターの品揃えすごい。
工具ならまだ良いが、シリンダーの手配を間違っていたときは大変だった。
設計が間違っていたため、シリンダーを急遽変更する必要があったのだが、シリンダーメーカーが休みのため苦労した。
あの時の現場の慌てぶりといったら、蜂の巣をつついてもあそこまでにはならないだろうな。
結局、商社の社員の携帯に電話をして、同じ型番を売った会社から買い戻せないかお願いしたのだ。
奇跡的に入手できたのは、誰かの日頃の行いかな?
「今頃日本中で設備屋が仕事をしているかと思うと、頭が下がるな」
そう言う俺に、オッティは首を横に振った。
「俺たちにはお盆休みが無いんだぞ。というか、異世界は働きすぎだ。週7日で休みは1日だけ。祝日は収穫祭と新年のみだ。労組があったら国王があの時の部長みたいに吊し上げ食らっているさ」
異世界にも週休2日を!
※作者の独り言
自分が子供の頃は土曜日は半日学校に行ってました。
親も仕事だったかと思います。
いつの間にか週休2日になれてしまいましたが、元々はそんな感じでしたね。
自営業者は今でも休みは少ないですね。
自動車業界では、ディーラーの休みが少なくて、年間休日100日を切っていたかと思います。
最近だと、お盆でもディーラーは営業していますね。
みんなが休まなければ、設備の仕事で調達で苦労することもなかったのに!
あ、でもそれだとラインが止まらないから、設備を搬入出来ませんね。
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