第298話 8Dレポート

 魔王の影響で社会が混乱し、反社会的組織が跋扈してきた。

 因みに、跋は越えることを意味し、扈は竹やなを意味する。

 跳梁跋扈はどちらも梁を魚が飛び越える様を現しているのだ。

 無智蒙昧位に同じ意味を並べている。

 いや、ここは不良NGとすべきか。

 そんな反社会的組織がステラにも盤踞しており、その対応の依頼が冒険者ギルドに出ていた。

 依頼主は国だ。


「今問題になっているのは、不良品を安く買い集めて、廉売している連中ね」


 シルビアが忌々しそうに言う。

 ん、それってアウトレット品じゃないのか。

 それを安売りするのが犯罪になるのかな?


「それって違法なの?」


 そう質問すると、シルビアは頷いた。


「かなり昔の国王が、不良品をわかっていて売ったら犯罪だって言ったのよね。なんでも、馬鹿には見えない服だと言われて、大金を詐欺師に騙し取られたのよ。それが悔しかったみたいね」


 裸の王様か!

 こんな文明レベルの世界では、キチンとした立法機関など存在せず、また、法律も明文化されていないから、調べようもない。

 それなので、貴族が勝手に法律だと言えば、庶民はなにも言い返せなくなってしまうのだ。

 ヨーロッパでも、法の明文化を要求した運動だか、革命がありましたね。

 立法は王侯貴族の特権なので、それを要求したら反逆罪とかになりそうだな。


「折角、品質意識が澎湃として起こったのに、それに水を差すような犯罪行為は取り締まらないとね」


 シルビアは息を巻く。

 澎湃たる品質意識など感じたことはなかったが、どの辺に起きたのだろうか?


「アルトは自覚がないのよ。今じゃ賢者の学院でも8Dレポートを使った、品質管理の研究がされているのよ」


「8Dレポート!?」


 8Dレポートとはフォードが開発した問題解決ツールで、不具合を出すと書かされる奴である。

 どこの会社でも、これに似たような再発防止対策書をISOやIATF16949の書式として持っている。

 8DとはEight disciplines problem solvingの略で、

 D1 チーム作成

 D2 問題の定義

 D3 暫定対策

 D4 根本原因

 D5 是正処置

 D6 是正処置の検証

 D7 再発防止

 D8 完了

 の構成になっている。

 D8はチームの賞賛とか言われているが、8Dレポートのチームなんて存在せず、品管だけで仕上げるものだし、怨嗟はあれど賞賛などない。

 こんなツール使っても、再発するしね。


 いつの間にそんな無駄な研究を始めていたんだ。

 いや、無駄にしているのは無能な組織だな。

 ツールが悪い訳じゃない。

 それと、おぼろげな記憶だが、サイノスとお酒を飲んだときに、8Dレポートの話をしたような気がする。

 だとしたら、俺がお勧めしてしまった可能性が高いな。


「それだけ社会が品質管理に目覚めたという事よ。それなのに、使用上は問題ないからと言って売っている連中の意識の低さと来たら!」


 シルビアの言葉が胸に刺さる。

 使用上問題ないから、外観不良でも流しちゃえっていう、悪魔の囁きが前世では何度も聞こえた。

 精神抵抗ロールに失敗していたらやばかったな。

 内緒で出さなくても、特別採用申請というものがある。

 使えなくはないが、要求品質を満たしていないので、安く買っても良いよという制度だ。

 何度も書いたので、お腹一杯です。

 そんな部品を使っているのに、完成車両が安くならないのはおかしい!

 とは口が裂けても言えません。

 使ってもらえないと、客先のラインが止まっちゃうしね。

 そんなわけで、反社会的組織に親近感がわく。


「シルビア、それはそんなに悪いことなのかな?魔王の影響で収入が減った人もいるだろう。そんな人たちが前と同じ値段で購入できるとも思えない。ここは見逃してやっても……」


「ダメよ!そのせいで、本来買ってもらえたはずの職人の収入がなくなっているのよ。そうしたら、今度はその職人たちも廉売にはしるわ。デフレスパイラルよ」


 デフレスパイラルという言葉は存在するのですね。

 勉強になりました。


 俺は心のなかで、アウトレット品廉売反社会的組織が、うまく逃げ延びてくれることを祈った。



※作者の独り言

8Dレポート辛い……

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