第275話 気をつけろ寸法不良を誤魔化すぞ

異世界にネジを伝える話は結構見かけますが、世界中で同じ規格をつくらせようとするなら、ネジゲージは必須ですね。

刃物が摩耗するので、ネジが規格を満足しているかどうかは、ゲージで確認しないと品質は管理出来ません。

当然ネジゲージも摩耗するので、世界規模でどうするのか気になりますね。

僕のお薦めは、異世界ならではの摩耗しない刃物を登場させることです。

これならゲージもいらない。

下穴径のばらつきとかもあるので、ゲージはやっぱり必要かな?

現代知識でチートって難しいですね。

それでは本編いってみましょう。



「ねえ、アルト」


 そう呼び掛けるグレイスは紅潮した頬を俺に近づけた……

 こんにちは、団鬼ゴムです。

 真面目にやります。


「何?」


 俺は机の上の図面を確認する作業を止めて顔を上げる。

 今日はオッティに呼ばれて図面のDRに参加しているのだ。


「なんでノギスがあるのにマイクロメーターが必要なの?」


「よくマイクロメーターなんて単語を知っていたね」


 グレイスがマイクロメーターを知っていることに驚いた。

 スキルツリーの未習得スキルにマイクロメーター測定があるのだが、グレイスが知るはずもない。


「昔付き合っていた男がプレゼントしてくれたのよ。大好きだったけど彼女がいたなんてね。あの人が私にくれたもの、校正してないマイクロメーター」


 なんとなく気まずい雰囲気になってきたのは、グレイスの昔話だけではないと思う。


「で、なんでノギスがあるのにマイクロメーターが必要なのよ」


 グレイスは話をもとに戻した。


「ノギスは測定誤差がマイクロメーターよりも大きくなる可能性があるんだよ」


 そう答えた。


「どうして?」


 グレイスが興味津々に訊いてくる。


「測定物は変形するんだ。フックの法則やヘルツの式っていうのがあってね。まあ、簡単にいうとノギスを強く当てれば製品は変形するよね。マイクロメーターはラチェットストップっていうのがあって、力強く締め込めないようになっているんだよ」


 ※実際にはシンブルを思いっきり回す事で、測定物を変形させる事が出来ます。

 ※ラチェットストップ以外の構造もあります。


「じゃあ、ノギスを軽く当てればいいじゃない」


「そうなんだ。でも、検査員の中には、涼しい顔をして思いっきりノギスを締め込む奴がいるから、マイクロメーターで測定させる方がいいんだよ。アッベの原理っていって、『測られるものと標準尺とは、測定方向において、一直線上に配置しなければならない』っていうのがあるんだ。これは、本尺に対して、ジョウが斜めになる現象を言ってるんだよ。基本的には径が小さく表示されるからね」


 ノギスを力強く締め込むと寸法が小さくなるのはこれもあるよね。

 アルミなどの柔らかいものではなく、ステンレスなどの製品でも小さく測定できるのはこれのお陰でだ。

 受け入れ検査で寸法不良を見つけて、呼び出したメーカーが、平気でそういう測定をしてくれるので、流石に騙されなくはなった。

 寸法を誤魔化すのは他にもやり方がある。

 マイクロメーターであれば、本体のフレームを暖めて、寸法を誤魔化すやり方だ。

 人の体温程度でも0.01ミリ位は誤魔化せる。

 他にも脱脂しますと言って、スプレータイプの溶剤を噴霧して、気化熱で寸法変化をさせるのだ。

 ここで書いたからには、自分でやるつもりはない。

 測定がまともに出来ないとなると、対策書に書く内容が増えてしまうからだ。

 ノギスやマイクロメーターでの誤魔化しなんて、例えるなら引き出し昆布位に下っ端でも出来る技だ。

 本当に表に出せないのは、もっと別にある。

 ベテランの品質管理ともなると、三次元測定機や検査治具での誤魔化しが出来るようになる。

 らしい…………


 客の目の前で不良品を良品に見せるのは、マジシャンと言っても過言ではない。

 実際は詐欺師だが。

 絶対やめようね。

 どんなに極めても、QC検定では出てこないし。

 「客先の経験不足の品管を騙すなんて、赤子の手を捻るより簡単」とか自慢されましても。

 僕は誤魔化しなんてしたこと無いからわからないけどね!


「なんで測定の専門家が測定値を嘘をつくのよ」


 グレイスは理解できないといった風だ。

 返す言葉もない。

 お前ら何で誤魔化そうとするんだよ。



※作者の独り言

誤魔化す人は嫌いです。

どうせばれるんだから、素直に認めた方が傷口が小さくて済むのにね。

と、思いますが、磨耗したネジゲージやいい感じで壊れたマイクロメーターが呼び出された時用に準備されています。

 一番のファインプレーは、客先でしらばっくれてハンマーで叩いて修正したことでしょうか。

 っていう昔話を聞きました。

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