第273話 絶体絶命 後編

前回までのあらすじ。

磨耗した金型では寸法がでないため、急遽焼き入れ無しの金型をつくることになった俺たちは、客先のラインを止めないためのタイムリミットとの勝負になった。

小説投稿サイトはお前の日報じゃない。

それでは本編いってみましょう。



 クレスタと名乗る魔族が目の前に現れた。


「副官?」


「そうだ。このステラ攻略の全権を任されている」


 なんと羨ましい。

 不具合対策の報告に行っても権限がないから、金のかかる事を約束出来なかった俺とは大違いだ。


「何故ステラを狙う?こんな辺境を攻めるくらいなら、もっと大きな処を狙えばいいだろ!」


 迷惑なんだよ。

 監査だって、もっと不良を出しているメーカーに行けばいいのに。

 弊社がワーストですか?

 申し訳ございません。


「ここのダンジョンコアに用があるのだよ」


 あっさりと機密をばらしてくれた。

 おだてられると直ぐに企業秘密を喋っちゃう部長か!


「包囲なんていう面倒な事をしなければよいのに!」


 その意図も不明だ。

 力任せに攻めてくるかと思ったが。


「無駄に戦力を消費したくないのだよ。だから、周辺で騒ぎを起こして、優秀な冒険者を排除したのだ」


「まんまとのせられたわけね」


 シルビアが悔しそうな素振りを見せる。

 クレスタはなかなかの策士だな。


「ここはやはり、なぜなぜ分析で今回の失策の対策を考えようか」


「そうね」


 俺はシルビアと一緒になぜなぜ分析を始めた。


「戦力が足りなくて包囲されても対抗出来なかったが発生源かな」


「そうね。包囲に気がつかなかったのが流出?」


「そうしよう。まずは発生源からだね。対抗出来なかったのはなぜ?」


「戦力が不足していたからよ」


「なぜ戦力は不足していたの?」


「冒険者を排除されたから」


「駐屯する軍がもっと多ければ、冒険者は必要ないんじゃないかな?」


「そうね。そもそも根無し草の冒険者を都市防衛の頭数にいれるのは間違いね。魔王が復活した時点で、軍事力を増強しなかったのが原因だわ」


「そうなると、こんな現場レベルのQRQCじゃ対策は無理だな。国家としてどうするかを考えてもらわないと」


「そうね。国家の仕組みから見直す対策が必要だわ」


「お前ら、俺を無視するな!!」


 シルビアとなぜなぜ分析に夢中になっていたら、相手にされなかったクレスタが怒り出した。


「うるさい!あんたがこんなことをしなければ、QRQCなんてしなくて済んだのよ!」


「シルビアの言うとおりだ。倒してやるからさっさとこっちへこい」


 クレスタは空中に浮いているので攻撃できない。

 いや、出来ない訳じゃないな。

 スキルツリーを見ると色々出来る。

 だが、一発殴らないと気が済まない。


「バカめ。圧倒的に有利な遠距離の攻撃をするに決まっているだろう」


 クレスタの指先に火球が出来上がる。


「これはメラゾーマではない。メラだって奴かな?」


 火球を見てワクワクする。


「アルト、この世界にはヒャダインもメラもいないわよ」


 シルビアに怒られてしまった。

 いないわよってなんだろう?

 ヒャダインとかメラは魔法の名前であり、決して人名ではありません。


「なんだかわからんが、死ねい!」


 ファイヤーボールを撃ち込もうとするクレスタに、俺は断斜面補正スキルを使った。

 ファイヤーボールを現在の位置に固定し、クレスタは俺とシルビアの目の前に強制移動して固定した。


「なんだと!?」


 驚いて目を見開くクレスタ。

 拳の届く範囲に来たので、思いっきり振りかぶって殴りかかる。


「お前だけツアラーVが無いんだパーンチ!」


 鈍い音をたてて、拳がクレスタの顎を撃ち抜いた。


「アルト、とどめは任せて!」


 シルビアのソードによる一撃が、クレスタの致命傷となった。

 指揮官さえいなくなればあとは烏合の衆と言いたいが、こちらにはわずかな軍隊と等級の低い冒険者が少しだけだ。

 とてもではないが、一万はいようかというモンスターの群れと戦えない。


「まったく、仕事がなくてベテランの派遣社員がいなくなって、突然生産が回復したら不慣れな新人ばかりになるとは、リーマンショックで何を学んだのかねえ」


「アルト、眉間にすごく深いシワが出来ているわよ」


 シルビアが心配そうに俺を見る。

 そう、それはまるで大流行の病で止まっていた生産が、急遽回復して注文が増えたのだが、殆どのラインで新人作業者がいるような、不安定な生産を危惧するかのような不安があったのだ。

 時間給の派遣社員は、仕事がなければ他に移ってしまう。

 新しく来た派遣社員は教育が必要なため、即戦力にはならないのだ。

 むしろ、ベテランの社員がダブルチェックに回るから、生産性は落ちてしまう。

 不良も多発しそうで、品質管理としても胃が痛くなる。

 新人ばかりでどうしろと。


「アルトがモンスターに帰還命令を出す作業標準書を作れば?」


「その手があったか」


 作業標準書(改)のスキルで、モンスターに帰還命令を出せるようにした。

 そしてそれを実行し、ステラの包囲を解かせる。

 一件落着だ。

 オーリスの元に戻り、事の顛末を報告する。


「オーリス、ちょっと会議室を借りるわよ」


 シルビアはオーリスの許可を取ると、俺をつれて会議室に入った。


 そして――


「アルトそこ気持ちいい。もっと強く刺激して」


 快感に上気するシルビア。

 俺はシルビアのおとがいに手を掛けると、クイッと上にあげた。


「あっ」


 驚いたシルビアのからだがビクンと反応した。


「もっと強い刺激が欲しいのか?」


 俺はシルビアを睥睨した。

 シルビアの頬はますます上気して赤身を増す。


「もっと。お願いもっと」


 そう訴える彼女の瞳は、恍惚の光が宿っていた。


「何をしているのですか!!」


 二人だけの会議室に、突然入ってきたのはオーリスだった。


 どうも、団森六ことアルトです。

 H系の文章を書きますが、H系のティア1メーカーとは関係ありません。

 関係者にチクるのはやめてください。

 二度とあの工場に行けなくなってしまいます。

 話がそれましたね。


「何って、アルトの振動試験スキルでマッサージをしてもらっているのよ。ちょっと露出が多いから、こうして会議室を借りたんじゃない。やましいことなんて無いわよ。戦って疲労しているんだから、マッサージは当然よ!」


 マッサージを途中で邪魔されたシルビアは不機嫌になってしまった。


「紛らわしい発言をするから悪いのですわ!アルトもそんなスキルがあるなら、私に使ってくださる!」


 折角ステラを救った報酬を貰ったのに、今回の件でオーリスに没収されてしまった。



※作者の独り言

助けて。

●六には内緒で。

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