第267話 スキルの秘密

今日は冒険者ギルドの内部研修で、なぜなぜ分析について会議室で講義をしている。


「今までの対策を見て貰ってわかると思いますが、なぜなぜ分析は真因を探るために、なぜを繰り返していきます。逆から辿っても不良にたどり着くようにつくりましょう」


 ここにいるのは、ジューク、ミゼット、ギャラン、ブレイドだ。

 正直、ミゼットはもう教育はいらないんじゃないかな。


「具体的な事例を出してやっていきましょうか。ポーションの高級と中級を間違って販売した時を思い出してください」


 懐かしいな。

 冒険者ギルドに来た頃のトラブルだ。


「対策前はポーションの容器は全て同じで、色を見れば違いがわかると思っていたんですよね」


 ジュークはあの時、色を見れば違いがわかると言っていたんだよな。


「この事例で悪いなぜなぜ分析の例を紹介すると『等級を間違った>色を見ていたから』となります」


 やりがちだよね。

 これを逆から読むと「色を見ていたから等級を間違った」となる。

 色を見ているから間違ったのなら、色を見なければよいとなってしまうので、これは真因までは繋がらない。


「色を見ていたからじゃないのか?」


 ブレイドが質問してくる。


「その前に、等級を勘違いしたから間違ったというのがあります。そして、勘違いの理由は容器が同じだったからですよね」


「それで、容器が同じだった理由で『色を見ればわかるので同じ容器でいいと思っていた』ってなるの」


 ミゼットがブレイドに解説をした。

 やはり、ミゼットがいれば俺はいらないな。

 そんな感じで、過去の実例を使いながら説明を行い、講義は無事に終わった。


「アルト」


 会議室を出ようとしたらミゼットに呼び止められた。


「何?」


 もう教えることなど無いのだが。


「何で品質管理のジョブになぜなぜ分析がないの?」


「その事か……」


 その事に気づいてしまいましたか……


「それはね、仕事の息抜きで書いている小説で、真因を特定するスキルを使って問題を解決したとしよう」


 ミゼットはうんうんと頷く。

 早く続きが聞きたそうだ。


「なぜなぜ分析で必ずしも真因にたどり着けるものでもない。本人がこれだと思っても、他人から見たらそれは違うってなるだろうね。コメント欄でなぜなぜ分析の間違いを指摘された日には、仕事と小説のダブルのダメージだ。だから、スキルじゃなくて、経験で対策を考えているんだよ。間違ったとしても、それは人間だもので済むから」


 でも、ひとから借りたお金を返さないのは人として屑ですね。

 人間だものじゃねーよ。


 ミゼットがキョトンとしている。

 だが、構わずに俺は続ける。


「他人がこんなの書いていたら、なぜなぜ分析の間違いを指摘するどころか、FTAとFMEAの描写も要求するし、なんなら工程保証度評価もやるべきだとかコメントしちゃうな。なぜなぜ分析だけで対策が終わるわけじゃないから」


「よくわからないけど、神様も大変だね」


 そうですね。



※作者の独り言

他人の小説に突っ込むのは、突っ込まれていい覚悟があるやつだけだ。

他人の書いた対策書って、悪いところが簡単に見つかるよね。

自分の書いたやつなんて、夜中の2時くらいに完璧だって思うんだけど、翌日見直すと酷いよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る