第266話 めっき治具

異世界転生、現代知識チートの定番電気めっき。

最近読んだ小説では、水車で発電した電気を使って、電気めっきをする話がありました。

金めっきのようでしたが、めっき液はどのように用意したのでしょうか?

その辺の描写がなかったので、非常に気になります。

金を溶かすの大変そうですね。

めっき液なんて商社に頼めば入ってくるので、異世界に行ったら自分でめっき液を造ることは出来ないだろうな。

亜鉛めっきだと、弱酸性の溶液で出来るのは確認しましたが、何せ金だしなあ。

オッティが作り出した金めっきのラインは、脱脂工程から槽が用意してあり、最後は乾燥までキチンとできます。

めっきの槽はステンレスと樹脂のどちらでも用意出来る裏設定。

めっき液もスキルで調達。

さて、読んでいた書籍ではめっき液を入れる槽の材質はなんでしょうかね?

鉄だと腐食するし、土か何かで造るのですかね?

廃液の処理も大変ですよ。

川に流すと魚が浮いてきます。

しかも、石像に金めっきとか台詞があったので、流石は異世界と感心しました。

電気めっきの金めっきを石像に施すことが出来るの、異世界ならではですよね。

無電解ニッケルのストライクが出来るのなら、その上に金を無理やり乗せることが出来るのかもしれませんね。

樹脂にもめっきが出来るのですから、きっと石にだって出来ると思います。

今度、無電解のラインに石を入れてみようかな?

いや、電気めっきで再現しないと意味ないか。

まあ、雰囲気的にはストライク処理無しで、いきなり金めっきっぽいんだよな。

膜厚はどの程度を狙っているのだろうか?

そういえば、異世界にめっきを持ち込む話って、決まって電気めっきですよね。

無電解は何で出てこないのかな?

おっと、そんな話で700文字を越えてしまった。

それでは本編いってみましょう。



 今日はオッティに呼ばれて、グレイス領のめっき工場に来ていた。

 酸の溶液が放つ、酸っぱい匂いは独特の味があるな。

 生まれ変わったら、絶対にめっき工場で働きたくはない。

 しかも、国内で新規の免許が交付されないもんだから、みんな海外に新しい工場を作っている。

 行きたくないから他の仕事を探すぞ。

 品質管理の方が5倍はましだ。


 そしてついたのはアルマイトのラインだ。

 ボイラーで沸かしているお湯の湯気が、周囲の湿度を上昇させている。

 そのせいでじっとりとした汗が滲んでくる。

 近くに置いてあるシンナーの臭いも、蒸気にのって上がってくるので、とても気持ち悪い。

 何でアルマイトのラインにシンナーがあるのかだって?

 それは塗装の剥離のためだ。

 アルマイトというのは電気をアルミの製品に流してめっきを行う。

 電気が流れる線を製品に密着させるため、その部分にはアルマイトの処理が出来ないのである。

 そのめっき出来ていない箇所をタッチ痕と呼んでいる。

 ところが、設計者はアルマイトの着色が出来ていないのは、図面通りではないから不良だと言ってくるのだ。

 めっきじゃどうにもならないから、めっき後にその箇所を塗装するのである。

 何らかの理由で、アルマイトの再処理を行うことになった場合、通常の剥離処理の前に、塗装の剥離をシンナーを使用して行うのだ。

 そんな設計者は無能なので、すぐに会社からいなくなるのだが、図面が改訂されないので、後任者もタッチ痕を認めてくれない。

 そしてまた消えるの繰り返し。

 辛い……


「じゃあ、今日は講師のアルト先生に、めっきの治具構想について教えて貰いましょう」


 オッティが生徒たちに俺を紹介した。

 そう、今日の目的はオッティの生徒たちにめっきの治具構想について講義することだ。

 そんなもんオッティがやれよと言ったのだが、前世じゃめっきなんてやってなかったから、経験がないとの事。

 今ある治具はスキルが自動で最良のものを作り出すので、教えることが出来ないというのだ。

 それなので俺が過去の不良から学んだ治具のあるべき姿を教えるというわけである。


「まずは、空気とめっき液をどうやって抜くかです」


 そう言って講義を開始した。


「空気を抜くのは、めっき液が空気の泡によって、製品につかなくなるからです。めっき液を抜くのは、めっき後にめっき液が製品に付着していると、製品を溶かしてしまうからです。空気は上から抜けて行くのに対して、めっき液は下から抜けるので、これを両立させなければなりません」


 これが厄介なのだ。

 抜ける方向が上下逆なので、製品を治具につける姿勢を工夫しなければならない。

 袋穴に入った空気をうまく抜かないと、それがめっきの最中に出てきて、化学反応を止めてしまうのだ。

 全部貫通穴にしてください……


「次に、製品が極力揺れないようにしてください」


 これには二つの理由がある。

 一つは揺れることにより、槽内で製品同士がぶつかり傷になる。

 もう一つは、揺れることでリード線が製品から離れてしまい、その時に皮膜を作ってしまい、その後は電気が流れなくなるからだ。

 アルマイトには絶縁効果もあるのだが、そんなもん電気めっきの敵だ。

 皮膜は凡そ1μm程度しかつかないのだが、そこで化学反応が止まってしまう。

 兎に角揺れは大敵だ。

 槽内を循環させているのも、不良につながる要因だが、循環させないとそれもまた不良になる。

 そんなこと気にしなくても、良品しか取れない異世界転生すげえ。


 そんな感じで講義が進み、オッティがスキルで作り出した治具を使って実践も交えて解説をした。

 これで将来めっき不良に悩まされる人が減るといいな。



※作者の独り言

タッチ痕不可の設計者は異世界で設計していたらいいと思うよ。

異世界のめっきはこっちよりも進んでいるから。

あと、膜厚誤魔化してくる業者は死ねばいいと思います。

電気めっきは製品の端部に電気が集中して、そこが他よりも厚くなるので、色々と注意が必要ですね。

塩水噴霧試験で性能未達になると大変ですよ。

何がとは言いませんけど。

それと、設計者でも金めっきの膜厚しらない人が多くて、とんでもねー膜厚指定してきますよね。

異世界転生小説の知識で図面描いてるんじゃねーかってくらい酷い。

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