第258話 見逃しOK

最近一部の業界で有名になってきた本作品。

「どこも似たような状況ですね」と聞くたびに、「弊社ですけど」って言いたくなる衝動にかられています。

それでは本編いってみましょう。


 今日はカイエン、ナイトロ、カンチルの三人が相談に来ていた。


「荷物の積み込み時に、ペール缶の底を軽くぶつけて凹ませちゃったんだけど、この傷って問題ないかな?」


 相談内容は商品のペール缶に少し傷をつけたというものだった。


「見せてもらえる?」


 俺はペール缶を受けとると、外観を確認した。

 確かに底の部分が少し凹んでいる。

 ホーマーから受け取って、荷主のアトムに届ける仕事を受注したらしいのだが、そのなかでの出来事なんだとか。


「まあ、使えなくはないが、判定しろと言われるとNGだな」


 俺の言葉にガックリと肩を落とす三人。

 俺は更に続ける。


「ただし、君たちは今日はここに来なかった。俺は今日は誰の相談にものってない。それならこの傷は君達の判断でOKでいいんじゃないかな?」


 回りくどい言い方になったが、つまりは傷を見逃してしまえというアドバイスだ。

 「見逃しOK」というやつだな。

 最近では客先で見つかると不良にカウントされ、対策書だったり、重点管理メーカー指定だったりがあるので、そんな事はやってないのだが、昔はよく聞いた話だ。

 「昔は良かった」ってやつだな。

 機能的に問題にならない傷なんて、出荷してしまえという雰囲気があったとか。

 流石にやったことはない。

 年寄りの自慢話で聞いた事があるだけだ。

 いまだにやってる会社ある?


「頼むよ、アルトの名前で問題ないって一筆書いてくれよ」


 カイエンが泣きついてくる。

 こんなものを品質管理部長名で問題無しとか書いたら、品質管理部長を解任されちゃうじゃないか。

 妻が懐妊、旦那解任なんて綺麗に韻をふんじゃうぞ。

 懐妊してないけど。


「俺が書くなら不良ってなるぞ」


「じゃあ俺たちがアルトの署名を偽造するのは?」


「犯罪です!」


 何てことを言い出すんだ。

 この世界であるのかはしらないが、前世だとあったな。

 知らないうちに押印されていたりとか、測定してもいないのに俺の名前で成績書が出来上がっていたり。

 大問題にならなくてよかった。

 ※この物語はフィクションです。


「どうする?今すぐここを立ち去れば、なにも無く君達の仕事は終わる。それとも、俺のお墨付きの不良品を買い取るか?どちらでもかまわんよ」


 その言葉でカイエンたちは諦めて引き下がった。

 尚、ペール缶は販売されて、今もこの国のどこかで問題なく使用されているだろう。

 使ってるうちに、今回の傷よりも大きな傷もつくだろうし、過剰品質なんだよな。


 俺が買った奴に同じ傷がついていたら許さないけどな。



※作者の独り言

老人はなぜ「見逃しOK」を自慢してくるのだろうか?

流石にそんな冒険出来ないぞ。

検査員が見つけてくれたので、修正するか廃棄するかで、出荷するような事はしていません。

本当だよ。


冒頭の話ですが、突然更新が無くなったらお察しください。

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