第256話 無理な事はしないで
今日はオーリスと一緒にお皿を買いに出掛けている。
俺はドワーフの陶工が作った皿は小砂焼のような瀟洒な出来がいいなと思ったが、オーリスはもっと派手なものがよいというので、九谷焼のような絵皿をいくつか購入することとなった。
皿が割れるといけないので、収納魔法でしまいこみ、店の外に出るとシルビアが歩いていた。
手には花束を持っている。
「まさか、告白されましたの?」
オーリスは俺に小声で耳打ちする。
「どうかな?ドラゴンスレイヤーの騒ぎが落ち着いてからは、告白されることも無くなったみたいだけど」
告白されるのではなく、告白するのであれば花束を持っていくのはおかしいよね。
「尾行してみましょう。アルトならシルビアが気がつかない距離で尾行できますかしら?」
オーリスの野次馬欲求に俺も乗った。
ちょっと気になるからな。
「街の外れまで行きそうですわね」
尾行をしていくと、シルビアはどんどん街の中心部から遠ざかって行く。
「あっちは墓地くらいしかないぞ」
「お墓参りかしら?」
「墓地で決闘ってこともあるかもしれないけど……」
シルビアはそのまま墓地へと入っていく。
俺とオーリスは無言で見つめ合うと、黙って頷いた。
墓地の中に入って尾行を続ける。
シルビアはとある墓地の前で止まると、花束を備えて祈りを捧げた。
「こっちー」
運悪く、後ろから来た子供が大声で親を呼んだ。
シルビアはその声に反応してこちらを見る。
「気づかれたな」
「ええ」
シルビアと目があったので、今から隠れるのは悪手だ。
ここは誤魔化すしかないな。
祈りを終えたシルビアがこっちにやってきた。
「二人でこんなところで何しているのよ?」
シルビアが訝しげな視線を投げてくる。
「オーリスと一緒に入るお墓を見に来てね。まさかシルビアがいるとは思わなかったよ」
俺の話にオーリスが頷く。
「そう。まあいいわ」
シルビアは納得いかなそうな口吻だが、それ以上は訊いてこなかった。
「シルビアこそ何でこんなところに?」
そう訊ねると、彼女は空を仰いで深く息をはいた。
「ガゼール兄さんの命日なのよ」
「「兄さん……」」
俺とオーリスがハモる。
しまった、重たい話になりそうだ。
「あたしが冒険者になりたてのころ、ガゼール兄さんと一緒にパーティーを組んでいたわ。ある時、迷宮で全然モンスターに遭遇しなかったから、もっと下の階層に行ってみようってあたしが提案したの。兄さんは反対したけど、他の仲間も下の階層に行くことに賛成してくれたわ。結局多数決で押しきって、下の階層に行ったのよね」
シルビアは再び大きく息を吐いた。
「結果、自分達の実力じゃどうにもならないモンスターに囲まれて死を覚悟したわ。その時ガゼール兄さんが『俺が囮になる』って言ってモンスターの注意を引いてくれたわ。仲間と一緒にモンスターの気が逸れた隙に逃げ出したけど、それが兄さんとの最期の別れになっちゃったのよね。死体は見つからなくって、遺品は冒険者登録証のみだったわ。このお墓にも兄さんはいないんだけど、花を手向ける場所くらい欲しいじゃない」
話の内容に、俺とオーリスは言葉が出なかった。
彼女に何と言葉をかけていいのかわからなかったのだ。
「やっぱり身の丈にあった事からはみ出しちゃ駄目よね。あの時アルトがいてくれたら、きっと下の階層に行くのを止めてくれていたと思うの。自分の無知と慢心が――」
そこでシルビアは堪えきれず泣き出した。
オーリスがシルビアを優しく抱き締める。
俺?
オーリスにつけられた指輪の効果で何も出来ませんよ。
シルビアは落ち着いたところで、恥ずかしくなったのか、顔が真っ赤になっている。
「私達もお兄様のために祈らせて下さい」
オーリスはシルビアを促し、ガゼールの墓石の前に移動する。
今度は三人で祈りを捧げ、彼の冥福を願った。
※作者の独り言
やったことない工法の量産を受注するのは止めよう。
会社のリソースを大量につぎ込んでの敗戦処理。
弊社のインパール作戦。
止まらない不良と縮まらないサイクルタイム。
これが戦場や冒険だったら間違いなく死んでる。
残業時間見ると過労死出るかも知れないけど。
っていうことありますよね。
不良に対してなぜなぜ分析をすると、ノウハウも無いのに受注に前のめりって出てきます。
ふざけた話のひとつも入れようかと思ったけど、思いの外、重たい感じになったので、そのまま終わりました。
そうそう、ガゼールといえば西武警察!
当時の日産良かったなー。
決算が大赤字ですが、立ち直って欲しい。
シルビアは双子の妹180SXもいる設定です。
もはや人名じゃないけど。
真子と沙雪のどっちかです、多分。
こんな話をどこにいれていいのかわかりませんでした。
最終回迎えた後に毎日更新してますね。
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