第242話 作業着での外出禁止

 最近は夜でも暖かくなり、ステラの街では暗くなってからも屋台が営業している。

 夜ともなれば、当然お酒の提供があり、そこでは酔客がみられた。

 そんな酔客の構成員が俺とスターレットだ。


 いつもならシルビアと飲みに出るのだが、今日はシルビアはプリオラと一緒に隣街までサッカーの試合に行っており、ここにはいないのだ。

 一人で出ようかと思っていたら、迷宮から帰ってきたスターレットに偶然出会い、一緒に屋台に行こうとなったのだ。

 二人して冒険者ギルドから屋台に直行である。

 夜風が運ぶスターレットの汗の匂いが俺の鼻に届く。

 どうして女の子の汗の匂いって嫌じゃないのだろうか?

 前世では白血球が関係していると聞いたが、異世界でも一緒なのかな?


「なに考えているの?」


 どうやら変な顔をしていたようで、スターレットが不審がった。


「前世じゃ仕事が終わったら、着替えてから出掛けるようにっていわれてねえ」


 そう誤魔化すと


「面倒ね」


 と彼女は笑う。

 実際は笑い事じゃないんだけどな。

 会社の作業着で飲みに行くのは当然、買い物ですら禁止だ。

 厳しい会社では、作業着での通勤も禁止となっている。

 電車やバスでは仕方ないが、乗用車通勤ですら禁止なのである。

 部品メーカーがそこまで気を遣っているのに、高速道路のパーキングエリアで、あそこの車両メーカーが作業着で休憩していたときは、なってないなと思ったものだ。

 更には、総合病院でも会社の作業着だったな。

 病院は清潔であるべき場所なのに、何故作業着で来ることが出来るのだろうか?

 労災?

 苦情が出ちゃうぞ。

 となるので、着替えは必須だ。


 その後は迷宮モンスターしりとりをしながら街中を歩いて行った。

 気温は暖かいが夜の帳が降りて、建物から少し漏れた明かりでやっとスターレットの顔の輪郭が見える程度に暗くなっていた。

 既に家路を急ぐ人は少なく、酔っ払いか野良犬が目につく。


「こうして二人して並んであるいていると恋人同士みたいね」


「悪くないものだな」


 スターレットの言葉に一瞬驚いた。


「本当に?」


「ああ」


 表情は暗くてよく見えないが、声は弾んでいる。

 こういう状況は悪くないというのは本音である。

 だが、そんな状況は目の前に現れた屋台によって終焉を迎えた。

 ただ単に、目的地に着いただけなんだけどね。

 そして冒頭で説明したように酔客の構成員となったのだ。

 酒を飲みながら話す内容は、スターレットの友人がみんな彼氏と幸せそうで辛いというものだった。

 若干絡み酒だよなと思いはしたが、彼女の話に相づちを打った。

 全部聞いているとこちらも辛くなるので、合間合間で屋台の料理に舌鼓を打った。

 そんな俺に気づいた彼女は舌を打った。


 そうこうしているうちに、飲み始めでは頭上にあった月もやや傾いた位置に来る程度には時間が経過する。


ガシャン――


 近くの建物からガラスの割れる音が聞こえた。

 音の方に目を向けると、黒い人影が飛び出してくる。


「ラパンか!」


「馬鹿!大声を出すな!!」


 そんな会話が聞こえてきた。

 後から喋った奴も焦っていたのだろう。

 大声を出すなと言いながら、自分はもっと大きな声を出したぞ。

 それにしてもラパンか。


「ちょっと見てくる」


 俺は席を立つ。

 するとスターレットも


「私も」


 と勢いよく席を立った。


「お代はここに置いてく」


 テーブルの上にコインを置くと、それを確認した店主が頷いた。

 俺とスターレットは酔った体に鞭打って走る。

 飲酒して走るのは危ないけど、今は仕方がない。


 件の建物はすぐにわかった。

 ガラスの破片が外に飛び散っていたからだ。

 ガラスの破片はわずかな光を反射して、キラキラと光っている。

 俺とスターレットがその破片を見ていると、建物の中から人が出てきた。

 がっしりとした体型のシルエットに


「誰だ?」


 と訊かれたので


「音がしたから見に来た」


 と答えた。

 すると、その後ろにいる別の男が


「ラパンは変装の名人だ。こいつらに変装しているかもしれない。それに、顔を見られたからにはどのみち死んでもらう」


 と、とても理不尽な事を言う。

 なんでそんな事で殺されなきゃならないのか。


「あなた達悪人ね」


 スターレットが指摘する。

 俺もそうだと思っていたよ。


「やれ」


 がっしりとした体型の男にそう指示をする。

 言われた方の男は剣を抜いて構えた。

 薄暗い闇の中で剣が銀色の光をわずかに反射する。

 相手の実力はスターレットよりも数段上だろう。

 ましてや酒が入った状態だ。

 彼女に戦わせるわけにはいかない。

 俺はそう判断すると、相手に向かって間合いを詰めた。

 相手も反応するが体は付いてこない。

 俺は右腕を伸ばすと相手の口と鼻をふさぐように手を当てた。


「【リンギング】!!」


 そして覚えたてのスキル【リンギング】を発動した。

 リンギングは【ブロックゲージ作成】の派生スキルで、真空状態を作り出すことが出来る。

 残念ながら、真空注型は出来ないけど。

 そういえば最近シリコン型を割ってないな。

 もうやり方忘れちゃったよ。


 ――閑話休題――


 呼吸の出来なくなった男は気を失い地面に倒れる。

 それを見て固まっていた後ろの男もリンギングで気絶させて捕縛する。


「衛兵を呼んできて」


 俺がスターレットにお願いすると彼女は


「わかったわ」


 と言って走り出した。

 暫くするとスターレットが数名の衛兵を引き連れてやってきた。

 衛兵の一人ががっしりとした男の顔を見て驚く。


「マトリックス隊長!」


 なんだ、知り合いか?

 丁度その時マトリックスと呼ばれた男が目を覚ます。


「娘を人質に取られているんだ。俺が捕まって罰せられるのはいい。頼む、娘を救ってくれ」


 事情が変わった。

 俺とスターレットも事情聴取をするというので、衛兵の待機所に一緒についていくことに。

 なんだろう、このTRPGのキャンペーンの導入みたいな展開は。


アルト

 人間、男

 ジョブ:品質管理

 転生者、主人公

 初登場:第2話

品質管理レベル43

スキル

 作業標準書

 作業標準書(改)

 温度測定

 荷重測定

 硬度測定

 コンタミ測定

 三次元測定

 重量測定

 照度測定

 投影機測定

 ノギス測定

 pH測定

 輪郭測定

 クロスカット試験

 塩水噴霧試験

 振動試験

 引張試験

 電子顕微鏡

 マクロ試験

 温度管理

 照度管理

 レントゲン検査

 蛍光X線分析

 粗さ標準片作成

 ガバリ作成

 軌間ゲージ作成

 C面ゲージ作成

 シックネスゲージ作成

 定盤作成

 姿ゲージ作成

 テーパーゲージ作成

 ネジゲージ作成

 ピンゲージ作成

 ブロックゲージ作成

 マグネットブロック作成

 溶接ゲージ作成

 リングゲージ作成

 ラディアスゲージ作成

 ゲージR&R

 品質偽装

 リコール

 リンギング new!


※作者の独り言

導入が長くなったので一旦切ります。

日曜日の午後九時に思い付いた話です。

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ

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