第230話 六価クロメート使えなくなった時はたいへんだったよね
読者さんとの会話の中でなんか思い出したお話です。
それでは本編いってみましょう。
今日は冒険者ギルドの職員が大忙しです。
冒険者が大挙してやってきた?
いえいえそうではありません。
冒険者ギルドの名称が変わるかもしれないってことで、冒険者ギルドと記載のある書類のピックアップをしているのです。
「突然冒険者ギルドの名前を探索者ギルドに変更するとか言われても困るわよね」
倉庫で書類の確認をして戻ってきたレオーネが愚痴をこぼした。
「でも、何で突然こんなことになったんだ?」
俺は書類に目を向けたままレオーネに訊ねる。
「なんか、偉い人が突然『冒険者じゃなくて探索者。それなら傭兵と仕事の区別がつきやすい
!』って言いだしたらしいわ」
そんな理由で全国の冒険者ギルドが同じような苦労をしているのか。
「シルビアにも手伝わせたらどうだ?」
俺の提案にレオーネがため息で応える。
「プリオラと一緒に『俺たちの戦いはコレカラダー』って言ってどこかに出ていったわ」
なにその危険予知能力。
品質管理としては欲しいぞ。
不良には近づかない。
なんなら他の品質管理部員の背中を押して、そいつを担当者にしてしまうくらいのスキルがないとね。
その後も黙々と書類の確認を続けていたら、ギルド長が自分たちのところにやってきた。
「すまないね、突然こんなことになって」
と頭を下げてくれる。
「いや、ギルド長のせいじゃないですから」
と俺が言うと
「冒険者ギルドという組織がなくなるから、探索者ギルドになっても冒険者ギルドと一緒だって他の人がわかってくれていればいいんだけどね」
とギルド長がため息交じりに言った。
そこで閃く。
読み替えだ。
前世では客も自社も社名が変わることがよくあった。
既に出図している図面に記載してある社名を変更することなく、新しい社名に読み替えしてもらうことで改定をしないようにしていたのだ。
ただ、六価クロメートのような突然使えなくなる表面処理などは困ったな。
六価クロメートというのはクロメートメッキに六価クロムを使用していたもので、六価クロムは環境によくないからということで使えなくなってしまったのだ。
当時は電算化されていない図面も多く、表面処理の記述をどう変更しようかと何度も会議をしたのである。
購買、品質管理部門は全ての図面を新規の表面処理に変更するように要求したが、設計はその膨大な工数を嫌がり全て三価クロメートに読み替えするという案を出してきたのである。
ただ、その読み替えも簡単にはいかなかった。
とある特殊な客先は簡単に図面仕様の変更が出来なかったのである。
六価クロメートを三価クロメートに変更するわけにはいかなかったので、全ての図面での読み替え指示は出来ないと営業が言いだした。
まあ、その特殊な客先も六価クロメートに対応できるメッキメーカーが無くなるというので、表面処理の変更に応じてくれて、読み替えで対応することが出来たのだが。
もうあんなことしたくないので、環境負荷物質とか最初から評価しておいてよね!
尚、規格名が変わらないのに、中身が変わるものもあって、そちらはどうにもならない。
表面粗さの規格などは、JIS規格の改定で内容が変更になっているので、同じ表記でも測定機の年代パラメーターによって違う数値が出てくる。
勿論よく出るほうを採用しがちだよね。
特に公差ギリギリのときは。
ばれた時の言い訳としては、「昔の図面と同じ表記だったので、共通設計ですよね?」で押し通す。
という噂を聞きました。
ということで、俺は読み替えを提案した。
「全国の冒険者ギルドが一斉に『冒険者ギルドというのを探索者ギルドに読み替えする』って宣言しちゃえばいいんじゃないでしょうか。これから新しく発行される書類から探索者ギルドの名称を使うようにしていけば、古い書類は徐々に無くなっていきますから、ゆっくりと入れ替えができますよ」
「あ、それはいいかもしれないね。早速本部に提案してみるよ」
ギルド長は俺の案を採用してくれた。
本部にその提案を手紙で送ったところ、入れ違いで探索者ギルドへの変更はやっぱりなしとの連絡がやってきた。
皆でホッとしたのだが、偉い人の気まぐれに振り回されるのはここでも一緒かと、なんだか怒りも湧いてくる。
お前ら、現場の俺達の苦労わかってるの?
※作者の独り言
読み替えって結構あるんですよね。
共通モジュール設計された部品などは、表面粗さの表記がいまだに▽です。
若い人は「なんですかこれ?」って聞いてきますね。
いい加減に改定しろよと思いますが、良品と不良品の境界線上にある場合は都合よく解釈できることもあるので、そのままでもいいかなと思ったり。
自治体の合併で道路標識の変更が間に合わないのをニュースで取り上げたりしていますが、もう少しおおらかな気持ちで見ようよって思ったりもしますね。
でも設計は許さない。
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