第229話 ありふれた不具合で世界一周

「こんな話でいいかな?」


 俺は今舞台演劇の台本を書いている。

 なぜかって?

 それはグレイスに頼まれて、文化振興の一環で演劇をとなったからである。

 俺に白羽の矢が立ったのは、前世の姉がやおい小説書きたさに、大学の国文学科に入学したからである。

 うん、俺のスキルには全く関係ないな。

 やおい小説ってのはナウいヤング風に言えばBL小説だ。


 作品の内容は品質管理が主人公。

 仲間の裏切りによって、奈落の底に突き落とされる。

 もちろん比喩だ。

 日本でつくった治具を世界中の工場に送り込んだが、設計ミスによって、一部の部品を交換しなければならなくなる。

 その部品交換をやってこいと、品質管理の主人公に命令が下るところが導入だ。

 仲間の裏切りってのは、期待を裏切ったってことだ。

 何故、品質管理が?というのは、交換部品にはノックピンが無く、測定しながら組み付けしなければならないので、測定のスキルがある作業者を送り込む必要があるからだ。

 

 ノックピンとは治具のパーツとパーツを固定するピンの事で、これがあれば一度分解しても、同じ場所に組み付けし直すことが出来る。

 0.01ミリの精度を追及するのに使われるのだが、設計者が時々図面に入れ忘れる。

 そうなると、治具の組み付け時は測定しながらとなるのだ。


 海外でそんなことをするとか奈落の底としか言いようがない。

 そんな奈落の底で主人公は右腕を失う。

 労災じゃないよ。

 右腕として育てた部下が、品質管理がいやになって会社を辞めてしまったのだ。

 いわば、ジャッカルとフォックスの関係だな。

 ジャッカルってのはバットのお母さんを殺したやつで、神をも欺く男だ。

 客先の品質管理を欺く主人公にぴったりだな。

 そんな彼も、「右腕?俺の右腕はここにある」って強がってみるが、部下がいなくなったのは辛い。

 いかんな、こんなことを書いているからツイッターでおじさんのネタがわからないとかいわれちゃうんだな。


 あれ、なんかこんな言い訳を見たな。

 そうだ、あれは『ザ・スニーカー』の創刊号でスランプから抜け出して、久々に執筆したあの作家に対して「擬音で文字数を稼ぐのはプロとしてどうかと思う」って編集部宛に手紙を送ったら、次号で誌面を使って言い訳された挙げ句、また暫く作品がでなくなったあの先生の気持ち、今ならわかるよ。

 言い訳もしたくなるよね。

 あれ、カクヨムもザ・スニーカーも角川だっけ。

 もう20年以上前の事だし、国会図書館でもいかない限り、何の事かわからないから大丈夫だよね?

 今異世界に来ちゃってるし。


 で、作品の内容だが、一人になってしまった主人公が世界中の工場を回って、ある時は反日デモから隠れ、ある時はクーデターで日本との連絡手段が絶たれ、ある時は窃盗団の襲撃で車に銃弾を撃ち込まれながらも治具を改修するというハードアクション。

 勿論ヒロインも毎回現地で様々な美女が登場する。

 お値段は一時間三万円、お酒は別料金。

 経費で落ちないから、お金は使えない。

 なので、遠くから眺めて終わり。

 それはヒロインなのか?

 そんな感じの世界をまたにかける超大作を書いてグレイスに送った。


 後日、グレイス領で演劇を観たら、「ブリネルとビッカース」っていう「ロミオとジュリエット」のパクリが上演されていた。

 内容は反目する二つの家に生まれたブリネルとビッカースが家の対立に悩みながらも愛し合うというものだ。

 この恋愛は駆け落ちするために死んだふりをしようとしたが、誤解から二人とも死んでしまうという悲劇で終わるので、だからあれ程規格は統一しろと言ったのにと俺は涙するのだが、それは俺の心のなかにだけしまっておこう。

 途中で出てくる男のライバル、ロックウェルのキャラが立ってないのが残念だな。

 それにしても、俺の作品を差し置いてこれとか、ダイヤモンドぶつけんぞ。

 硬度だけに。


 観劇の後で、俺はグレイスに訊いた。


「グレイス、なんで俺の台本を使わなかったんだよ」


「なんでこっちの世界で前世の話が受けると思ったのか、逆にこっちから訊きたいわね」


 だそうだ。

 それもそうか。



※作者の独り言

治具設計ミスる奴なんなん。

ノックピンなしとか、ボルト緩めたら元に戻せないじゃん。

って伝えたかったのですが、いつものようにこんな内容に。

タイトルは名作だった原作を単なるダイジェストアニメにしてしまったあれです。

そのパロディをやるはずが、なんでこうなった。

ザ・スニーカーの話は当時読んでた人がいるならわかってくれるかも知れません。

角川には内緒だよ。

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