第226話 最古の品質管理

今回も断っておきますが、この物語はフィクションです。

でも、万が一関係者が読んでいた場合には、研究の成果がどうなったか教えてください。

例によってどこの組織かはぼかしておきますので、関係者以外にはわからないと思いますが。

それでは本編行ってみましょう。


 今日はグレイスとオッティがステラに来ている。

 いつものように三人で、ティーノの店で食事だ。

 そこでの会話というのが――


「ねえアルト」


「なんだい、グレイス?」


 食事が終り、紅茶を飲んでいたグレイスが、カップをテーブルに起き、俺に話しかけてきた。


「品質管理の歴史ってどれくらいあるの?」


「そりゃ、まだ百年も無いだろ」


 とオッティが俺の代わりに答える。

 まあ、部門としての品質管理はそうかもしれないな。

 ただ、人間の活動としては、品質管理はもっと昔からある。


「オッティ、それは違うぞ。俺の知っている限りだが、一万年以上前に品質管理は存在した」


 真顔で答える俺に、何故か二人が笑い出した。


「それ、ムー大陸とかアトランティス大陸?そんなの信じてるのかよ」


「オッティ、笑っちゃ悪いわよ。信じてたっていいじゃない、プッ」


 オッティはばか笑い、グレイスは口元を手で隠して笑う。


「そういう漫画が好きだったのは認めるが、超古代史じゃなくて、遺物が日本の遺跡から出土しているんだよ」


 俺は真面目に答えた。


「「マジ?」」


「ああ。石器時代の遺跡で、黒曜石で作った鏃が廃棄されているのが見つかったんだ」


 これは本当だ。


「なんで廃棄ってわかるのよ?」


「全部鏃が欠けていたからね。違う場所では完全な形で出土していることから、そこは鏃の廃棄場所だって推測されている。学会誌に報告が上がっているぞ」


「そんなもの、普通は目にしないからわからないわね。詳しく教えて」


 グレイスが食いついてきた。


「いいよ。その廃棄場所と思われるところから出土した鏃は全部欠けていたといったが、状態がまちまちだったんだ。完成した鏃が欠けてしまったものもあれば、片側しか叩いていないものもあった。叩いていないって言うのは、黒曜石を鹿等の動物の骨で叩いて鏃にしていたんだけど、叩いたときに失敗して、つくるのを止めた不良品だと思われているんだ」


「つまり、製造工程で失敗に気がついて赤箱に廃棄したってことか」


 オッティが頷きながらそう言う。


「そうだ。狩りに使っていて壊れたもの、製造課程で失敗したもの。そう言うのがまとめて捨てられていたんだ。そうなると、狩りに使った鏃も、廃棄のタイミングを見ていた人が居るってことになるよな」


「あー、出来映えチェックか」


「アルトはよくそんなことを知っていたわね。学会誌なんて読んでたの?」


「いや、たまたま黒曜石を骨で叩くバイトの募集があって、それに応募したんだ」


「随分とマニアックなバイトね」


「それが、素人が失敗したらどうなるかを学芸員が確認するってやつでね。一日中黒曜石を叩いていたら、手に破片が物凄く刺さって痛かった」


 ガラスが手にささる様なもんだからね。

 軍手していたけど、黒曜石の破片がすり抜けて手にささったぞ。


「ところで、それを調べて何の役に立つの?」


 野郎、タブー中のタブーに触れやがった。

 学芸員は達人以上に保護されているんだぞ。

 給料は税金だし。


「それはわからない。黒曜石から作った失敗の鏃の研究って、その人しかやってなかったからね。必要ならもっと多くの人が携わるはず」


 としか言えないよな。

 考古学のなかでもスゲーマイナージャンルで、その人の論文が正しいかどうかを検証する人だって居ないんだから。

 みんな言葉は濁していたけど、まあなんでそんなことをやってるの?ってなるよね。

 ただ、こうやって世界で俺だけは、品質管理の歴史って石器時代からあったんだよって伝えることは出来た。

 異世界だけど。


「で、当然限度見本と作業標準書も出土したのよね?」


 グレイスが変なことを言う。

 この子どうしちゃったの?


「そんなもん無いよ」


「え、だって品質管理なんでしょ。アルトいつも言ってるじゃない。限度見本と作業標準書をつくれって」


 成程、そういうことか。

 やだこのこ、意外と頭が弱い。

 石器時代に文字がないのを知らないのか?

 というか、限度見本やら作業標準書が出土したら、間違いなくオーパーツだろ。

 ゴッドハンドのあの人が埋めているとしか思えない。


「限度見本や作業標準書をつくるための文字がないからな。縄文時代だって日本に文字は入ってきていなかったのに、それより前の時代だぞ」


「でも、絵ならあったわよね。世界には壁画とか残っているじゃない。日本に無かったとは言い切れないわよ」


「確かにそれはあるな」


 その後話がどんどん脱線しながら進んでいき、メガーヌにいい加減店を片付けたいから帰れと言われた。

 深夜のファミレスか。



※作者の独り言

黒曜石の鏃の不良品の研究結果どうなったのでしょうかね?

世界で俺だけでも結果を待っていますよ。

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