第225話 いじわるテスト

 今日はカイエンとナイトロが相談に来ていた。


「新しい仲間が信頼できるかどうか判断がつかないのか」


「はい」


 これの言葉に頷く二人。

 どつやら新しい仲間を迎えるのにあたり、その人物が信頼できるかどうかわからないというのだ。

 そんなもん分かるなら優秀な面接官になれるな。

 俺も判断の付け方を教えてもらいたい。

 いや、それだと相談に来てくれたのに力になれないな。

 なにか良い方法はないかと思案すると、一つ思い付いたものがあった。


「いじわるテストをしてみようか」


「「いじわるテスト?」」


 俺の口にした単語を二人はしらないので、おうむ返しに聞いてくる。


「ピンチの状態をわざとつくって、その時どんな態度行動をするか見てみるのさ。俺が襲撃するから、その時にそいつがどうするかを見ればいい。ただし、俺が襲撃することは内緒だ。実際のシチュエーションに近い状態じゃないと意味がないからな」


 そう説明した。

 いじわるテストは新人の理解度確認に使う手法だ。

 検査員であれば、わざと不良品を混ぜておき、それをきちんと見分けられるかを試す。

 勿論、検査員には不良品が混ざっていることは伏せておく。

 これをクリアー出来ないと、一人での検査を任せることは出来ない。

 今回はその応用だな。

 カイエンとナイトロにはその仲間とお試しの迷宮探索の日程が決まったら教えてくれと頼んだ。

 そして、俺はシルビアに協力をお願いする。


「わかったわ。カイエン達をおもいっきり死なない程度に殴ればいいのね」


 快諾してくれたのだが、本当に理解出来たのかは不安だ。

 カイエン達は俺が襲ってくると思っているのだろうが、それだとどうしても気が緩むからな。

 演技が上手いとも思えないし。

 なので、シルビアに変装してもらい、迷宮の中で襲いかかってもらう。

 これはカイエン達はしらないので、実戦に近い状況だ。

 シルビアが暴走しなければな。


 そして、いよいよ迷宮探索の当日となった。

 いじわるテストを受けるのはカンチル。

 ジョブは剣士で、若い人間の男だとか。

 余所の街から最近ステラにやってきたが、ソロだと辛いので、パーティーを探していたのだとか。

 襲う相手の顔を知らないと不味いので、事前にカイエンに協力してもらい、街中で尾行してバッチリ記憶してある。


 彼らが冒険者ギルドで受付をしているうちに、俺とシルビアは迷宮に向かう。

 襲う場所はあらかじめカイエンに伝えてある。

 他の冒険者が寄り付かない様なところだ。

 余計な助太刀を入れさせないためにも、そういう場所を選んだ。

 なお、シルビアが襲撃するのはその場所の少し手前。

 打ち合わせと違う場所での戦闘になれば、相手が俺でないとわかるだろう。

 存分に焦ってほしい。


「アルト、とても悪い顔しているわよ」


 妖怪ギリースーツとったシルビアの顔は見えないが、怪訝な視線は感じた。

 楽しんでいるんじゃないんだ。

 これも仕事なんだ、本当だよ。


 そうこうしているうちに、カイエン達がこちらにやってきた。


「お願い」


 俺はシルビアに小声で合図をした。

 彼女は無言で首肯する。

 そして、隠れていた場所から飛び出し


――ドゴッ!!――


 彼女の右こぶしがカイエンの顎を打ち抜いた。

 その一撃でカイエンの意識は旅立つ。

 たぶんヴァルハラの手前の三途の川で止まるけど。

 三途の川はあるよ。

 俺が転生するときに渡ったからな。

 おっと、今はそんなことはいいか。

 カイエン隊のメンバーは、いきなり草の化け物に襲われて浮き足立つ。

 果たして、カンチルの行動は?


「ここは俺が囮になるから、カイエンを回収してくれ!」


 そう言って、盾と剣を構えた。

 一撃でカイエンを倒す化け物を見ても、自分が囮になるから、カイエンを助けるように指示するとは、中々見所があるじゃないか。

 合格だな。

 どうやら、シルビアも同じ事を思ったらしい。


「その意気やよし!」


 褒めて、認めて終わりかと思ったが


――ドゴッ!!――


 今度は左こぶしがカンチルの顎を打ち抜いた。

 そして、残りのメンバーにも襲いかかる。

 やっぱり趣旨を理解してなかったか。


 全員を気絶させてくれたシルビアには先に帰ってもらい、俺はシルビアが見えなくなったのを確認して、ヒールで手当てをした。

 いじわるテストでしたってねたばらしをするには、ちとやりすぎだろう。


「アルト!?」


 気がついたカイエンが俺の顔を見て驚く。


「カイエン達が来ないから、心配して来てみたら、ここで全員が気絶していたから焦ったよ」


 そうとぼけてみた。

 彼らは俺の事を疑うでもなく信じてくれ、草の化け物に襲われたと教えてくれた。

 ごめん、知ってる。

 まあ、カンチルが信頼できるとわかって、パーティーに加わることになったから、今回はよしとしよう。


 後日、シルビアが


「またいじわるテストやりたいわね」


 と言ってきたのだが、次は他の人にお願いしようと心に誓った。




※作者の独り言

いじわるテストを厳しくやるのは、不良が流出すると、大きな損害が出るから、それを防ぐためです。

決して本当にいじわるでやっている訳ではありません。

不合格にするの楽しいけど。

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