第215話 赤札ついてるのに次工程に流すやつなんなんですかね
いやー、こんなに暇なのに不良が出るわ出るわ。
休業補償を受けているので、残業をするわけにはいかないのですが、どういうわけかほぼ毎日不良が出る。
そして、テレワークだったり、稼働日減少だったりで連絡がつかない。
弊社の出した不良ならそれでも仕方ないのでなんとかするのですが、有償支給の製品で不具合が出て
「テレワークで担当がいないので保留にしてほしいのですが納期は守ってください」
って連絡した客先から回答が来たときはどうせいと。
どうせ売れない車なんだから納期とかいうなよって言いたいです。
言えないからここで言います。
生産量1/5まで減っているのに、不良が発生する件数が変わらないとか、PPMが恐ろしいことになってますね。
早くも年度目標を変更せざるを得ない状況に。
いや、来月は稼働日数がもっと減るから、ISOの更新審査まで会社がもつかもわかりませんけどね。
無職になったらデイトレーダーに逆戻り。
いや、それでもいいか。
とある世界的リコール出したメーカーさんも、不具合対策書うやむやのまま終わりましたしね。
その話とか書きたいんだけど、どこまでオッケーなのかわからないからやめておくか。
おっと、愚痴で500文字まで来てしまったぞ。
それでは本編いってみましょう。
俺は今ブレイドに呼ばれて冒険者ギルドの食堂に来ていた。
どうも新人がやらかしてしまったようだ。
ブレイドともう一人がテーブルを挟んで俺の前に座っている。
新人の名前はウェイク。
人間の男だ。
見た目はかなり若い。
成人になりたてというピッチピチ(死語ですか?ナウなヤングは使いませんか?)の男の子である。
彼がどんなミスをしたのかというと
「作っている途中に失敗した料理を客に出してしまったのか」
「ああ、捨てるのはもったいないから賄い食としてとっておいたんだがな」
ブレイドはため息交じりにそういう。
「失敗した料理人は途中で気が付いて、提供するなっていうメモを皿につけておいたんだが、ウェイクはそれを見逃して客に提供しちまったってわけよ」
そう付け加える。
ふむ。
工場でいうなら、工程内で異常に気が付き赤紙をつけておいたが、それを他の作業者が次工程に流してしまったと。
よくあることではないが、数年に一度は発生する不具合だな。
ちゃんと気がついているだけにもったいない奴だ。
20年前ならいざ知らず、今の製造業は末端まで赤札は普及している。
今のところ監査でも赤札が無い会社は見たことがない。
それもそのはずで、新規立ち上げでは大手が監査をしに来るから、赤札赤箱無しで監査を通過できるはずもない。
ルールはあるのだ。
ただ、きちんと運用されていないだけで。
赤札ついているのに、通常品と同じ場所においてしまい、次工程に流出すると謂うのはそういうことだ。
「よし、まずは聞き取りだな。ウェイク、俺の質問に正直に答えて欲しい」
「……はい」
ウェイクは神妙な面持ちで頷く。
若干震えているが、そんなにびびらなくてもいいよ。
別に取って食うわけじゃないし。
新人の聞き取りはどこでも一緒だなと苦笑する。
初めてのミスで品管が出てくると、みんなビビるんだよね。
こっちはなんの権限もないから、解雇したり職場移動したりってのは出来ないんだけど、どうも勘違いされるんだよな。
「まず、本当に提供するなっていう紙を見落としたのか?」
「いえ、紙があるのはわかりましたが文字が読めないので、これを持っていけっていう意味だと思い込んでしまいました」
「成程」
あー、なんか思っていたのと違う原因っぽいぞ。
メモを見落としたんじゃなくて、メモを読めなくて勝手に思い込んでしまったってことか。
「ブレイド、そういうことだ。賄いにまわす料理を物理的に隔離しないと駄目だな。あとは新人がきたら文字が読めるかどうかは確認すべきだろうな」
「お、おう」
俺に言われてブレイドは困ったような顔をした。
新人のミスかと思ったら、ブレイドにも非があった事がわかったからだ。
まあ、不具合なんてそんなもんだよね。
組織の仕組みに不備がある。
識字率の低いこの世界じゃメモなんて意味をなさない事があると認識するべきだったな。
かといってウェイクに問題がないかというとそうでもない。
「ウェイク、文字が読めない場合は必ず誰かに確認をするんだ。勝手な思い込みをするべきじゃない。それと、どこかで文字の勉強はするべきだな。今回の事で文字の重要性がわかっただろう」
ウェイクにもそう注意した。
今から文字を勉強するのは大変かもしれないけど、そのうち独立するのとか考えたら、文字が読めないと大変だろう。
ウェイクは真剣な表情で頷いた。
今回の件で、ルールがあったとしても、それを遵守できる状態でないと駄目だと再認識したな。
品質管理の悪い癖で、ルールを作って満足してしまうのだ。
定着検証も行うが、新人が入ってきたときのように、特定の状況下においてもルールに不備がないかをチェックしなければ、今回のような事を繰り返してしまうだろう。
蓋然性の低い状態も想定したルール作りは難しいのだが、それでもやらないとね。
「じゃあ、文字の教育はアルトに頼むわ」
「は?」
ブレイドからの提案に間抜けな声を出してしまった。
「俺?」
「どうせ暇だろ。こいつに毎日一時間だけ文字を教えてやってくれ。食堂がすく時間帯に頼むわ」
まあ、毎日暇なのは事実なので、仕事時間中であればと引き受けることにした。
東大に合格させてやるからな!
※作者の独り言
ルールがあっても不良は出る。
そして、どんどんルールが複雑になっていく。
品質管理しかわかってないようなルールが沢山ありますが、再発防止対策書を受領してもらうためには仕方がない。
社員に定期的にFMEAを教育するって対策ですが、相手が見に来ないからオッケーですね。
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