第214話 だから口頭での約束はするなとあれほど

なんか週休三日から週休四日になるんだとかで、仕事もしないで六割の給料をもらうのが申し訳なくなっちゃいますね。

元々育児休暇を取得する予定だったので、別に六割でもいいんですけど、会社の人達は生活が苦しくなるって言ってます。

やはり仕事があるっていい事ですね。

不良が出るとついつい忘れがちですが……

品質管理とは全く関係ないですが、無収入でも一年は暮らしていける程度の蓄えはあったほうがいいですね。

生活が苦しくて貯金する余裕がないって人は、そうなる前になんで手を打たなかったのか。

止むにやまれぬ事情がある人もいるかもしれませんが、弊社の給料で貯金がないのは自分の生活の結果だと思いますね。

そういう人は、みんなが休業するなか、出社して満額の給料にしようと努力しています。

元々仕事が少ないのに、出社する理由のため、自分の少ない仕事を他の人に譲ってあげているので、益々暇になってきました。

床掃除飽きたよ……

それでは本編いってみましょう。



 ある日の午後、俺は昼休みを終えて自分の席でコーヒーを飲んでいると、冒険者ギルドの受付の方から大きな声が聞こえてきた。

 コーヒーを飲むのを止めて、大声を出した馬鹿野郎の方をみると、馬鹿野郎はカイエンだった。

 俺はやれやれと思い、まだ熱いコーヒーを一気に飲み干すと、トラブルの臭いがする大声の主の所に向かった。


 受付に行くとレオーネとカイエンが言い争っている。

 どう見ても面倒な未来しか見えないのだが、冒険者ギルド内のトラブル対応が仕事なので、給料分くらいは働こうかと二人の間に割って入った。


「まあまあ、二人とも落ち着いて。何があったか知らないが当事者同士で言い争っていてもエスカレートするだけだぞ。言い争いの原因を教えて欲しい。それで解決の糸口を見つけていこうじゃないか」


「アルト、いいところに来てくれたわね。カイエンが勘違いしているのに、全然引かないのよ」


 レオーネは疲れた表情を見せる。


「勘違い?」


「そう。薬草採取のクエストを受けたんだけど、同じ場所に出没するホーンラビットについても討伐するクエストを一緒に受けたっていうのよ」


「依頼書にサインはあるのか?」


「ないわよ。だってそんな話してないもの。それをホーンラビットをもってきて、こっちのクエストも達成したとか言うから困っていたのよ」


 成程、カイエンが勘違いしているというのはそういうことか。

 レオーネの話を聞き終わると、カイエンが反論をする。


「ここで薬草採取のクエストを受付をしたときに、ホーンラビットの討伐もできれば一緒に受けたいって言ったら『手続きはやっておきます』ってレオーネが言ったんだ。それなのに迷宮から戻ってきたそんな事は言ってないっていうから頭に来たんだよ」


 顔を真っ赤にして、こぶしを握り俺の顔の近くでまくしたてる。

 近いよ。


「っていうか、それならなんでカイエンは手続きが終わるまで待ってなかったんだよ。そんなに急ぐクエストでもないだろ」


「そう言われるとそうなんだが、兎に角早く迷宮に行きたかったんだ」


 なんていう身勝手な理由だ。

 これだとレオーネが忘れていたとしても、カイエンにも問題があるな。

 手続きの時間が待てないとか、どれだけ急いでいるんだって話だ。

 そんなのは誘拐事件とかじゃないと聞いたことないぞ。

 というか、口約束なんていうものは、水掛け論になてどっちが正しいかなんてものはわからなくなる。

 前世でも補用品で量産していた会社が倒産したりして、急遽回ってくる仕事があったのだが、図面通りに作れないようなものが結構あった。

 営業が客先から出来る範囲で構わないって許可をもらってあるっていうのを信じて、図面寸法から少し外れたものを納品したら不具合だと言われたのは一度や二度ではない。

 対策書を書けといわれても、そんなもの書けるわけがない。

 いや、お前の所のいう事なんて全く信用できないから、今後は二度と電話と対面での打ち合わせはせず、メールのみでやりとりするっていう作業標準書を作って提出したこともあったな。

 水平展開で全てに適用するから、二度と電話してくるなって書いたぞ。

 そこまでやったら弊社営業の勘違いで引くに引けなくなったっていうのがあったけどな。

 まあ、相手も元々の会社が無くなってしまい、品質管理の担当者が弊社に乗り込んできて、出荷検査というか受け入れ検査というかを行いましたが。

 倒産は人の心が荒むのでやめましょう。

 まあ、やめましょうって言ってもどうにもならんが。


「カイエン、証拠が無い以上どんなに大声を出しても何も変わらない。今後は必ず受付を終了させてから迷宮に向かうんだな」


「なんだよ、アルトまで俺が悪いって言うのかよ」


 納得のいかないカイエンは俺にも噛みついてくる。


「ああそうだ。証拠がなければお前の敗けだ。言った言わないだとどうにもならん。その時は利益が出る方が敗けになる。そうしないと、水掛け論で利益を出そうとするやつが後を断たないからな」


「俺は違う!」


 尚も食い下がるカイエン。


「さっきから騒がしいわよ」


 そこにシルビアがやってきた。


「サッカーの練習場まで声が聞こえてきたわ」


 そんなに届くとか、どこの大鐘音だよ。

 神宮球場から池袋くらいまで届いちゃうのか?

 大体7.5キロメートルくらいだぞ。

 民明書房に書いてあったから間違いないだろ。


「最近冒険者もクレーマーみたいのが多いから、こっそりと受付の風景を記録しているのよね。今日の受付だったら記録がまだ残っているから確認してみたらいいわ」


 シルビアから意外な事実が伝えられた。


「そんなことしてたの?聞いてないんだけど」


「私も」


 俺とレオーネは初耳だ。


「ここぞってときに使うから、内緒にしておいたのよね。ギルド長と一部の人間しかしらないわ」


 まあ、俺が知ってて誰かに喋る可能性もあるから、それはそれでいいか。

 むしろ記録しているって宣伝したほうが抑止効果に繋がりそうだが。


 結果、カイエンの主張するようなことはなく、勘違いであそこまで激昂していたので、シルビアにたっぷりと可愛がりをされましたとさ。

 めでたし、めでたし。

 やっぱり口約束は良くないので、しっかりと記録を残すべきですね。



※作者の独り言

何故営業は口約束で品質問題に踏み込んでくるのでしょうか?

こっちに任せてくれたらいいのに。

そして相手の購買担当者も品質管理に断りもせず、

「こんなていどでいいよ」

って言ってしまうのでしょうか。

だったらお前ら最後まで責任とれよ。

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