第202話 漁網の仕手戦に参加しておっちんだ話をしてもいいんだけど、関係者も鬼籍にはいったしね

 半月位練習をすることで、サッカーチームは観客に試合を見せられる程度にはなった。

 なにせ、元々冒険者という体を使う仕事をしていたので、サッカーの激しい動きにも体が対応出来たのだ。

 シルビアなどは、前世のワールドカップだか、チャンピオンズリーグだかに、選手として出てもいいんじゃないかって位に動いている。

 45分間ずっと動けるのは驚異的だな。

 もっとも、シルビアが特別なだけであり、他のメンバーはそこまでの体力はない。

 戦略面についても俺の知識の範囲で教えておいた。

 先ずはフォーメーションで、攻撃重視なのか、守り重視なのかを決めて、全員でボールを追いかけるのではなく、常にフィールドの各所に展開しておくことを伝えた。

 カウンターからの攻撃については、練習の中でその有効性を感じ取ってくれたようだ。

 元々冒険者として、いろいろなパーティーに入ることが多いので、連携を取るのは手慣れたものだ。

 声の出せないような場面では、アイコンタクトを使っているのもあり、トリックプレーの成功率も高い。

 それと、ルールにはオフサイドは入れなかった。

 観客にも分かりやすいように、兎に角、ゴールネットを揺らせば得点という単純明快なものにする。

 試合数を重ねていけば、ルールの盲点をつくような試合もあるだろうし、観客や選手の不満が出たときに、少しずつ改定する予定だ。


 さて、選手の準備が整ってきたので、次は道具だな。

 ボールは既に出来ている。

 ゴールポストも出来ている。

 問題はネットだったのだが、こちらはオッティから、見事な六角形で編まれたゴールネットが贈られてきた。

 お金はいらないとのこと。

 魚を傷つけにくいネットの研究過程で、ボールのぶつかる衝撃を緩和する漁網の試作として作ってみたというのだ。


 早速ゴールポストにネットを結わえて、シルビアにシュートを放ってもらうことにする。

 ボールを地面に置いて、蹴るように促した。


「キーパーが欲しいわね」


 不満を漏らすシルビア。

 今回はネットの揺れを見るためなので、そういった演出はいらないんだけどな。


「今回はネットの揺れをみるだけだから」


「そう、仕方ないわね」


 納得いかない様子だが、諦めてボールの置いてあるところに歩いてきた。


「助走をつけてもいいの?」


「ああ。思いっきり蹴ってくれ」


 他人が聞いたら誤解されそうな会話だな。

 そんな趣味はないぞ。

 これはサッカーの話だ。

 「どちらもプレイって言うよね」っていうツッコミはなしだぞ。


「蹴るわよ」


 シルビアは右足で思いっきりボールを蹴った。

 ボールはすごい勢いでゴールに吸い込まれる。

 そして、ゴールネットがボールを包むと、それ以上進めなくなったボールはネットの中で回転をする。

 それがしっかりと見えた。


「なんか、前のネットよりもシュートが決まったシーンが気持ちいいわね」


「シルビアにもそう見えるか。俺もだよ」


 これはいい物だな。

 ステラは海に面していないから、漁網の需要なんてそんなにないが、この進んでくるエネルギーを柔らかく包み込む技術は素晴らしいな。

 魚が傷つかずに済みそうだ。

 オッティに追加でお願いしよう。


「これであとはユニフォームがくれば観客に見せられる試合ができるな」


「ユニフォームなんて必要なの?」


 シルビアが訊いてくる。


「ああ。モンスターとの戦いと違って、人間同士の戦いだから、誰がどっちのチームなのかわかりやすくする必要があるんだよ」


「パーティーのメンバーなんて顔を見ればわかるじゃない」


「どちらかというと、観客のためかな。特に遠い場所からだと顔が判別しにくいんだよ」


「言われてみれば、闘技場も結構広かったわよね。それだと、誰が活躍しているのかわかりにくいじゃない」


「そのために背番号をつけるんだ。文字だとあまり大きくできないし、読めない人もいるからね」


「数字なら誰でもわかるわね」


「そうだね。その数字を出来る限り大きくして背中の部分に表示しておけば、誰が得点を取ったのか遠くからでもわかるよ」


「あたしの活躍が誰が見てもわかるようになるのね」


「……ああ、そうだね」


 活躍するのは確定か。

 わからなくもないけど。


 その後2チーム分のユニフォームが出来上がり、シルビアとプリオラにメンバー分を手渡した。

 そしていよいよ観客の前で試合を披露する日がやってきた。

 賭けるのはどちらが勝つのかという単純なものだけではなく、どちらが何点差で勝つのかというものも用意した。

 これも手探りだ。


「血がみられねぇのが残念だな」


「ああ、たまっころを蹴るだけって聞いているんだが、あんまり興奮しなそうだな。金を賭けていなかったらみないぜ」


 闘技場の賭け札売り場を見ていた俺の目の前を、二人の男が会話をしながら通り過ぎる。

 最初の期待が低い分、がっかりされるような事はないかなと思いつつも、やはり自分が提案したらからには興行として成功してもらいたいと思う。

 気が付けば拳をぐっと握りしめていた。

 そして、場内に風魔法でアナウンスが流れる。

 初めて行われるサッカーの試合なので、簡単なルール説明がなされる。

 まあ、ゴールの中にボールを入れたら得点になるっていうのと、キーパー以外は手を使ってはいけないってくらい知っていればいいかな。


「そろそろキックオフか」


 説明が終わり、それぞれのチームの選手紹介が始まったので、俺もスタンドに向かう。

 ここで観客の生の感想を見ようと思うのだ。



※作者の独り言

製網業界って株を買うときに調べた程度で、あんまり関わり合いがないんですよね。

タイトルは大げさすぎで、自分自身は提灯筋だったので、本尊が誰だったのかは推測でしかないのですが。

その後、太平洋汽船とかトッキ、第一中央汽船やってましたね。

って、全部もうない会社ですね。

品質管理関係なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る