第201話 ファンタジーでサッカーって言ったら吸血モンスターだよね
「闘技場で死亡する冒険者が増えてきたので、それを対策したいわけですか……」
本日冒険者ギルドの会議の議題は、闘技場でモンスターと戦うのを見世物にする冒険者の死亡事故についてだった。
闘技場というのは、よくあるコロシアムみたいなところで、人間とモンスターを戦わせて、どちらが勝つのかを賭ける場所だ。
賭けの対象となっている為、接戦になるような対戦カードが組まれるので、当然ながら死亡事故も多くなるのだという。
それを対策したいというと難しいな。
「掛け率を大きく傾けて、大番狂わせが無い限り手堅いようにしたらどうですか」
最初に意見を述べたのはトミーカイラ副部長だ。
副部長じゃないけど。
「それだと、観客は接戦を見て興奮することができなくなるんだよね」
ギルド長は否定する。
確かに、接戦を見るのは面白い。
ワンサイドゲームなど、ファン以外は楽しめないだろう。
「別の見世物にすればいいんじゃない。賭け事もできるようなやつがあればいいのよ」
シルビアが珍しくまともな意見を言った。
やればできる子だな。
「成程、それはいいかもしれないね。具体的な競技は考え付くかい?」
ギルド長はシルビアの意見に乗り気なようだが、具体案を聞かれるとシルビアは黙ってしまった。
皆が興奮して楽しめて、お金を賭けることが出来るものか。
俺は前世の知識を探る。
そういえば、サッカーがあったな。
熱狂的なファンもいて、賭け事の対象にもなっていた。
怪我はするけど、死ぬようなことは滅多にない。
サッカーボールとゴールと広い場所があればできそうだよな。
芝生が無いとスライディングは痛くてやりたくないけど。
サッカーボールの規格はたしか
・球形である。
・皮革または適切な材質である。
・外周は68~70センチメートルとする。
・重さは試合開始時に、410~450グラムとする。
・空気圧は0.6~1.1気圧とする。
ってウィキペディアに載っていたのを見たぞ。
なんでそんなのを調べたかっていうと、サッカーのゴールに使用しているネットは、日本の漁網の技術が使われているというのを聞いたので、サッカーの道具を調べてみようと思ったからだ。
現在ゴールネットは六角形で編まれているのだが、これはボールがネットを揺らしたときに、四角形のネットよりも伸びて、ネットがボールを包むようになるのだ。
ゴールシーンがより美しく見えるのである。
しかし、六角形のネットを編むのは難しい。
だからこそ、未だに四角形のネットしかないところもある。
以前、オッティが製網をやってみたいと言っていたし、話を持って行くのもいいのかもしれない。
最悪、ネットは四角形で編んだ網でも使えない事はないしな。
ボールは何とかなるだろう。
コンプレッサーもオッティに頼めばいいし、空気入れくらいなら何とか作れない事もないしな。
そこまで考えて、俺はシルビアの案に肉付けして説明する。
「チームで戦う球技を新しく開発しましょう」
「球技?」
会議室の全員の視線が集まる。
なにせ、この世界には球技というものが無い。
ステラに伝わっていないだけかもしれないが、王都でも見かけなかったし、この国には無いのは確実だ。
なので、丁寧に説明をする。
「動物の皮で作った球を足で蹴りながら、相手の陣地に運ぶのです。手を使わずに、足だけで球を運ぶので簡単には運べません。ただし、陣地を守る一人だけは、手を使って相手の持ち込んだボールを奪うことができます。戦いは時間を区切って行うので、時間の使い方も作戦の幅を広げます。まずは球と陣地をつくりますので、時間をください」
言葉だけでは伝わらないと思い、ボールとゴールを作る時間をもらう。
オッティには手紙を出して試作をお願いするが、最初の説明に使うものは、デボネアとエッセに職人の紹介をお願いした。
革職人が欲しいのだ。
複数の革を縫い合わせて、球形にしなくてはならないため、雑な職人では困るのだ。
その他に、ゴールポストはホーマーに溶接してもらう。
フィールドの白線は石灰の粉でいいな。
小学校の運動会を思い出すぜ。
昔は子どもたちが、自分で白線を引いたのだ。
今ってどうなんですかね?
さて、道具の準備もあるが、ルールも作らないとな。
サッカースタジアムのような大きな闘技場があるわけではないので、人数は減らしてしまおうか。
8人制でいいかな。
キーパーが一人と、フィールドの選手が七人。
七人であればFW、MF、DFって分ける事もできるだろうし。
この辺は試合の様子を見ながら変更していこう。
その他は基本的にサッカーのルールを使う。
試合時間の計測については賢者の学院の腕時計研究者と相談しようかな。
アディショナルタイムの計測をしたいのでね。
後は選手の募集だな。
シルビアとプリオラがやる気を見せているので、二人をそれぞれのチームリーダーにしようかな。
やっぱり体を動かすのが好きなんだろうな。
先にボールとゴールは直ぐに出来上がったので、広い場所に仮設置をしてルールを説明して練習試合形式で慣れてもらう。
二人がそれぞれ集めた選手と、俺が冒険者ギルドで募集した審判候補が集まって、早速練習試合をしてみた。
ペナルティーエリアとゴールエリアの違いを理解してもらうのが大変だったが、そこは何度も説明を行うことで覚えてもらえた。
「これなら観客も興奮するかもしれないわね」
練習の合間の休憩で、汗を拭いているシルビアが言う。
プリオラは練習中のシルビアのタックルで気絶してしまい、今は横になっている。
結構激しいな……
練習試合をみて、俺はいけそうな予感がしていた。
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