第190話 長期在庫
今日はストラトスと一緒に新規の金型の打ち合わせだ。
スパゲッティを作る金型を考えたのだ。
パスタマシンって言えばいいのかな?
案は二種類。
ひとつは心太のように筒に生地を入れて、上から圧力をかけて、したから麺が出てくるタイプのもの。
もうひとつは、圧延ローラーがついており、生地を圧延してからカッターで麺にするもの。
パスタじゃなくて、ラーメンやうどんも作ることができるね。
どちらのマシンも、麺の太さを変えられるように、麺が出てくる部分の交換が容易なように設計する必要がある。
勿論、この世界にも麺類は存在するのだが、どれもこれも手作業で作るために、太麺しかないし、太さもばらつくから、ゆで上がりの食感もばらつく。
手作業でもそばみたいに細い麺だって作れると思うのだが、作るのが手間なのか、麺類についてはどこの食堂でも扱っていない。
冒険者ギルドの食堂で、ごく稀に日替わり定食として出てくるくらいだ。
ここで俺がパスタマシンを作り、麺食文化を一気に広めてやるのだ。
「仕組みはわかった。あとは厚みと麺の太さのサンプルが欲しい。微調整するのにそれを使いたい」
俺の描いたポンチ絵を見ながら、ストラトスがゲージを要求してきた。
俺はシックネスゲージとピンゲージを作り、ストラトスに手渡す。
サイズは1ミリから2ミリまで0.2ミリ刻みである。
パスタも太さでフェデリーニだのスパゲッティーニだの呼び方が変わるからな。
そこまで拘るつもりはないが、どのくらいの太さがいいのかは、料理してみないとわからないからな。
そのために、麺の太さを変えられるように設計しているのだ。
「一週間位待っててもらえるかな?」
ストラトスは頭の中で、完成までの日数を弾き出した。
「かなり早いな」
そのスピードに俺は驚いた。
正直半月位はかかるのだろうと思っていた。
何しろ、完成品形状しかないので、各種の部品については、ストラトスが設計しながら加工するしかないのだ。
「時間をかけていたら、他の誰かに先を越されるかも知れないだろ。世界初って称号が欲しいんだ」
成程ね。
その日はそこで別れた。
俺はその後、ティーノの店に立ち寄った。
勿論、パスタ料理を考えてもらう為である。
「こんにちは」
「いらっしゃい、アルト久しぶりね」
店に入るとメガーヌが声をかけてきた。
「最近はグレイスのところの護衛で、ステラに居なかったからね」
そういえば、最近はこの店に顔を出せてなかったな。
常連でもないのに頼みづらくなった。
いや、ここで引いてはステラの麺食文化の発展はない。
「ティーノを呼んでもらえるかな?」
「また、何か新しい事を考えたのね」
「わかる?」
「ええ。だって顔に書いてあるわよ」
掲示板みたいな顔だな。
やって来たティーノにパスタ料理の開発をお願いしてみた。
「麺料理?あれは手間がかかるから、専門店でもないと割りに合わないよ」
俺の話を聞いたティーノは顔をしかめた。
慌てなさんなって。
「実は製麺機械を作ろうと思うんだ。それで作った麺を食堂に卸そうかなと。麺の太さが均一になるから、茹で上がりの状態も均一になるはずだよ」
「それが本当ならやってみる価値はありそうだな。あとは、売れ行きがわからないから、仕入れ量も難しいな。麺の保存期間は短いんだよな。だから作りおきもできなくて、流行らないんだと思うんだ」
俺はティーノのその言葉で、乾麺を作ることを思い付いた。
生麺から乾麺にすれば、日持ちするようになるだろ。
前世では、実家でお中元で送られてきた素麺なんて、次の年に食わされることだってあったからな。
消費期限ってどうなっていたんだろ?
かーちゃん、品質管理しっかりやっておけよな。
長期在庫なんて、不良の巣窟なんだぞ。
今、こうやって健康に生きているからいいってもんじゃないぞ。
いや、死んで転生していたんだっけ。
長期在庫については、錆びやコンタミ等の不具合に加えて、Oリングの油が消えてしまったり(蒸発するわけではなく、何処かに流れ出る)、樹脂部品の劣化など、兎に角不具合は多い。
保存期間なども、ものによって違うので、管理が兎に角面倒だ。
量産終了後の保要品なんて、ステンレスだと三年分くらいまとめて作っておく。
なにせ、一年に五個から十個位しかでないから。
でも、ゴムなんかだとそこまではもたないのよね。
パーツセンターなんかで、長年眠っている部品はどうやって管理しているのでしょうかね?
「そうだ、俺が考え付いた麺料理のレシピ的な何かを渡しておくから、一週間後に麺を持ってきたときにつくって欲しいんだ」
いつものように、料理はティーノ任せだ。
俺には適正ジョブがないから、誰かにつくってもらい、それを作業標準書にするしかないのだ。
よし、パスタマシンの完成が楽しみだ。
※作者の独り言
長期在庫の管理は頭のいたい問題ですね。
あまり出ないから長期在庫なのですが、オーダーのあったときだけ作ればいいと謂うわけにはいかない。
なにせ、部品単価は量産価格なので、受注生産にしておくと、段取り負けして赤字。
そもそも、長期在庫なので儲けは無いですけど。
不具合が出るたびに、長期在庫の管理ルールを改訂しますが、これといっていいのは出てきませんね。
やっていた会社が倒産して、長期在庫から新規に部品を作るのとか、何度かやりましたが、良品の判断基準に困りましたね。
それはまた後程書けたらいいな。
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