第177話 マシニングセンターでつくろう

前回までのあらすじ。

金型を加工する手段がないのに、プラスチックのようなものが出来上がってしまった。

どうしよう。


「金型用のマシニングセンターがないんだよな」


 オッティは頭を抱えていた。

 文字通りにだ。

 比喩ではない。

 一度研究室を出て、会議室のような場所に移った。


「スキルで作り出せばいいじゃないか。射出成型機だって作り出したんだろ」


 俺はそういったが、全力で否定された。


「金型加工用のマシニングは別格だ」


「でも、知り合いの鉄工場の社長が『サービスマンと仲良くなったから、三次元加工のプログラムを使えるようにしてもらったんだ』って自慢していたぞ」


「確かにそういうのはある。工作機械メーカーも、別々のソフトウェアを組み込むのは面倒だから、二次元も三次元も一緒に入れておくことはあるな。ディップスイッチを操作することで、切り替えができるんだが、当然サービスマンは知っている」


 三次元加工というのは、主軸が三軸同時に動く加工だ。

 それに対して二次元加工は二軸しか動かかない。

 XYZ、それぞれの座標を同時に移動するように命令できるのか、XY、YZ、ZXの組み合わせで移動するようにしか命令できないかの差だな。

 設備に使用する部品の多くは、二次元図面なので、加工も二次元で十分であるが、金型になると三次元加工の必要が出てくる。

 そういった制御ができるソフトウェアが必要なのだが、まあ、それは元々インストールされているわけだ。


「今スキルで作り出せるマシニングセンターは、当然前世の物を参考にしているので、三次元加工は可能だ。しかし、金型用となるとまた別だぞ」


 オッティはそういうと、お茶を飲んだ。

 俺も出されたお茶を飲む。

 まずい、もう一杯!


「金型を加工するプログラムっていうのは、一度走り始めると何時間も動いている。それだけ長い時間主軸を稼働させると、どうしても熱が出てくるんだ。この熱で主軸が膨張してしまうので、Z方向の寸法が狂ってしまう。金型としては致命的だな。だから、金型用のマシニングセンターは主軸の作りが違うんだ」


 手のひらを上下させて、俺に説明してくれる。

 大丈夫、言葉だけで理解できるぞ。

 よく、NCだから大丈夫っていう加工者がいるが、そんなことは無い。

 主軸の伸縮も一つの要因だ。

 油温やバックラッシュなんていうのもそうだな。

 なので、加工不良を指摘すると「測り方が悪い」という奴には、そういった寸法が変化する要因を挙げて、それらが全て対策出来ているか確認させる。

 そして、対策はできていないので、向こうが引き下がってくれることになるのだ。


「それは流石にサービスマン抱き込んでもどうにもならんな」


 と言ってはみたが、サービスマン抱き込むの前提でもどうかと思うな。

 サービスマンって、工作機械メーカーの社員じゃなくて、契約の場合が多いから、現金取っ払いだと裏切ることがあるとか無いとか。

 休日に闇営業として、個人経営の鉄工所などで、メンテナンス作業をしているんだとか。

 税金どうした?

 あ、異世界だから税金は別のシステムですよ。

 大手になると、知識のあるサービスマンを引っこ抜いたりしているとか、いないとか。

 マシニングはよくわからないので、あくまでも聞いた話ですけど。


「そうなんだよな。スキルはきっちりその辺がわけられているし。そんなに精度が必要なものを作らなければいいだけなんだけど」


 等とオッティは言うが、前世では主軸をパレットにぶつけても、そのまま加工していたの知っているからな。

 精度が必要な奴だって、いい加減な加工しとったやろ。

 そういえば、スキルで作ったマシニングセンターって、オプションのツールチェンジャーやパレットってあるのかな?

 500ツール、24パレットっていうマシニング使ったことあるけど、本当に止まらないからね。

 金型加工するのに、パレットいらないけど。


「マシニングのスペックなんて、自由に設定できるぞ。今、ここにあるマシニングは5万回転だ。ツールは1000セットできるぞ。パレットも上限なしでつけられる。テーブルサイズもやりたい放題だぞ」


 流石は異世界チート。

 サービスマンも必要なさそうだな。

 というか、スキルで作ったマシニングセンターなので、サービスマン呼んでも対応できないだろ。


「刃物が無いんだけどね」


 寂しそうにオッティはそう言った。

 そういえば異世界でしたね。

 刃物を作る職人を探さねば。


 プラスチック成形に辿り着くまでが長い。

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