第172話 重点管理メーカー

「ここのところ立て続けにクエストを失敗しちゃいまして、昇級試験資格を得られそうにないんですよ」


 そう相談しに来たのはカイエン隊のメンバーだ。

 以前カイロン侯爵の冒険者ギルドが、等級の上昇を乱発した際に、等級の上昇についての規則を作ったのだが、その際に半年間の失敗の回数について取り決めたのだ。

 初心者のカイエン隊は降格の可能性はないのだが、昇級試験が受けられないのだ。

 まあ、それだけ失敗しているので、昇級して難易度の高いクエストを受けると死ぬ可能性もあるので、もうそのままでいいじゃないかって思うんだよね。

 品質のランクじゃないんだから、上がらなくてもいいだろう。

 品質のランクっていうのは、各メーカーが打ち出している基準である。上から下まで数ランク用意してあり、下のランクになると、重点管理メーカーとしてペナルティが発生する。

 年間の品質改善計画の提出とか、毎月の改善結果報告とかだな。

 めちゃくちゃ辛い。

 どれくらい辛いかというと、山岡士郎が海原雄山に頭を下げるくらい辛い。

 中途半端なエビデンスなど出せないのだが、そもそもそれだけ品質の悪い会社の製造現場がまともなわけがない。

 更に言えば、経営者に品質意識がない。

 品質改善計画は利益を生まないどころか、会社にとって損失が出るだけだという認識なので、大手メーカーはぜひとも発注停止処置をしてください。

 馬鹿は死ななきゃ治らないので、会社とともに市場から退場してもらった方がいいです。

 ええ、異世界の話ですよ。


 逆のパターンで、重点管理メーカーの管理も大変だ。

 何せ品質が悪い会社の意識は低いからな。

 その会社の品質が改善できないと、自分の管理能力がないって評価になるからな。

 対策書すら出してこない会社をどうやって改善させたらいいんだよ。

 そんな会社取引停止にしろ。

 購買担当者が買収されているんじゃないのか?って疑いたくなるぞ。


 そんなわけで重点管理メーカーは指定する方も、される方も辛いので、不良は出さないようにしよう。

 面倒だからって合意の上もみ消しちゃったって話も聞きますね。

 相撲の八百長じゃないけど、境目の会社がギリギリ助かったなんてね。


 うっかりと、カイエン隊に重点管理メーカーの話を、ここでもわかるように説明していたら、いつの間にか居たシルビアに聞かれてしまった。


「あたしがこいつらを重点管理してやるわ」


 教育係としてのやる気を出したシルビアが、カイエンとナイトロを左右の手で引きずりながら、他のメンバーがそれを追うという光景が、俺の視界から徐々にフェードアウトしていった。

 後日聞いた話では、訓練場での可愛がりが数時間続いて、それから迷宮に一緒に行ってまた可愛がりがあったのだという。

 労基に言えないことを可愛がりって表現するのやめません?

 いや、ここに労基はないけど。


 暫くシルビアに付きまとわれて、げっそりとしたカイエン隊を見るようになった。

 まあ、この調子なら遠くない未来、彼らも昇級するんじゃなかろうかね。



※作者の独り言

重点管理メーカーの指定を数社からいただいており、年度頭と年度末が地獄のような忙しさになるんですよね。

毎年指定してくる企業に、去年と同じ改善計画を提出するわけにもいかないし。

出した不具合についての対策の維持継続、人材の教育っていうのでお茶を濁しますが、本来やるべきところは経営者の考えを変えてもらう事から始まり、作業者の意識改革だと思うんですけどね。

本当の事を書いたら、改善計画が会社でのクーデターしかなくなるので、大手メーカーさんは考え直した方がいいですよ。

実態と乖離していますので。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る