第170話 外国人労働者と言葉の壁
選別に連れて行った外国人が、言葉を理解できずに、選別作業が全くできなかった事ってよくありますよね。
流石に何度も経験すると懲りて、「日本語が完璧に理解できる作業者」って条件を社内的につけるようになりました。
それでは本編、行ってみましょう。
異世界にありがちな奴隷制度というものが、ここにも当然ながらあるわけで、そんなに数は多くもないが奴隷を見かける機会はある。
戦争で負けて奴隷にされたり、借金が払えずに奴隷に落とされたりと、その身分に身をやつした理由もありがちなものだ。
当然ながら奴隷商人も存在しており、国外からも商品を仕入れている。
奴隷でも冒険者登録は出来るため、主人が購入した奴隷を酷使するパーティーも存在する。
多くの冒険者はお金に余裕がないので、奴隷を購入することはないが、一部の金持ちはそんなやり方をしているのだ。
バブリーズ冒険者?
「奴隷が言葉を理解できないので、迷宮での戦闘の効率が悪いのを何とかしたい、か」
相談者はアルナージ。
これといって特技のない冒険者だ。
俺の所に持ち込まれた相談内容は、外国出身の奴隷が、この国の言葉を少ししか理解していないため、戦闘での連携が取れずに困っているというものだった。
3人の奴隷を使っているが、全員が違う国の出身で、会話が片言になっているのだという。
そのせいで、魔法使いの射線上に剣士が飛び出して邪魔になったり、支援魔法を要求してもそれに応えなかったりという状況になっているそうだ。
まあなんだ、今の日本の製造業の現場じゃないか。
俺の会社なんて、25か国の人種がいたぞ。
言葉だってかなりの多国籍だった。
ブラジル人が喋る流暢な関西弁は、関東出身の俺には全く理解できなかったな。
「日本語やで」って言われましても……
で、言葉の壁があって、作業を理解できないままやらせているので、当然不具合も多くなる。
流出を止められずに客先に出荷してしまったことも何度もあった。
真因の追及で必ず言葉が理解できていないっていうのにたどり着くのだが、それを客先に報告したら、すべての言語で帳票を作らねばならない。
なにせ、水平展開をしなくてはならないからだ。
だが、その対策は現実的ではない。
機械翻訳では伝わらない、作業の細かいニュアンスは、どうにもならないからだ。
その結果どうなるかというと、不具合を作った作業者は日本人だったという捏造が起きる。
客先もわかっているようで、「いつも不具合をつくるのは日本人ばかりですね」って言われるぞ。
不具合をださないまでも、監査で来客されたときに必ず外国人が多いですが、日本語の理解は大丈夫ですかって聞かれるのだ。
管理者は作業の理解よりも、外国語の能力が求められている。
そりゃまあ、疲弊もするよね。
経営者は拡大路線をとるよりも、きっちり利益がでる方法を選んで欲しいものである。
タイムマシンが完成したら、バベルの塔を作ろうとした奴を暗殺だな。
それで日本の製造業の現場が救われるのだ。
さて、そんなわけで相談の対策は、言葉を覚えさせる以外にない。
「3人に教育をして、言葉を覚えさせるしかないね」
「それって時間もお金もかかるじゃないか」
アルナージは相談窓口のカウンターをダンと叩いた。
外国人の即戦力など、経験者を雇う以外は無理なのだよ。
「体に覚えこませればいいのよ」
俺の後ろにシルビアがやってきた。
シルビアの理論では、上級者になれば自然と連携が取れるようになるのだという。
この状況ではこう動けばいいとお互いに理解しているし、相手の動きを見て次に何をしようとしているかを判断できるようになるのだという。
実際、上級者の臨時パーティーでは、会話が殆どなくても連携の取れた戦いができるのだという。
「無理な使い方をしないで、比較的難易度の低いクエストを繰り返して行えば、そのうち自然とできるようになるわよ。そのうちに言葉も覚えてくるでしょうけどね」
結局時間はかかるということだな。
奴隷ならビザがないからいいけど、日本だとビザがあるから覚えたころには帰国しちゃったりするんだよね。
偶にビザが無いのに働いているのがいるので、ビザがおりずに帰国する心配のない奴もいるけど。
派遣会社がビザの所有を捏造して、面接受けさせているんだよね。
会社に入管から問い合わせが来るので勘弁してください。
「奴隷は財産だから、無理なクエストで死亡や大けがをされたら赤字だし、時間をかけて成長させることにします」
アルナージは最後は頭を下げて帰っていった。
まさか、異世界でも言語の違いで悩んでいる奴を見かけるとは思わなかったな。
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