第157話 エアコンをつくろう

 結局エアコンを作ることになった。

 よくよく考えたら冷媒なんていらなかったのだ。

 いらないというと語弊があるか。

 水を魔法で熱したり冷やしたりして、その水の温度を室内に伝えればいいのだ。

 加熱と冷却の付与魔法が必要なので、カレンとサイノスにも協力をお願いした。

 それと、溶接作業員としてホーマーも呼んである。


「室温を調整するって、ファイヤーボールとかアイスランスを室内で発動すると危ないわよ」


 カレンはエアコンを知らないので、俺達が室内の温度をコントロールしたいと言ったらそういう想像をした。

 魔法使いが一度は通る道らしい。

 ごくまれに事故死するが、みんな火傷して諦めるのが定番だということだ。


「それでは仕組みを説明します」


 オッティがみんなを集めて今回の実験の説明を始めた。


「まずは配管工事をします。室外機と室内機をパイプで接続していきます。インとアウトを間違えないように」


 オッティの話では、室外機に加熱と冷却の魔法を付与したマジックアイテムを設置し、それで配管内の水の温度を変更するらしい。

 その水を循環させて、室内機まで持ってきて、そこで風魔法を付与したファンで室内に温風や冷風を送り込むというのだ。

 尚、パイプ内の水温は俺のスキルで測定するわけではなく、配管に穴をあけて温度計を突っ込むのだ。

 販売を目的としているので、極力個人のスキルには頼らない。

 カレンとサイノスは付与魔法の担当である。

 熱交換部は蛇のようにくねくねと曲げて、なるべく長い時間同じ場所にいるようにしてある。

 ここにきてやっとオッティのNCパイプベンダーのスキルが役に立った。

 単純にパイプを曲げようとすると、内側が潰れて通路がふさがったり、ちぎれたりするので、専用の機械が必要なのだ。

 スキルなので、好きなパイプベンダーを作ることが出来るらしく、1D右曲げベンダーを作り出していた。

 ベンダー用の金型もセットでできるらしく、かなりのチートだよなと思った。

 その曲がったパイプに入熱用のマジックアイテムを取り付ける。

 室外機はこれで完成だ。

 室内機も同じような感じにするが、こちらには送風のマジックアイテムを取り付ける。


「水漏れはないようだな」


 オッティは全ての配管をチェックして、漏れている箇所がないと判断した。

 尚、水を循環させる仕組みは、コンプレッサーがないので、サイフォンの原理を使って下に水を流し、ゴーレムでその水をくみ上げて戻すという力業だ。

 売るにしてもめちゃくちゃ高価だぞ。


「じゃあ、まずは温風からいってみようか」


 オッティのその言葉で、サイノスがコマンドワードを唱えると、マジックアイテムとゴーレムが動き始める。

 少し時間が経ったら温風が室内機から出始めた。


「おおっ」


 室内にどよめきが起こる。


「アルト、これでエアコンが出来たんじゃない」


 グレイスが目をキラキラさせて、俺に同じものを作ってくれとおねだりのポーズだ。

 残念ながら俺は何もしてないぞ。


「グレイス、これはオンとオフしかないんだ。適度な温度になったら一旦動作を止めないといけないんだよ。それにマジックアイテムの消費量がとてつもなく多い。今はちょっとだけ可動させればいいから、カレンとサイノスの協力で動いているが、常時これを稼働させようとしたら、専属の付与魔術師が必要になるぞ」


 オッティはこれだけのものを作っておきながら、その課題をしっかりと分析していた。

 動いて大喜びではないのだ。


「まあ、動いたんだからいいじゃない。次は冷風を出してみるわよ」


 カレンが今度はコマンドワードを唱える。

 暫くして冷風が出始めた。

 オッティは室外機の近くにある温度計を見に行ってしまう。

 残った俺達は室内で冷風に当たっていた。


「確かにこれが常時稼働するなら、夏の暑さも冬の寒さも辛くなくなるな」


 サイノスが送風口を見ながら感心している。

 他のみんなもつられて送風口のところに来た。

 そこへオッティが戻ってくる。


「なあ、アルト」


「なんだい、オッティ」


「バイメタルでサーモスタットを作ったら、一定の温度に保てると思わないか」


「あー、確かにそれならできそうだな。だが、サーモスタットにしても、コマンドワードで動かしたり止めたりしているんだろ。どうやって連動させるんだよ」


「マジックアイテムを配管から遠ざけるような仕組みを組み込んだらいいと思っているんだ」


「マジックアイテムは稼働しっぱなしでいいわけか」


 そうなると課題はやはりマジックアイテムの稼働時間だな。


「ねえ、このシステムを賢者の学院に売ってくれないかしら。もっと研究時間をさけば、稼働時間を伸ばすこともできると思うの。それに、温度も段階的に調整したりする機能だって追加できるはずよ」


 カレンも研究に乗り気だ。

 興奮しているのか、喋るたびに鼻の穴が大きく開く。


「そうよ、オッティ。人類のためにもこれをカレンに預けるべきよ」


 グレイスはオッティの肩をつかんで、前後にがっくんがっくん揺らしている。

 あんまりやると白目をむいちゃうぞ。


「アルトは品質管理ね。エアコンの効きが悪くならないように、監視してよね」


 それは本当に辛いので勘弁してください。

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