第152話 エルフの隠れ里4

 オッティがやっと落ち着いたので、話し合いが再開した。

 納入した製品が不良だとばれなかったのだ。

 もう忘れたらいいのに。

 覚悟を決めて納入して、試験車両の役目を果たしたのだ。

 絶対にばれることはない。

 誰かが裏切らなければな。

 まあ、裏切ったところで現品は既にないとは思うが。


「さて、どこまで話したかのう。年を取ると物忘れが激しくてな」


「なんで、変身を解いたらそんなロリBBAみたいな喋り方になるんですか」


 ジェミニの口調が変わるのは不思議だ。

 しかも、外見は若くなっているのだから、口調が年寄り臭い必要もないのに……


「口調が変わって問題でもあるのかい?」


「変更点については納入3か月前までに報告していただきませんとね」


 変化変更点の申請はメーカーによってまちまちなので、もっと長い期間を要求される場合もあれば、もっと短い場合もある。

 3か月って決まっているわけじゃないぞ。


「そんな先の事なんてわかるもんかね。明日の事ですら人はわからぬというのに。話が進まんから、その質問は後回しじゃ」


「そうですね」


 ジェミニは魔神の封印について語り始めた。


「火の一族はエルフを根絶やしにしようとして、魔神の力を取り込むことに成功したんじゃよ。ダークエルフの攻勢はすさまじく、エルフはあっという間に多くが殺されてしまったのじゃ。生き残ったエルフ達は、巨人族のアトラスとタイタンの助けを借りて、隠れ里を作ることに成功したわけじゃ」


 そうか、俺の知っている世界では、エルフがアトラスとタイタンを応援していたのだがな。

 OEMっていう魔法を使ってな。

 いや、今はジェミニの話に集中だ。


「里を作るなんて、そんな魔法が在るというの?」


 グレイスはジェミニの話が信じられないといった感じだ。

 確かに、そんな広範囲に影響する魔法となると、俄かには信じられない。


「精霊界と人間界の間にちょっとした障壁を作って、そこに隠れ住んだのじゃよ。国境の山間の村みたいなもんさね。入り口を開けるのは数名のエルフだけじゃ」


「でも、ダークエルフの力ならその入り口をこじ開けられるんじゃないか?見つかったら終わりだろう」


 エルフが魔神の加護を得たダークエルフの魔力に耐えられるような結界を作ることが出来るとは思えない。

 どこまで隠し通せるというのだろうか。


「里はアトラスとタイタンの命を今でももらいながら、結界を張り続けておる。巨人族の膨大な生命力があれば、ダークエルフの魔法などはじき返してしまうよ。その子等も里で匿うこともできる。親子でな」


 その提案に驚いた。

 セレガはダークエルフだ。

 それがエルフの隠れ里に入れるというのか?


「セレガもいいのか?」


 ギガも驚いている。


「ワシが許可すれば問題ない」


 ジェミニは俺とギガを交互に見て、そう言った。

 いすゞの工場で日野の車を見るような衝撃だな。

 自動車関連企業は他社への締め付けが厳しい。

 違うメーカーの車だと、構内に入ることはできないのだ。

 パトカーや救急車は例外だが、市役所の公用車を追い返したということは聞いたことがある。

 ティア2だったその会社は役所の監査を拒否したので、当然営業停止になってしまったのだが、それでもライバル企業の車は敷地に入れさせないという徹底ぶりだ。

 似たような話で、納入のトラックが他社製だったため、工場の前の公道に工作機械を下ろさせたという話も聞いたことがある。

 それくらい厳しいのだ。

 前世の会社では、そのような理由から、取引のある企業の車を全て用意していた。

 選別や打ち合わせに行くときに、構内に入ることが出来ないからだ。

 ティア2とはいえ、車両組付け時に発見される不具合だってあったのだ。


 それで、どことは言わないけど、トラックメーカーが乗用車撤退してくれて本当に良かった。

 ラインナップ少なすぎて困る。

 どことは言わないけど。


「どうする?」


 ギガがセレガに訊いた。

 セレガは迷っている。


「このままでは、魔神の復活のためにずっと狙われることになるじゃろうな。火の一族を全て倒すのなら話は別じゃが」


 ジェミニのいうもう一つの選択は無理だろうな。

 火の一族がどれほどいるのかは知らないが、常に狙われる状況で、子供二人を抱えて戦えるとは思えない。


「隠れ里にダークエルフが行って、いじめられたりしないのか?」


 俺は気になったので、ジェミニに訊いてみた。


「そんなことはワシがさせぬよ。この子達にそんな運命を背負わせてしまった責任は取る」


 そうだな。

 ジェミニが変な鍵を設定したから、この家族が狙われることになったのだ。

 まったくもって余計な事をしてくれたもんだ。


「ところで、ジェミニが許可を出すってことは、エルフの隠れ里の長はジェミニなのか?」


 これだけ権限があると言っているのだし、歴史も知っているのだから、ジェミニが長なのだろうな。

 そう思っていたが、返ってきた答えは違った。


「いいや、ワシは数名おる長老の一人じゃ。長は別におるよ」


「エルフの長だと長寿だから、ずっとその人が長をやっているのか?」


「いや、その前の長は好戦的で、折角隠れ里にいるのに、火の一族と戦うために打って出るとか言い出したのでリコールされたのじゃ。それで今の長が選出されたわけよ」


「エルフの長のリコール……」


 その言葉で俺とオッティに冷たい汗が流れる。

 特に深い意味はない。

 絶対にない。

 余計な詮索はしないことが長生きの秘訣だ。

 勿論リコールとは、政治的な意味のリコールのことである。

 それ以外にリコールの意味があるなんて知らない。

 絶対に知らない。

 知っていても記憶にない。


「なあアルト、あの――」


「わーわーわーわーわー」


 オッティが何かを言おうとしたので、俺はそれを遮るように叫んだ。

 そう、何故かそうしなければならない気がしたのである。


「そんなことよりも、どうやって火の一族を倒すかを考えようじゃないか」


「そうね。ギガ達が安心して外の世界に戻ってこられるようにしないとね」


 シルビアが頷く。

 俺は話題を変えることに成功して内心ほっとした。

 が、それもつかの間。


「アルトは以前、完膚なきまでに叩きのめしたじゃないか」


 オッティがそんなことを言いだした。


「あれ、俺ダークエルフと戦ったことなんてあったっけ?」


 まったく記憶にない。

 転生してからというもの、ダークエルフなど見たことがないぞ。


「ほら、図面と検査治具とカンバンを使って……」


 オッティに言われて思い出したが、それは前世のことじゃないか。

 というか、こっちも地雷が埋まっていた。


「いや、その話もやめておこう。なんか、ここで話すのは適切じゃないっていう気持ちでいっぱいだ」


「そうか、残念だな。あの時のお前は最高に輝いていたぜ」


 うん、あの時はノリノリでオーバーキルだったような気がする。

 気がするが、ダークエルフは強かったのも事実。

 一筋縄ではいかなかった。

 ダークエルフの話ですよ。


 結局、エルフの隠れ里の入り口は、ジェミニがいればどこにでも出現させることが出来るらしく、ギガ達はこの場から隠れ里に移動していった。

 出る時は里の中にいる長老にお願いすれば出られるらしいが、戻るときはまたジェミニのように外にいる権限者にお願いしなければならないというので、ずっと里で暮らすことになりそうだ。

 魔神の封印については、翌日ジェミニが封印を重ね掛けするのを観察させてもらい、俺が作業標準書を作成して同じことが出来るようにしておいた。

 まあ、これで300年は大丈夫だというので、俺の出番はないだろうけど。


 俺は全てが終わってステラに帰ってきていた。


「エルフとダークエルフ。なんて罪深い種族なんだ」


 今回の冒険を思い出してそう独り言ちた。



※作者の独り言

想像で書いておりますので、何か思い当たることがある人がいても、それは偶然の一致でしかありません。

今回のお話は、異世界のエルフとダークエルフのお話であって、それ以外のなにものでもありません。

それにしても、最近は系列って無くなってきたので、車両メーカーの工場は無理だとしても、ティア1の工場ならどこのメーカーの車でも入れるようになったのはいいことですよね。

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