第136話 設計完了後にIMDS登録を要求されても、禁止物質入っていたらどうすんのや

 その日俺は珍しく、上位の冒険者からの相談を受けていた。


「鉄が使われていないかの測定ですか」

「ええ」


 相談に来たのは銀等級の冒険者であるエアトレックとそのパーティーだ。

 相談内容は装備品に鉄が使われていないかということだった。


「べつにそれは構わないが、理由を教えてくれるか」


 俺はエアトレックに理由を訊ねた。

 装備に鉄が使われていて困るのはハイジャック犯くらいなもんだろう。

 この世界にハイジャックはないから、理由がわからない。

 単に鉄が入っているかいないかでは、不具合の対策のしようもない。

 その先にある理由が必要なのだ。


「実は精霊の祠に行って、精霊に会おうとしたのですが、会うことができなかったんですよ」

「それと鉄と何が関係するんだ?」

「精霊は鉄が嫌いなんです。だから、精霊の祠に行っても鉄を身に着けていると、精霊が出てきてくれないのです」

「なるほどね」


 エアトレックが持ってきた武器はミスリル銀でできていた。

 目の前に出された装備品を見る限りでは革製品が多い。

 留め金は金や銀で作成されている。

 合金で鉄が混じっているというわけでもない。

 俺は装備品を見ながら唸る。


「うーん、鉄を使っている様子はないな。本当に鉄が理由なのか?」

「他のパーティーは精霊の祠で精霊に会うことができたって言っていた。俺達だけ会えないのは鉄だとしか思えないんだ」


 どうしても精霊に会えなかった理由は鉄だというエアトレック。

 こういう時は装備品をIMDS登録してあれば便利だな。

 IMDSとはInternational Material Data Systemの略で、完成車両メーカーが環境保護を目的とした各種の法規に対応するため使用物質のデータを収集しているシステムだ。

 ドイツで開発されたため、公用語が英語とドイツ語となっている。

 日本語対応してほしいのだが、どうして日本のメーカーはこういうところが弱いのか。

 SOC4物質をはじめとした禁止物質を使用していようものなら、大問題となるので、それを事前に発見できるのだ。

 SOC4物質とは環境負荷物質で、水銀、鉛、カドミウム、六価クロムのことである。

 使っちゃダメ絶対!

 まあ、規定値以下ならいいんですけど。

 というわけで、使用している物質を登録するシステムがあればいいのだが、そんなものをここに求めるのは間違いだな。


「どう鑑定をしても、鉄は見当たらないなー。本当にこれで全部か?」


 俺はどうしても鉄が見当たらないので、エアトレックが冒険をしたときに持っていた装備品を、ここに全て持ってきていないのではないかと疑った。


「それは間違いないはずだ」


 エアトレックは自信を持っている目をしている。

 だとすると、見えないところに鉄が混ざっているのか。

 そう考えていたら、思いついたことがあった。


「金属製の武器っていうと、このショートソードだけど、刀身を止めているピンってなんだろうな?分解してもいいか?」

「ああ、構わないぜ」


 柄の部分をばらして止めピンを確認したところ、どうやらそれは鉄でできていた。


「これが、鉄だな」

「これかー」


 エアトレック達もピンを覗き込む。


「ショートソードを買うとき、どうやって言ったか覚えているか?」


 不具合箇所を突き止めることができたので、此処からは原因の調査だ。


「ミスリル銀でできたソードが欲しいって言ったんだよな」

「なるほど、鉄は使ってないという条件ではなかったのだな」

「ああ。でも、ミスリル銀のソードっていったら、精霊に会うために鉄じゃだめなんだなって気が付くだろ、普通は」


 エアトレックが反論してきた。

 だが、その普通はという考えは大きな間違いだ。

 設備のM6のねじの頭を締めすぎてねじ切ってしまう作業者にたいして、「普通は締める力加減をわかっているだろう」というのは、作業を指示したほうが悪い。

 締め付けトルクについては、トルクレンチやトルクドライバーを使用して、誰がやっても一定の力で作業できるようにするべきなのである。

 知っているはずと思い込んだ方に原因はある。

 対策書でも、指導者が常識的に知っていると思い込んだっていうのは、なぜなぜ分析に出てきやすい。

 エアトレックにもそのことをわかりやすく伝えた。


「確かに、刀鍛冶が精霊の祠の事を知っているわけもないか」

「そうだろう。刀身はミスリル銀だったのだから、注文通りじゃないか」

「次からは鉄を使わないでくれって言わないとな」


 エアトレックは納得してくれた。

 彼らがベテラン冒険者であったが故に、自分達が知っていることは常識であると錯覚したのだろう。

 これから止めピンの材質を変更して、再び精霊の祠に行ってみるという彼らの背中を見ながら、俺は前世で書いた対策書を思い出していた。



品質管理レベル39

スキル

 作業標準書

 作業標準書(改)

 温度測定

 荷重測定

 硬度測定

 コンタミ測定

 三次元測定

 重量測定

 照度測定

 投影機測定

 ノギス測定

 pH測定

 輪郭測定

 マクロ試験

 塩水噴霧試験

 振動試験

 引張試験

 電子顕微鏡

 温度管理

 照度管理

 レントゲン検査

 蛍光X線分析

 粗さ標準片作成

 ガバリ作成

 C面ゲージ作成

 シックネスゲージ作成

 定盤作成

 テーパーゲージ作成

 ネジゲージ作成

 ピンゲージ作成

 ブロックゲージ作成

 マグネットブロック作成 new!

 溶接ゲージ作成

 リングゲージ作成

 ラディアスゲージ作成

 ゲージR&R

 品質偽装

 リコール


※作者の独り言

IMDSって設計が登録をするべきだと思うんですよね。

使用禁止物質を使った設計をされていたら、品管が初物提出前に登録するときに気が付いても手遅れですからね。

っていうか、SOC4物質の含有量調査にだって時間がかかるので、設計時にやるようにお願いしたいです。

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