第135話 相談窓口の日常
「炭化水素作り出せるのか」
俺は自分のスキルを確認していた。
【コンタミ測定】ではフラスコやビーカーに加えて、炭化水素も作り出せることが判明した。
コンタミ測定に使用するので、正確には炭化水素系洗浄剤だな。
これで、金属、酸、水、塩、鉱石に続いて、石油っぽいものが生成できるようになったわけだ。
とても便利だけど、使い道が今一わからない。
脱脂するのに便利ってだけだな。
燃料にも困らないっていうのもあるか。
この世界の温室ガスは俺が作る!
「さて、今日の相談を片付けるとするか」
さて、最初の相談者はパーティーリーダーの男だ。
「魔法使いと格闘家が恋人で、冒険していてもいちゃつくのが辛い?職場恋愛を禁止しなさい」
辛いってなんだよ。
あー、辛いのは自分に彼女がいないからか。
じゃあ、対策は変わってくるな。
「恋人を作りなさい」
「はい……」
なんか、品質管理じゃなくて占い師みたいになってきたな。
相談窓口なので、恋愛相談でも受け付けるけどさ。
そういえば、パーティー崩壊の原因に男女関係っていうのがあったな。
これは統計に出てこないだけで、隠れた要因としてかなりの数があるんじゃないだろうか。
直接的な原因でなくても、間接的に雰囲気が悪化して、些細なことから人間関係が崩壊している事例をどうにかして調査してみたいな。
「はい次」
次の相談はもっと酷かった。
「年上の女性が好きなのに、受付嬢が若くて困る?公差の範囲をもっと上にできないか?だと」
その気持ちはよくわかる。
女房と畳は新しい方がいいとか言った奴を見つけ出して土下座させてやりたいよな。
でも、冒険者ギルドは熟女パブじゃないんだぞ。
「冒険者ギルドに何しに来てるんだ。ここは仕事の斡旋だぞ。女を見たいなら娼館にでも行け」
「高いんだよ」
「知らんがな」
何処かのハードボイルド小説家みたいになってしまった。
そういえば、娼館って若い女の子ばかりだよな。
年齢が上がったらどうなるのだろうか。
「レッサーヴァンパイアが倒せないんです」
次の相談はレッサーヴァンパイアか。
「銀で攻撃しましたか?」
「いや、それは。銀が高価なので、簡単には武器として使えません」
「じゃあ逃げよう」
三十六計逃げるに如かずだな。
品質管理的に言えば、対策に金がかかりすぎて不可能なので、この仕事をお返しするってことだ。
俺の所に相談しに来てもどうにもならない。
時々そういうことがある。
設備が老朽化して慢性不良が発生しているのだが、設備の更新に5億円かかるというので、経営者から更新を却下されてしまうのだ。
そんなもの生産を継続できるわけがないので、生産部門は返却してくる。
まあ、返却できない事のほうが多かったりするんだけど。
逃げられるなら逃げたほうがいいですね。
対策は銀の武器を所持すればいいんだろうけど、銀の武器を所持する財力がみんなあるわけじゃない。
ただし、レッサーヴァンパイアが迷宮内を徘徊しているのは危険なので、駆除に向かうべきだろうな。
等級の低い冒険者達には厳しい相手だから、冒険者ギルドの方で駆除するのがいいんじゃないかな。
「じゃあ、レッサーヴァンパイアに遭遇した場所を教えてもらえるかな。駆除の依頼を出しておくよ」
というわけで、本日の相談内容のフォローをしなくては。
まずは冒険者ギルドの入り口にアンケート回収BOXを設置だ。
アンケート用紙は受け付けにおいてある。
依頼を受ける際に、アンケートへの協力をお願いするのだ。
無記名回答となっているので、協力してくれる冒険者もいるだろう。
①内容はパーティー内に恋人関係が発生したことはあるのか。
②それによって人間関係がどう変化したか。
③解散や、クエスト失敗の原因になったか。
を確認する。
集まった回答内容によってはアンケートの質問を変えていこうとは思っている。
「次は熟女か」
俺は娼館を訪ねた。
「いらっしゃいませ。いい娘がそろっていますよ」
「いや、客じゃないんだ。ちょっと相談があってだな」
俺を客と勘違いしたボーイに、ここに来た理由を伝え、オーナーへの取次ぎをお願いした。
「歳がいったいった娼婦がどうなるかだって」
「ええ」
娼館のオーナーというので、裏社会の人っぽい男を想像していたが、出てきたのは老婆だった。
人当たりのよさそうな顔をしている。
裏じゃ何をしているのかわからないけどな。
「あたしみたいに、経験を活かして経営者になるってのがあるね。他はどこかの旦那に身請けされたり、病気で死んだりだねえ。まあ、金を稼ぐ手段なんて体を売るくらいしかないから、体が売れなくなったらまともな仕事が出来なくて、犯罪に関わるようになってっていうのが一般的かな」
「お金貯まらないんですか?」
「殆どが奴隷として売られてきた連中だからね。売り上げは店に持っていかれちまうのさ。あたしんところはまだ良心的で、10%バックしているけどね。貯まったお金で自分の身分を買い戻すのも夢じゃないよ」
どうにも言い訳がましいが、この店のシステムが嘘でも本当でもいい。
「どうして年齢が上がると客のつきが悪くなるんでしょうかね」
「はっ、男のお前さんがそれを聞くのかい」
「こういう店は利用したことがないんでね」
「モテる男はいいねえ。商売女はいらないってかい」
「いや、まだ童貞ですよ」
「へえ。それは失礼した。質問に答えようじゃないか」
俺の童貞というのを聞いて、オーナーは呆れたようだ。
童貞が許されるのは〇学生までだよねーの煽りを思い出す。
男だって結婚するまでは清らかな体でいてもいいじゃない、童貞だもの。
みつおかよ!
「あー、戻ってきてくれんかね」
「すいません」
「同じ値段なら若い娘を選ぶのが男ってもんだよ」
「熟女が好きな人だっているでしょう」
「中にはね。ただ、ここにきて並んでいる娘たちを見ると、若い方を選ぶのが殆どだよ」
「じゃあ、年齢に応じて値段を変えたらどうですか?それなら今まで高くて手が出せなかった客層を呼び込むこともできると思いますよ。回転率が上がればお店も儲かるでしょう」
「まあそうだね。全部の部屋が埋まってくれるならそれもありか。ただし、それでもいつかは客がつかなくなるんだよ」
「それまでに、なんかしら手に職をもってもらわないとですね」
なんか、セーフティーネットの話になってきてしまったな。
元々は熟女好きの冒険者のためにここに来たのだったけど、引退する娼婦の生活相談っぽくなってきた。
「新人の指導員とかどうですか?熟練の技があるでしょう」
「それは既にいるよ」
なんてこった、娼館ですら新人教育を導入しているとは。
この品質管理を真似させたい。
残念ながらこの思いは前世の会社には届かないけど。
「そうだ、プロ相手じゃなくて、素人の恋人とどうやって同衾したらいいかわからない女の子への指導ならどうでしょう」
「それはありだね。需要がどの程度あるかわからないけどね」
「家に派遣してみっちりと教育してもいいし、この店の部屋を使って指導してもいいでしょう」
「これは、こんな商売をしているあたしが言えたことじゃないんだけど、本当は体を売る娘がいなくなる社会を作っていくのが一番だよ。体を売るのは簡単だから飛びついちまうんだけど、他にも金を稼げる手段があってもいいだろ。人手が足りないところなんてわんさかあるはずさね」
オーナーのその言葉で前世を思い出す。
有効求人倍率が1を下回って、完全雇用状態になった日本でも、ブラック企業やブラックバイトという言葉は無くならなかった。
もっとまともで給料をちゃんと払ってくれる会社なんて沢山あるんだ。
糞みたいな職場にしがみつくこともないぞ。
しんみりとした話になりそうだったので、ここまでで話を打ち切り、年齢による値段の見直しの約束をして店を出た。
他にも娼館はあるのだが、この店が始めて、それが上手くいけばきっと真似をするだろうから、わざわざ他の娼館に行くことはしない。
「最後はレッサーヴァンパイアか」
これについてはギルド長に情報を上げて、対応を任せることにした。
それにしても、レッサーヴァンパイアが比較的浅い階層に出てきたのは気になるな。
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