第134話 贋金をつくろう
「プレス機が欲しい……」
俺は醤油を絞っているのだが、人力で絞るのは限界だ。
身体強化魔法ってこのためにあるんやないんやでー。
どこのムーン亭可モーニングだよ。
昭和でごめん。
「何よ、オークにでもなって、エルフをはらませるつもり?」
「シルビア、それは種付プレスだ。全くの別物だ」
横で作業を見ているシルビアさんの爆弾発言。
そんなものはここでは許されない。
ここ?どこ?
まあ、オークの順送種付プレスはちょっと見てみたい。
プレスと言えば、近所のプレス屋の社長が痛くない注射針つくったあの社長を敵視していたなー。
あんたそんなに技術ないやろ。
※この物語はフィクションです。
その友達の旋盤屋の社長は、日本初の改造拳銃作成で逮捕された技術者だけどな。
中学生時代に旋盤で改造拳銃作って、発砲して逮捕だ。
※この物語はフィクションです。
「いつもみたいにゲージを上に乗せて絞ればいいじゃない。収納魔法でゲージを回収すればいいだけでしょ」
「それだ!」
絞り工程一件落着。
シルビアさん、冴えてる。
スクリュープレス無くてもいける!
こうして無事に醤油を絞ることができ、火入れしたものをティーノに届けた。
もはや、冒険者ギルドよりもこちらが本業に思える。
いや、それは考えちゃだめだ。
納品が終わったので、冒険者ギルドに帰る。
まだまだ溜まっている相談窓口業務をこなさねば。
「どうも、レネゲード・セドリック『鋼の錬金術師』です」
「あ、はい」
今回はレネゲード・セドリックと名乗る錬金術師からの相談だ。
俺が経験したのは、新規立ち上げ失敗の連勤くらいなもんだぞ。
相談にのれるか不安だ。
っていうか、錬金術師が冒険者として活動しているんだね。
「何で『鋼の錬金術師』と呼ばれているかというと、様々な金属を金にしようと思って研究をしていたら、偶然鉄に他の金属を混ぜることで焼入れの性能が変わることを発見したんです。今までは木炭を使った浸炭くらいしかなかったのですが、これで色々な種類の鋼を作り出すことができ、そう呼ばれるようになりました」
なんだ、お母さんを蘇らせようとして、体の一部を失った訳じゃないのか。
自力で特殊鋼を見つけたのは大したものだな。
「しかし、どうしても金が作り出せないんです。俺の情報半分やるから、お前の情報全部くれ」
「なんだよ、その残念なプロポーズみたいな台詞は。この世の理は等価交換だろ」
「スキルで金属を作り出す人の台詞じゃないですよ」
「それもそうか」
そういえば、この世界の質量保存の法則ってどうなっているんだろうか?
収納魔法もあるくらいだし、そんなもんは無いのかもしれない。
「金の作り方は後回しにしておいて、よく鋼を作り出す事が出来たな」
「『焔の錬金術師』と呼ばれているマスタングに手伝ってもらったからな。彼なら高温を作り出す事ができるんです」
どこかで聞いたような名前だが思い出せない。
このままいけばアルミの精錬にもたどり着きそうだな。
でも、金を作り出すのは無理だと思うぞ。
原子炉とかあれば別だけど。
「で、どうして金を作り出したいんだ。今のままでも冒険者としてやっていけるだろう」
「派生スキルで水銀から金を作り出すっていうのがあるんですけど、スキルレベルを30まで上げてやっと習得できるんで、手っ取り早くできたらいいなと。普通そこまでスキルが上がる前に寿命になっちゃいますからね」
「そういや、賢者の石でどうにかできないのか?」
「どうしてその名を!?」
あれ、賢者の石って一般的じゃないのか?
「昔読んだ本に書いてあったんだけど」
「なんてタイトルの本ですか?どうして錬金術師の秘密が書いてあるんですか。門外不出なんですよ。生成に成功した錬金術師はいないんです」
「いないの?」
「いたら今頃金をバンバン作り出しているはずですよ!」
金じゃなくてオリハルコンをバンバン作り出している人がお前の目の前にいるけどな。
まあ、ここで追い返してしまっては相談窓口の意味がない。
電気メッキでも教えてあげようか。
そういえば、金を溶かす王水も錬金術師が発見したんだよな。
「硝酸と塩酸を1:3で混ぜてだな――」
王水の説明をしたが、ヨウ素でも金を溶かすことはできるな。
ヨウ素を準備できるのか知らんけど。
地球でヨウ素が発見されたのは1811年だったか。
なら、頑張ればなんとかなるだろう。
錬金術は気合いだ。
それと、無電解メッキの還元剤ってこの世界で用意できるのだろうか?
駄目ならレモン電池で電気メッキだな。
そういえば、オッティはチートなスキルで金メッキのラインを作っていたけど、メッキ液分けてくれないだろうな。
いやいや、錬金術師たるもの未知の金属は自分で探し当てるものだ。
そもそも俺は品質管理であって、メッキの工程とか条件なんて詳しくない。
いや、大体は知っているけど、細かい条件なんて言われてもね。
QC工程表見れば理解はできるよ、勿論。
「ありがとうございました」
何とかメッキについて理解してもらって、レネゲードは帰っていった。
一か月後――
「アルト、すまないが事情聴取をさせてもらえないか」
顔を何度か見たことのある衛兵が俺の所に来た。
好きなことをしているだけ、悪い事なんてしてないよ。
「何故?」
「実は贋金を作った錬金術師が捕まったんだが、作り方をアルトから聞いたって証言したんでな」
「レネゲード?」
「やはり知り合いか!」
「待て待て。俺は錬金術の相談を受けただけだ。贋金作りの相談なんて受けてないぞ」
その後何とか納得してもらい、犯罪の教唆という誤解は解けた。
そういえば、前世で知り合いの学芸員から聞いた話だけど、とある博物館がブローカーが持ち込んだ小判を購入して、汚れを落とすために一晩梅酢に漬けていたら、翌日金が無くなって銅板になってたって話を思い出したな。
人は何故金メッキの技術を得ると、贋金を作ってしまうのか。
尚、贋金作りは重罪なので、セドリック兄弟とマスタングは処刑されてしまった。
折角の特殊鋼製造のノウハウが失われてしまったのは残念だったな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます