第137話 中二病でも砲撃したい

 俺はオッティに呼ばれて、カイロン侯爵領にいた。


「野砲を作りたい?」

「そうだ。カノン砲、榴弾砲、 臼砲きゅうほうを作りたい」

「戦争でも始めるのか?」


 俺はオッティの目的が戦争だと思っていた。

 どう考えても、多様な戦場に対応させるとしか思えないラインナップだったからだ。


「いや、単に好奇心だ。今の技術でどこまで出来るのかやってみたいじゃないか」

「その気持ちはよくわかる」


 俺も好奇心には勝てずに了承した。

 ほら、中学生に聞いた異世界転生したらやってみたいこと、第一位が火薬製造じゃない。

 作った火薬の使い道として、野砲に行き着くはずなんだ。

 中二病を発病してすまぬ。


「作るのは南北戦争当時の3ポンド砲でいいのか?」

「6ポンド砲からかな」


 6ポンド砲は初めて照準器が搭載された画期的な野砲である。

 また、南北戦争ではブドウ弾の使用された。

 陸戦ではキャニスター弾の方が一般的になったけどな。

 ライフリング加工が施された砲だと、ブドウ弾は使用できないし。


「これでうまくいったら12ポンドナポレオン砲を作る」


 オッティの説明では、3ポンド砲の砲身は1060ミリ、6ポンド砲で1650ミリ、ナポレオン砲で1830ミリとなる。

 砲身が長いほど威力が高く、直進性がよい。

 その分製造が難しいのだ。

 因みにナポレオン砲は青銅の砲身であり、他は鉄で出来ていた。

 鉄の砲が重いので、戦場で使うには持ち運びが大変だ。


「まあ、パロット砲が一先ずの目標だけどな」

「パロット砲かよ」


 オッティのいうパロット砲とは20ポンドパロット砲の事である。

 有効射程は1800メートルのライフル砲である。

 ライフリングの施された野砲である。

 鋳鉄の砲身に後部を錬鉄で包んでいる野砲である。

 錬鉄とは反射炉で精錬された鉄であり、鋳鉄に比べて炭素量が少ないため強靭になる。

 また、ライフリング加工がされたことで、コーン型の砲弾が採用されることになった。

 しかも初速が速い。

 それは、砲身と砲弾の隙間が無いので、発射時の火薬の爆発エネルギーのロスが少ないのである。


「まあ、技術的なてこ入れをしなければ、臼砲が精々だろうけどな」


 臼砲とは臼の形をした大砲である。

 弾道は迫撃砲のように山なりを描く。

 低初速なので、低い冶金技術でも製造が可能だ。

 どのみち火薬が無いから、カタパルトやバリスタ、連弩が精々なのだけど。

 っと、野砲の説明はこれくらいにしておこう。

 先ずは鋳鉄をスキルで出してからの、鋳造作業だ。

 溶接無しでの一発鋳造を目指して、オッティと一緒に砂型を考える。

 湯回り、ガス抜き、中子の形状と考えたが、


「二色成形できないかな?」


 と、オッティに相談された。

 二色成形とは二種類の材料で成形する技術のことだ。


「そもそも鋳造の素人が考えても上手くいかないから、二色成形しちゃおう」


 俺の好奇心を返せ。

 いや、ここは譲らないぞ。


「中子は割り型にして、抜き勾配なしにするか、切削加工仕上げにしよう。ライフリング加工するのに、どのみちもう一手間必要なんだから」

「そうか」


 オッティは渋々納得した。

 なお、その後試しに二色成形をしてみたらできたので、調子にのって三色成形をしてみた。

 メインは鋳鉄にして、一部をチタン、空洞にしたい箇所はアルミである。

 アルミは融点が低いので、熱をかけて溶かせば、砲身の完成というわけだ。

 異世界転生ちょろい。


「最初から鋳鉄じゃなくて錬鉄にすればいいのに」


 オッティに言われて気がついた。

 ついつい鋳鉄にしてしまった。

 なお、切削する場合は炭素量が多い方が切り粉が繋がらないので加工しやすい。

 靭性をどこまで求めるかだな。

 その後縦型や横型、縦型でも砲口を上にしたり下にしたりしながら、鋳巣の入り具合を確認していく。

 それはレントゲン検査スキルで行った。

 異世界転生ちょろい。

 横型だと湯のまわりが良くないのと、不純物の偏りが出たため、縦型に落ち着いたのだが、縦型でもガス抜きやら、湯口の場所やらで苦労した。

 なお、冷やし金の配置については、よくわかってないので、オッティがやるのを見ていただけだ。

 温度測定も、型の中だと上手く使用できなかった。


 そんな感じで、ナポレオン砲迄は簡単に製造できた。

 12ポンドの砲弾を1キロメートル飛ばせるので、この世界としては十分だな。


「ところで火薬はどうするんだ?」


 気になったのでオッティに聞いてみた。


「褐色火薬迄は現地生産可能だな。無煙火薬が出来るかどうか。チートスキルでなら生産可能だな」

「戦争をする訳じゃないなら、それでいいんじゃないか?」


 褐色火薬は黒色火薬よりも燃焼速度が遅い。

 ライフリングのある銃や砲では、隙間が無いので銃の内部圧力が高まらないように、褐色火薬を使用していたのだ。

 もっとも、無煙火薬が広まってからは、そちらに切り替わってしまったが。


「砲弾はどうする?徹甲弾か榴弾か」

「雷管作って榴弾にしようかな。ピクリン酸があるしな」


 と、オッティは言うが、二人とも雷管の知識が殆んど無いので、ネットで見た知識から作ることになった。

 砲弾の先頭に衝撃が加わると、内部の撃針が発火薬を叩く仕様である。

 作ったら試したいのが人情。

 核兵器もソーラレイも持ったら使ってみたいよね。


 連続砲撃もどれくらい出来るのか試してみたいし、試射出来るように榴弾も多めに用意する。

 確か、大昔のカノン砲だと、100発位が限界だったはずだ。

 現代の自走砲でも、連続砲撃となると砲身がもたないと聞いたことがある。

 ライフリング加工が有ると、摩擦熱が大きくなるので、砲身が熱によって壊れてしまうのだ。

 ここいらは機関銃も一緒で、どうやって冷却するのかが悩みどころだ。

 比較対象として、純オリハルコンで出来た砲身も用意した。


「オリハルコンで出来た砲身は『パラディン』と命名しよう」

「アメリカ軍と被るけどな」


 アメリカ軍の自走砲がパラディンっていう名前なんだよね。


「で、ライフリングはどうするんだ?」

「ライフルカッターかな?」


 オッティはそういうが、刃物はどうするのだろうか。

 ライフルカッターとは、切削加工でライフリングを施す加工方法である。

 他には塑性加工のライフルボタンやコールドハンマーっていうのがあるようだが、前世で改造拳銃を製造して逮捕された人に訊いたら


「旋盤使うならライフルカッターか、ライフルブローチだよ。俺はライフルカッターだったけどね」


 って言っていたのだが、よくわからないのでオッティに任せた。

 因みに、前装式なのはパロット砲をリスペクトしているからだ。

 3ポンド砲や6ポンド砲も前装式なのよね。

 なので、装填速度は結構早かったのだ。

 それと、静電気による発火があったときに、前装式はかなり危険だ。

 いや、後装式も危ないんだけど。

 火の粉が残っていると火薬を装填したとき爆発しちゃうぞ。

 よく掃除してから次弾を装填しようね。

 そんなわけで、異世界だと野砲を作るのは結構ハードルが高い。

 日本であれば法律さえクリアーしてしまえば、野砲は簡単に作れる。

 でも、作っちゃダメ絶対。

 ライフルカッターはオッティのスキルで作成し、ライフリングも無事に施すことができた。


「取り合えず、今回は徹甲弾にしておこうか」


 開発時間もなかったので、徹甲弾を作成して発射することになった。

 装薬量もよくわかってないしね。

 臼砲で25グラムくらいだったかな?


 そんなわけで、いろいろな野砲で発射実験を行ったが、オリハルコン製の榴弾砲は装薬量をかなり増やしてもびくともしなかった。

 その他の金属では連続砲撃で砲身が破損したので、自衛隊も砲身はオリハルコンで作ればいいと思います。

 今回鋳造のノウハウも手に入れたしね。


「そういや、この世界って移動手段が馬車くらいしかないから、これ以上大型の野砲を作っても、移動手段がないんだよね」


 とオッティに言ったら、


「シャーシ開発すればいいんだよ」


 って帰ってきたので、どうやら使う気満々じゃねーかとわかりました。

 危ないので、これ以上火薬は供給しないようにしよう。

 まあ、都合よく硝石が発見されるのが異世界転生小説なんだけどね。

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