第84話 アストラ・バモスの大予言
今日はオーリスに呼ばれて、カイロン伯爵邸に来ている。
「予言書?」
「はい。最近発見された遺跡から持ち帰られた本を解読したところ、予言のようなものが書いてあったのです。著者はアストラ・バモス。内容はここに」
オーリスが差し出した紙には、本から転記した詩が書かれていた。
俺はそれを声に出して読む。
――太陽は消え去り
――陸は海に沈み
――明るき星々
――大空より落ちぬ
――暗黒の煙・火炎
――渦巻き狂いて
――酷熱の焔は高らかに天に昇る
「……これは」
「知っているのですか?」
まあ、よく知っているといえば知っている。
ノストラダムスの大予言の一説だな。
なんでこんなものが遺跡から出てくるんだろうか。
「この遺跡ってどこにあるのですか?」
「そこまでは。文章が古代魔法帝国の文字で書かれていたので、王都の賢者の学院に持ち込まれたということはわかっております」
「古代魔法帝国?」
「はい。はるか昔に高度な魔法文明を築いた帝国で、何故か一夜にして滅んだと言われておりますわ」
何その設定。
アトランティスかムーなのかな?
というか、ノストラダムスの予言詩があるので、これは転生者が過去にもいたっていうことなんだろうな。
「王都でも話題になっているこの詩を、私達も謎解きに挑戦してみませんこと?」
「え、やるんですか?」
「調査チーム『ミステリールポタージュの二人』略して『MR2』結成ですわ」
「AWかSWか気になるところだな」
もう品質管理とか関係なくなっているよね。
そんなわけで、仕事に影響しない程度に、オーリスの調査に付き合うことになった。
行きつくところは小惑星の衝突と、火星移住計画なのは判っているけど。
「早速調査よ」
「調査って何をするの?」
「ミスが多い冒険者ギルドの職員を調べるの。何かの大きな計画の一環で、わざとミスをさせられているかもしれないわ」
「な、なんだってー!」
もはや帰りたい。
ここにはキャトルミューティレーションもバシャールもないんだぞ。
いや、無いとは言い切れないか。
多分ないけど。
転生者もとんだ偽書を残していってくれたものだ。
「さあ、お父様の許可は取りましたわ。早速職員の聞き込みをしますわよ」
「あ、はい」
カイロン伯爵の冒険者ギルドで聞き込みを始める俺とオーリス。
最初に来たのはポーションを製造している若者だ。
「あなたは昨日大きなミスをしましたね。ポーションの瓶を落として割ってしまったそうじゃないですか」
「はい。瓶を落とす前後の記憶がないんです」
「なるほど」
そういって腕組みをするオーリス。
「これこそ何者かが彼を操っている証拠」
「いや、そうじゃないだろ」
俺はオーリスにつっこんだ。
「じゃあ、聞くが前日夜中まで遊んでいたり、当日体調が悪かったりしなかったか?」
「前日は結婚が決まった友達と一緒に朝までお酒を呑んでいました。仕事を休むわけにもいかないから、なんとか出勤しましたが、途中途中で居眠りをしていたと思います」
「ほら、寝不足が原因だよ」
俺はオーリスの方を見た。
「レジデントオブサンという単語に聞き覚えは?」
尚も食い下がり、聞き取りをするオーリス。
だが、そんなよくわからない人物がいる訳もなく
「ありませんね」
と答えが返ってきた。
その後も色々と他の職員に質問をしていたが、知的生命体との接触の証拠など出てこなかった。
出てこられても困るけど。
「こんなに探しても、全く証拠が出てこないなんて……」
「だから、そもそも予言自体が嘘なんだって」
「でも、古代魔法帝国の書物ですわよ」
「それが予言書ではなくて、舞台演劇の脚本だったとしたら」
「そうなのですか?」
「そうとは言い切れませんが、予言書とも言い切れないでしょう。同じ著者の本が見つかれば『1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう』っていうのが出てくると思いますよ」
「ちょっと、その話を詳しく聞かせていただけるかしら」
そうして俺はオーリス相手に、日本で話題となったノストラダムスの予言について語ることになったのである。
尚、徹夜して仕事に来た彼にはきつくお説教をし、体調管理も仕事の一環であると教え込んだ。
数か月後、オーリスが書いた物語『恐怖の大魔王』が上流階級で話題となり、王都では人気の公演となるのである。
それが傾いていたカイロン伯爵家の財政を立て直したり、3年後が魔法帝国暦で1999年にあたるからと大騒ぎになったりしたのだが、今回は詳細は省かせてもらう。
※作者の独り言
徹夜で仕事に来るのは止めましょう。
尚、検査が終わらず徹夜になるのも止めてください。
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