第83話 AGVをつくろう

 本日俺は将軍の官邸に呼び出されていた。

 フォルテ公爵の領地にドワーフが集まっている件について、とだけ知らされているが詳しいことはこれから聞く。

 いつもどおり護衛としてシルビアが付いてきている。

 応接室のドアの前まで来たので、ノックをした後声をかける。


「アルトです」

「入ってくれ」


 室内から将軍の声が聞こえた。

 許可がおりたので室内に入ると、将軍とクイントがいた。


「フォルテ公爵領に送り込んだ諜報員からもたらされた情報によると、ドワーフ達は鉄の棒を作っているらしい」

「鉄の棒ですか?」


 そんなものわざわざドワーフを大量に集める必要もないだろうに。

 特殊なのかな?


「はしごを横にしたような感じで、床に鉄の棒を敷いているらしいな。そして、その上を車輪のついた籠が動いているとか」


 将軍は説明を続けた。

 それってレールのことかな。

 だとすると、プラント内部での運搬用のトロッコなのだろう。


「その籠は何を運んでいるかわかりますか?」

「溶けた鉄だということだ。鋳物の工房のようだと報告にあるな」

「なるほど。それで、今日ここに私が呼ばれたのは、その情報を聞かせるためだけって事はないでしょう。本来の目的は何でしょうか?」

「実はな、その仕組を国でも真似しようというのだ。それで相談にのってもらいたいのと、できればフォルテ公爵の鋳物の工房を使い物にならなくしておきたいんだが」


 素晴らしい。

 鉄道は男のロマンだ。

 全国にレールを敷設したい。

 前世では、自分の祖母が専用のレールを持っていた。

 自宅から学校の前までレールを敷いて、毎日トロッコで通学していたのである。

 その話を聞いて、俺も戦前に生まれたかったと思ったものだ。

 いや、工場内であればAGVの方がいいかな。

 AVGというのはAutomated Guided Vehicleの略で無人搬送車の事である。

 工場内で部品を搬送してくれるロボットだと思ってくれればいい。

 この世界に電子部品なんか無いが、代わりに魔法があるのだ。

 ゴーレムは簡単な命令なら実行できるので、指示があったら部品をピッキングするようにプログラムをすればよい。

 指示というのは、決められた場所に部品が無くなったらとすれば、毎回口で命令しなくても、常にその場所を監視して、部品を自動で補充するように出来るだろう。

 ただし、いくらゴーレムとはいえ、重量の限界はあるので、フォルテ公爵の鋳物工場のように、重量物についてはトロッコのような車輪のついたもので運搬するのがよいだろう。

 そのことを将軍に伝えた。


「なるほど、ゴーレムによる部品の自動供給か。それなら作業者の稼働率があがるな」

「ええ。しかし、そんなに大量に何をつくるというのですか」

「確かに、武器も戦争が無ければ、大量に作る必要もないしな」


 だからこそ死の商人は、どこかしらで戦争を起こして、無理矢理需要を作っているのですけどね。

 やはり、世界は大量消費をするだけの需要がない。

 そもそも、それだけ需要を作るということは、人口の増加が必要になるのだが、食糧生産が追いつかないだろうな。


「まあ、フォルテ公爵は戦争の準備として、武器を大量に作る必要があるのでしょうね」

「だとすると、その工房を使い物にならなくしなくてはなりませんな」


 とクイントが将軍の顔を見る。

 しかし、先程から工房という言い方が気になる。

 工場って概念が無いのだろうけど、工房というとどうも小さいイメージしかない。

 相手はレールまで敷いているというのにな。

 プラントとファクトリーを間違って使っている日本人に遭遇したアメリカ人ってこんな感じなのかな?

 俺はそんなことを考えていたら、少し上の空になっていたらしい。


「アルト」


 シルビアに肘でつつかれて意識が戻ってきた。


「ごめん、何の話だっけ?」

「相手の工房を使えなくする方法よ」

「あー、溶けた鉄に水をかければ大爆発して、工場が吹っ飛ぶよ」

「「「コウジョウ?」」」


 この部屋にいる俺以外全員が、コウジョウが何であるかわからなくて聞き返してきた。

 当然か。


「工房の大きなやつですね。今回はかなり大きな施設のはずですから。だけど、溶けた鉄に水をかければ粉々に吹っ飛ぶのは間違い有りません」


 溶融炉の水蒸気爆発は何度も起きている労働災害だ。

 なのに、始業点検を疎かにして、何度も同じ失敗を繰り返しているのだ。

 なんていうか、仕業点検をなめすぎですね。


「どうやって水をそこまで持ち込むというのだ?」

「魔術師なら水魔法を遠くから打ち込めるでしょう。それか、通路上の天井に穴を開けておけば、雨が降ったら雨漏りで爆発しますね」


 正直、命の危険があるような事故を引き起こす手段を教えるのはどうかと思うが、国家に反逆する意思がある集団を見過ごすわけにもいかない。

 すまんな、水島。

 せめて死なないようにな。


「自分の知識ではここまでですね」

「その工場内での無人搬送について、ゴーレムを作れそうな魔法使いは知っているか?」


 将軍は無人搬送を実現するつもりらしい。


「そうですねぇ……」


 俺はカレンから教えてもらったので、自分でゴーレムを作って、運搬をさせることも可能なのだが、それをここで伝えると、いよいよもって国家からの監視や依頼が増えそうなので、カレンを推しておいた。

 マーキングをするポカヨケを作ったときに、トリガーについての説明はしているから、カレンの能力であれば問題なく無人搬送ゴーレムを作ることが出来るだろう。



 数日後、カレンが冒険者ギルドにやってきた。

 彼女の隣にはサイノスがいて、二人とも旅装束だ。


「アルト、あんたでしょ。将軍にゴーレムを作れるって私を推薦したのは」

「そうだよ。この街でカレン以上の人を知らなかったからね」

「お陰で王都に行くことになったわ。暫くの間、王都の賢者の学院で運搬ゴーレムの研究よ」

「それで別れの挨拶か。そんな必要無かったのに」

「挨拶はついでよ。サイノスも一緒についてきてもらうから、冒険者ギルドにマジックアイテムを卸すことが出来なくなるのよ。ライトや発火の付与されたマジックアイテムは暫く品薄になるわね。向こうについたらサイノスが作り始めるけど、王都とステラの距離を考えたら、納品に時間がかかるようになるから、その話をしにきたのよ」

「あー」


 そこまで考えていなかったな。

 器の作成はサイノスがいなくても出来るが、付与魔術師の代わりがいない。

 カレンとサイノスの穴を誰が埋めるんだって話だな。


「そういえば、アルトは私の付与魔術を30分で使えるようになったわよね。サイノスの付与魔術も出来るのかしら?」

「作業標準書のスキルを使えば可能だよ」

「じゃあ、あんたが代わりを務めなさい」

「ええ!!」


 そうして俺は賢者の学院に付与魔術師が新しく来るまで、マジックアイテムに魔法を付与する仕事を點せられることになった。



※作者の独り言

AGVってどこでも音を鳴らして人に接近を知らせるのだと思っていましたが、とある工場では無音で走っており、よく人と衝突しているという話を聞きました。

対策しないのか?

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