第72話 失敗は成功の母だとしたら、弊社はどれだけ母親がいるというのでしょうか

工程能力0.011の製品との戦い。

今週の労働時間が100時間に迫る。

もうやだ、異世界に転移したい。

という作者が贈る異世界ファンタジー。

ロウキマダー

それでは本編いってみましょう。



 ティーノとメガーヌのお陰で、中華鍋の存在が広く知れ渡り、最近では軍でも採用されるようになった。

 万能鍋ということに加え、丸い形が盾にもなるというのだ。

 材質は鉄だしね。

 というわけで、最近はエッセの工房も忙しい。

 へら絞りではなく、プレス機が欲しいところだな。

 エッセから報告された店の売上金の数字を見ながら、冒険者ギルドの相談窓口でニヤニヤしていると、遊びに来ていたオーリスが嫌なものを見るような目線を投げてきた。

 そんなに桑田さんみたいな顔をしていたか?


「手紙です。ここに受け取りのサインをお願いします」


 そんな空間に水を差すように、俺に一通の手紙が届いた。


「俺に?」

「はい。ステラの街の冒険者ギルドにいるアルトさん宛で間違いないです」


 はて、俺に手紙を送るような人物など心当たりがない。

 両親とは音信不通で、ここに俺がいることすら知らないだろう。

 あとは王都に行った料理人のクリオくらいなもんだ。

 まあ、俺が金を払うわけではないし、受け取って中身を見てみればいいか。

 俺は受け取りのサインをして、手紙を開封した。


「あ!」


 俺は驚きの声を上げた。


「誰からですの?」


 オーリスも手紙をのぞき込む。

 それは人としてどうかと思うぞ。

 通信の秘密は日本国憲法第21条で保障されているんだ。

 ここには日本国憲法ないけど。


「オッティからだな」

「酷い手紙ですけど、相手の心情はよく伝わってきますわね」


 文章は極短い。

 ”ちゃんと教えろ。修正が大変だ。オッティ”

 とだけ書いてあった。

 電報かよ。

 わざわざ高い金払って、これだけの文句を言ってくるとは、余程腹に据えかねたようだな。


「どうやらコンソルテの設計は失敗しているようだな」

「狙い通りですわね」


 俺とオーリスは死神のノートを拾った新世界の神のような悪い笑みを浮かべる。


「やはり組み付かなかったようだな。何を作ったのかは知らないが」

「修正できるものなんですの?」

「穴に入らないのだったら、穴を大きくしてやればいい。ただし、組み上げた時の寸法がずれるだろうけどね。棚や机ならまだしも、動くものだと他の部分と干渉して、使い物にならないこともあるよ」

「そうなのですね。しかしそうなると、将軍に一度報告したほうがよろしいですわね」

「そうだね、何かを作っているのは事実だからね」


 ということで、この件は将軍へ報告し、フォルテ公爵の監視を強化してもらうことにする。

 まあ、俺が報告しなくとも、既に監視は継続して行っているのだろうが。


「でも、これで相手も経験を積んで、次は失敗しなくなりますわね」

「本当にそう思っているかい?」

「違うのですか?」


 信じられないと謂ったような表情のオーリス。


「だって、これで経験を積んで次は失敗しないなら、そもそもオッティがコンソルテを教育出来るはずだろ。奴が教えられないということは、経験を活かせていないって事なんだよ」


 ええ、製造業では同じ失敗を繰り返す人が驚くほど多いです。

 犬や猫ですら、一度失敗したら覚えるというのに、どうしてこうも同じ失敗を繰り返すのでしょうか。


「言われてみればそうですわね」

「さて、メガーヌから油淋鶏っぽいのが出来たと連絡があったので食べに行こうか」

「油淋鶏?」

「鶏肉を使った料理だよ。中華鍋でつくるのにいいかなと思って、イメージを伝えたんだけど、それが出来たみたいだね」

「いいですわね。さあ、行きましょう」


 油淋鶏は美味しかったです。

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