第54話 ルールか?

対策書書くのが辛いので異世界に逃げたい。

それでは本編いってみましょう。



「それじゃあ、フォルテ公爵とオッティの件はお願いします」


 賢者の学院から戻った俺は、ギルド長にオッティの事を伝えた。

 フォルテ公爵はこの国の貴族では5本の指に入る権力を持ち、その領土も広い。

 俺の手には負えないので、判断はギルド長に委ねた。

 ギルド長は直ぐに将軍と協議をするようだ。

 贋金作りに公爵が絡んでいるとなると、話は大きくなりそうだな。


 俺は自分の席に戻り、コーヒーを飲む。

 品質管理に生産技術か。

 神はこの時代に産業革命を起こせとでもいうのだろうか?

 産業革命に至るには、その下地となるものが必要だと思うが、その過程無しでやったらどうなるのかと謂う、社会実験を俺達にやらせようとしているのかな?

 などと考えていたら、お客さんがやって来た。

 以前相談に乗ったランディだ。


「久しぶりだね。今日は?」

「実は相談がありまして、シエナと破局しそうなんですよ。助けてください」

「恋愛相談は対象外だよ」

「冒険のルールが原因なんですよ」

「ルール?」


 ランディの話を聞くと、迷宮ウサギの毛皮の剥ぎ方のルールというか、標準作業が原因でケンカをしたと謂うのだ。

 ランディは手順通りに作業をしようとしたが、シエナがもっと効率のよいやり方があると言って、そこからケンカになってしまったのか。

 これは作業観察時によくあったな。

 作業者が作業標準書と違う事をしているのだが、工程をよくよく観察してみると、作業者の方が正しくて、作業標準書の方が間違っているのだ。

 そういうときは、作業標準書を改訂することになっていた。

 ルールや標準作業は絶対ではない。

 間違いや、もっと効率の良いことがあれば、その都度改訂してもよいものなのである。


「ルールなんてものは所詮は人が作り出したものだ。それが絶対正しいなんてことはありえないんだよ。間違っていれば見直してもいいんだ。毛皮の剥ぎ方はどっちが早いか確認したのかい?」

「いや、ケンカした後は何も確認していません」

「じゃあ、確認する必要があるな」


 まずはどちらが正しいか検証だ。

 男女の仲はわからんが、どちらが正しいのかは確認しておこうじゃないか。


「話は聞かせてもらったわ。それならいまから迷宮ね」


 いつの間にかやって来たシルビアが、俺とランディに迷宮に行こうと誘ってくる。

 まあ、元々確認をするつもりだったのだ。

 善は急げというし、今から迷宮に行くのもありかな。


「さっさとシエナを呼んできなさい」

「シエナも?」


 俺は思わず聞き返した。

 仲直りもしていないのに、今から呼びに行って一緒に行こうと誘うのか。


「『私のこと、好きだっていうの、忘れないよ……』って言われたんですよ」

「いいからさっさと連れてきなさい!」

「はいっっ」


 シルビアに睨まれてランディが走っていった。

 しばらくすると、ランディがシエナを連れて戻ってきた。


「これでついてくるんだから、まだ破局するってわけじゃないわよ」


 とシルビアが耳打ちしてきた。

 その確認か、狡猾だな。

 さっきランディが言われたセリフが本当なら、ビームライフルで撃ち抜かれるんだけどさ。

 俺たちは4人で迷宮に潜る。

 迷宮ウサギの出没地点なら、等級の低い冒険者でも問題がないので、俺とシルビアがいればパーティー編成など気にしなくてよいのだ。


「今から迷宮ウサギを2羽捕まえてくるから、二人でどちらの方法が早くて綺麗に皮を剥ぐことができるか比べてみようか」


 そう、早いだけでは駄目だ。

 素材として高値で売るためには綺麗にという条件も付く。

 いい感じに外傷が殆どない状態の迷宮ウサギをシルビアが持ってきた。

 それをランディとシエナの前に置く。


「じゃあ、いいかい」


 俺が訊ねると、二人は黙って首肯する。


「始め!」


 俺の合図で二人がそれぞれ迷宮ウサギの皮を剥ぐ。

 その描写はグロいので割愛だ。

 年齢制限に引っかかる可能性もあるしね。

 誰の?


 見ていると、シエナの方が綺麗で早い。

 ランディはルール通りなのだが、これは標準作業を改めなくてはいけないな。

 時間にして30秒差、作業の綺麗さでは若干シエナに分がある。


「どうだ、ランディ」


 目の前の結果の感想をランディに訊く。


「時には標準作業通りでは駄目だとわかりました」

「そうか。今回はシエナのやり方で時間も綺麗さも良くなったけど、早ければいいってものじゃないから、標準作業を変更する時は必ず変更前後での確認をするようにね」

「はい」


 ランディの方はこれでいいか。


「シエナは何か言うこと無いの?」


 とシルビアがシエナに訊く。


「ランディったら頭が固くて、これで結婚したらと思うと先が思いやられるわ」

「どうするの?」

「今のうちから、私がしっかり教育します」

「そう」


 良かったねランディ、見捨てられることはなさそうだよ。

 もっと辛い未来が待っているかもしれないけど。


「さて、問題も解決したことだし帰ろうか」


 なんか、先程までとは打って変わって、いちゃいちゃムードを出しているランディとシエナに、街に帰ろうと促した。

 しかし、それに反対したのは意外にもシルビアだ。


「ここからなら、二人でも問題なく街まで帰ることができるでしょ。少し暴れたり無いのよ。アルトは付き合いなさい」

「何で?」

「他人がいちゃいちゃしているのを見ると、無性に暴れたくなるのよ」


 まあ、気持ちはわからんでもない。

 結局ランディとシエナを先に帰し、俺とシルビアは迷宮の中で目的もなく暴れまわった。

 まったく、最近は恋愛がらみの相談が多くて困る。



※作者の独り言

ランディはグレミーではないので、ビームで殺されたりはしません。

タイトルを何にしようか悩んでいた時に、ルールからルー・ルカが思いついたので、勿体ないから使っただけです。

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