第53話 NC加工を異世界で
祝日にも関わらず、客先で選別作業をしている自分に、もう少し幸運が訪れてもいいと思うの。
※最初に投稿したときの話です。
それでは本編いってみましょう。
俺はギルド長の執務室に居た。
「賢者の学院でゴーレムの研究をしている研究者に会いたいのですが、どうにかなりませんかね」
「どうしてだい?」
俺のお願いに、ギルド長は戸惑った様子を見せた。
俺がいつもより前のめりだからだろう。
「実は品質管理だけではなく、この世界の技術水準を向上できる可能性があるんです」
「技術水準をかい」
「はい」
俺は産業用ロボットのイメージを伝える。
さらに、ゴーレムを使ったNC加工も目指す。
どの程度の誤差で動作させられるのかわからないが、ミクロン単位の誤差であれば、21世紀と同等のものが再現できるかもしれない。
少なくとも、前回エランの為に作成したポカヨケは不要となり、重量計測の仕事は全て自動化できるのだ。
省人化、無人化バンザーイ。
暴動が起きるかもしれませんが。
「まだ可能性の段階ですけどね」
「大変興味深いけど、冒険者ギルドと賢者の学院の繋がりは薄いからね。オーリスにお願いして、伯爵からの依頼としてみてはどうだろう」
「わかりました、オーリスに聞いてみます」
残念ながら、冒険者ギルドのコネでは駄目だった。
仕方がないので、毎日食堂にどら焼きを食べに来ているオーリスを捉まえて、賢者の学院についてお願いしてみた。
「そういうことならお父様にお願いしてみますわ。ただし、私もご一緒させていただきますけど」
「よろしくね」
よかった、これで何とかなりそうだ。
「そういう事なら私も一緒に行くわ」
「シルビアもか?」
「嫌なの?」
すごまれると怖いので、止めていただきたい。
結局三人で賢者の学院に行く事になった。
勿論、伯爵の名前を使ってアポイントメントは取得できた。
「いかにも象牙の塔って感じですわね」
「排他的すぎるんだよな」
「魔法の罠がありそうね」
賢者の学院は高くそびえる塔である。
高くといっても地上5階くらいだが。
その前に立ち、俺達はそれぞれの感想を口にした。
「さて、入りますわよ」
オーリスを先頭に歩いていく。
門番には書状をみせたら問題なく通してもらえた。
流石伯爵名義の書状だ。
塔を四階まで上って、目的の部屋に辿り着いた。
「カレン様、カイロン伯爵家のオーリスです」
ドアの前でオーリスが呼びかけると、室内から返事があった。
「今開けるわ。入って頂戴」
その声が聞こえると同時に、ドアが左右に開く。
俺達が室内に入って目にしたものは
「ドアを開けたのはゴーレムか」
左右のドアを開閉しているのはゴーレムだった。
鉄でできているから、アイアンゴーレムかな。
丁度人と同じくらいの身長だ。
このゴーレムの使い方は、俺が望んでいるものに近い。
センサー役のゴーレムがあれば自動ドアにできるな。
「さて、今日はどんな御用かしら?あまりくだらないことなら帰ってもらいますが」
カレンは品の良さそうな中年の女性である。
が、言い方はきついな。
「実は、先ほどドアを開けたようなゴーレムをもっと他の事に使えないかと思いまして、相談に伺ったのですよ」
「あら、先日もそういう方がお見えになったわね」
「――!!」
その言葉を聞いて、俺は直感した。
そいつはメッキ工場を作ったやつだ。
「どんな事を言ってましたか?」
「ゴーレムに命令をしたら、どこまでの精度でそれを守れるか聞いてきましたわ」
「縦横高さの同時移動とかじゃないですか?」
「よくわかったわね」
ビンゴだ。
三次元移動させる制御が可能か確認していたのだろう。
「どれくらいの制度でできるのですか?」
「彼も繰り返し動作させて、その精度を見たいと言っていたわ。でも、細かい寸法は測れないとも言っていたわね」
「俺なら測れます」
「じゃあ何をさせればいいかしら?」
「机の上に紙をおいて、同じ場所に点を打たせましょう。そのずれを見てみたいと思います」
「わかったわ」
カレンはドアのところにいるゴーレムを呼び、俺の指定した動作を指示する。
ゆっくりでは意味がないので、可能な限り早く動かしてもらった。
「このくらいの精度か」
俺は紙を見る。
位置度にしてΦ《ファイ》1だ。
直径1ミリの円の中に収まっていると謂うわけである。
精度を必要としない製品なら十分通用する。
「どうかしら?」
「求めているのには十分な能力ですね。あとは、特定の条件で稼働させることは可能ですか?」
「例えば?」
「そうですね、天秤の皿が指定した高さまで到達したら、指定した動作を行うとか」
「指示内容にもよるけど、腕を動かす位なら可能ね」
「そうですか!」
それならポカヨケに組み込むことは出来るな。
「このゴーレムの作成はお願いできるのですか?」
「そうねぇ、私のは研究用だから売り物じゃないわ」
うーん、それは残念だ。
しかし、自作はできるのではないだろうか。
「自分で作ることは出来ますか?」
「ジョブが付与魔術師なら可能でしょうね。それ以外だと無理だわね」
「それでも作り方を教えていただけませんでしょうか。俺のスキルなら再現が可能です」
怪訝な顔をするカレンを説得し、ゴーレムの作り方を作業標準書にする。
そして、まだゴーレムにしていない素材を借りて、目の前で作業標準書スキルを使ってゴーレムを作る。
「さて、これでいいのかな。後はコマンドワードを言えば動くはずだな。『腕を上げろ』」
俺は作ったばかりのゴーレムに腕を上げるように指示を出した。
「まさか、そんな……」
カレンが驚き目を丸くした。
それもその筈だ、自分が長年研究してきたゴーレム作成を、今聞いたばかりの俺が再現したのだ。
「上手くいったな。感謝するよカレン」
「はっ、正直自信を無くしたねぇ。20年研究してきた結果を、わずか30分で習得されちまうとはね」
「そういうスキルですからね」
はずれジョブだと思っていたが、作業標準書スキルはチートだな。
適正が無くても熟練者と同じことができるのだから。
そうだ、ゴーレムが作れた喜びで忘れそうだったが、ここに来ていた奴の情報も聞いておかないとな。
「俺達の前に訪ねてきた人物について聞きたいのですが。何方の紹介でしたか?」
「確かフォルテ公爵だったかな。男は中年でオッティと名乗っていたね」
「オッティ?」
「アルト、知っているの?」
シルビアが訊いてくるが心当たりが無い。
「いや、知らないな。ただ、似たようなジョブだと思うな」
「そうそう、オッティは『自分のジョブは生産技術だ』って言っていたね」
「――生産技術ッ!!」
品質管理なんてジョブの俺がいるのだ、似たようなジョブがあると思ったが、生産技術とはな。
メッキ工場を作ることができるはずだ。
「生産技術って何ですの?」
「ものを生産する時の仕組みを考える仕事って言えばいいのかな」
「品質管理と似ているのですか?」
「似ていると言うか、生産技術の一部に品質があると言った方がいいかな。あれは全てを管理する職業だ」
オーリスもシルビアも、そしてカレンも生産技術を知らないので、俺の説明を聞いてもピンときていないのがわかる。
それにしても、産業革命の起きていない世界に、品質管理と生産技術のジョブを作った神様は何を考えているのだろうか。
俺は神の正気を疑った。
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