第47話 コンタミ対策なんて無理無理

「不良は会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ」


 どうもチンタオではないアルトです。

 何故こんな事を叫んでいるのかというと……


「料理に髪の毛が入っていたとクレームが来た?」

「ええ、ここのところそう謂ったクレームが多くて困っているの。黒い髪の毛なんて珍しいでしょ。しかも長い髪の毛となると私で間違いないわ」


 相談窓口に来たのは、食堂で働いているメガーヌだ。

 ティーノと付き合い始めて、リア充爆発しろと思っていたら、本当に爆発した。

 なんというか、顔に疲れが出ているな。

 おやおや、昨夜はお楽しみでしたかなどとおっさんのセクハラ発言をしたくなるが、ちょっと深刻そうだな、やめておこう。


「そんなの料理している時に、髪の毛が鍋に入ったに決まっているわ」

「いいや、それは違うよシルビア」

「他に何があるっていうの」

「結果的にそうだとしても、最初から決めつけるのはよくない。三現主義に基づいて、現場を見るべきだね」


 そこで冒頭のセリフになる。

 勿論俺の考えたオリジナルの言葉ですよ。

 都知事と同じ名前のアルトです。


「これはコンタミ不良といってね、コンタミネーションっていう言葉の略なんだけど、残留付着異物の不具合の事なんだよ」

「随分と難しい言葉ね」

「簡単に言うと、『ゴミが入った』ってことなんだ」

「それならわかるわよ。やっぱり髪の毛が鍋に落ちたんじゃない」

「いいや、鍋に落ちるまでの過程が重要なんだ。調理前の鍋に入っていたのか、調理中に頭から抜けたのが入ったのか、抜け落ちていた髪が風に舞って入ったのか。それによって対策が変わってくるんだよ。だから現場を見る必要があるんだ」

「そういう事ね」


 やっとシルビアが納得してくれた。

 まあ、現場を見たところで、コンタミをゼロにするのは無理だと思っているけどね。

 クリーンルームで行う真空蒸着ですら、コンタミの付着で塗装不良となるのだ。

 そんなもん無理だろ。

 メーカーの基準が厳しすぎるんだ。

 そのコンタミで、誰か死ぬんか?

 誰かに迷惑掛かるんか?


 すいません、取り乱しました。

 5Sを徹底したところで、コンタミなんて解決しなかったので、冒険者ギルドの厨房でコンタミをゼロにするのは無理だと思っています。

 絶対量を減らすくらいがせいぜいですね。

 諦めたらそこで試合終了ですが、品質管理を辞めたいです安西先生。


「厨房に来てみれば、そこかしこに髪の毛や埃が落ちているな。これは清掃が足りていないね。これだと髪の毛以外も混入するだろうね」


 特に床が酷い。

 厨房を見たら食べる気がしなくなると聞くが、確かにそのとおりだな。

 ブレイドにも言って、定期的に掃除してもらおう。

 勿論、掃除の結果を確認する仕組みも作る。

 しかし、肝心の床に落ちた髪の毛が、鍋に入るのかというとその可能性は低そうだ。

 では、メガーヌから抜け落ちた髪の毛が直接入るのかというと、彼女は三角巾を頭に着けている。

 これで完全とは謂えないが、頻繁にクレームが来るような事はないだろう。

 念の為、三角巾をいつも着けているか確認したが


「毎日ちゃんと着けているわよ」


 とのことだ。

 変化点はないか。

 三角巾も見せてもらったが、ボロボロだとかそういう事はない。

 見た感じ、他の職員で長い黒髪は居ない。


「さて、どうやって混入したのか経路がわからんな」

「後は、女の髪の毛をつけているといえば、男って決まっているのよ」

「そんな決まりあるの?」

「だって抱き合ったりして密着するでしょ」

「ああ、そうか」


 シルビアに言われて気がついた。

 メガーヌの彼氏といえばティーノだな。

 付き合い始めだから、いちゃいちゃしているんだろうな。

 職場では自重していると思うが、していないんだろうな……


「ティーノ、ちょっといいか」

「はい?」


 仕込みをしていたティーノを呼んだ。

 俺のところに来る前に、シルビアがティーノを舐め回すように見る。


「ほら、これよ」


 ティーノの服についていた、長い黒髪を手に取った。


「侵入経路はここか。ティーノ、メガーヌ、仕事中にいちゃついたろ」

「休憩時間だよ」

「そうよ」


 二人は照れながら答える。


「その時メガーヌは三角巾を取ったね?」

「ええ」

「つまりだ、その時髪の毛がティーノに付着して、それが料理に混入したわけだ」

「――!!」


 俺の指摘に二人が固まる。


「職場では休憩時間でもいちゃつき禁止だな」


 ブレイドが意地悪そうにニヤニヤと笑う。

 まあ、お互いに付着した髪の毛を確認してっていうのも限界があるから当然か。


「メガーヌの髪の毛が入っていたら嬉しいだろ!」

「残念ながら、そんな特殊な趣味を持っているのはティーノ、君だけだよ」


 ティーノ、あきらめが悪いな。

 そういえば、前世でもコンタミとして色々なものがあったな。

 工程内にあり得ないものが付着していたこともしばしば。

 セロテープ、ガムテープ、メロンパン。

 お陰で、ライン内にメロンパンが持ち込み禁止になった。

 当然の事だが、メロンパンに限定したのは、やむを得ない事情があったからだ。

 仕事が急激に増えて、食堂の席が不足したのだ。

 結果、弁当持参の作業者は製造ラインで昼食をとることになった。

 メロンパン以外も禁止することが出来なかったのはそんな理由だ。

 今回はどこまで限定にするのかな?


「ティーノとメガーヌだけ禁止という訳にもいかないでしょう」

「そうだなぁ」


 ブレイドが顎に手を当てて考える。


「全員いちゃつき禁止で、休み時間が終わって仕事に戻る時は、髪の毛やほこりの付着をよく確認することにしようか」

「そんなところが落としどころですかね」


 ブレイドの案でいこうと思う。


「あの髪の毛が最後のコンタミとは思えない。人類がこれからも調理を続ける限り、再びコンタミが現れるだろう」

「あら、そんなに重たい話?」


 シルビアが俺を見る。

 ごめん、言ってみたかったんだ。


※作者の独り言

コンタミ対策なんて、クリーンルームつくっても無理なので、とりあえず諦めることから始めよう

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