第46話 重量の管理

「ちょっと頼みがあるんだが」


 相談窓口に来たのは、冒険者ギルドの食堂の責任者であるブレイドだ。

 このおじさんは料理の腕もよく、人望が厚い上司の鏡みたいな人だ。

 さて、頼みとはどんなことだろうか?


「実は最近ティーノの作業が遅くて困っているんだ」


 ティーノは食堂で働く職員である。

 若くて真面目で、過去に問題を起こしたこともなかったと思ったが。


「あいつは最近いきなり仕事が遅くなったんだ。その理由を調べて解決して欲しい」

「私は料理の素人ですよ。ブレイドが見てわからないのを、私が見てもわかるとは思えませんが」

「それなんだが、俺はどうしても料理の出来を見なきゃいけないし、昼飯時や夕飯時は自分でも料理をしないと間に合わないから、ティーノを観察している余裕がないんだよ」

「そうですか、ではどこまで出来るかわかりませんが、作業観察をさせてもらいましょう」

「頼んだよ」


 ブレイドの依頼を受ける事にした。

 それにしても、最近作業が遅くなったということは、何か変化点があったのだろう。

 そこを突き止めないと、真因の対策はできなそうだな。


 まずは一般的な作業観察をしようと、俺は昼飯時の厨房を観察してみた。

 厨房にいる職員はみな忙しそうに動き回っている。

 ティーノも他の職員に比べて作業が遅いという訳ではない。

 が、観察を続けいくと、徐々に作業が遅い理由がわかった。

 離席と余所見が多いのだ。

 無くなった食材を取りに行くのは他の職員もやっているが、ティーノはその回数が倍くらいある。

 そして、食材は自分で使うのではなく、メガーヌのところに持っていっている。

 余所見しているのは、メガーヌの使う食材の残りを確認しているからだな。

 ここまでわかれば、後は聞き取りだ。

 どうしてそんなことをしているのか、直接本人に聞いてみよう。

 忙しい時間帯では無理なので、昼の客が居なくなったころを見計らって、俺はティーノと面接をすることになった。

 場所は他人に聞かれないように、冒険者ギルドの応接室を借りている。

 そこには何故か、シルビアとオーリスがいるのだが。


「ティーノ、貴方は作業中に食材を取りに行く回数が他人よりも多いですね」

「そうか?気が付かなかったよ」

「そして、それはメガーヌが本来取りに行くべき食材ですね。貴方はメガーヌが食材を取りに行く前に補充するため、余所見をしている回数も多いです。どうしてですか?」


 俺は彼を観察して気が付いたことを素直にぶつけてみた。

 だが、その理由について、回答が来たのはティーノからではなかった。


「アルト、本当に理由がわからないの?」

「ティーノがメガーヌの事を好きだからに決まっていますわ」

「え?そうなの」


 流石そう謂う事は女性の方が敏感だな。

 シルビアとオーリスに見抜かれて、ティーノは赤くなる。


「どうやら正解のようだな。ティーノ、正直に話してくれるかい」

「わかりました。食堂の食材が入った箱は重たすぎるんです。メガーヌが運んでいるのを見た時、危なっかしくて俺が運んであげないとと思いました」


 成程、そんな理由か。

 さて、実際にどの程度の重さがあるのかを確認してみないとな。

 俺達四人は食材が置いてある倉庫へと向かった。


「これです」


 ティーノに案内された倉庫には、たくさんの食材が並んでいた。

 木箱に入れられた食材は、俺が持っても重い。

 【重量測定】スキルで重さを確認したら、一番重たいものは20キロもあった。

 これだと確かにメガーヌにはきついだろう。


「事情はよくわかった。さて、じゃあ対策を考えようか」


 今度は食堂に行き、ブレイドとメガーヌを交えて対策を考える。


「ブレイド、食材の入った箱の重さは考えていますか?」

「いや、箱に入るだけってのが業者との暗黙のルールだな」

「そうですか。それだと重たいものは非力な人だと持てませんよね」

「言われてみればそうだな。考えたことも無かったが」

「私もいつも運ぶのが大変だったわ」


 これは前世でもよくあった。

 運搬費用は一箱幾らと謂う決めだったので、一箱の充填率を高めようとするのだが、作業者が持てないほどの重量が設定されるのだ。

 SNPと呼ばれる梱包単位については、5キロ以下にすることが望ましいのだが、そうでもないのが実情だった。

 そんなわけで、ここにも重量制限を設けたい。

 こちらで小分けにするのはダブルハンドリングと言って、余計な作業となるから避けたい。

 そこは納入業者にやってもらおう。


「それはダメだよ」


 ところが、ブレイドは俺の案をダメだという。


「一度の納入数が減ると、業者はいい顔をしないよ」

「それでは最小発注量を約束しましょう」


 これはMOQという。

 物流網の発達していないこの世界に、野菜を一個二個で持ってきて欲しいと言っても、そんなのは不可能だろう。

 今までと同じ量を小分けにしてもらおう。


「で、これならティーノがメガーヌに気を取られて、作業が遅くなることも無くなるか」

「それってどういうこと?」


 俺が言った言葉の意味を、メガーヌが理解できていない。


「ほら、男ならここで行きなさいよ」


 シルビアがティーノをメガーヌの前に連れてくる。

 ティーノの顔が真っ赤だ。


「メガーヌ、付き合って欲しいんだ」

「え?」


 メガーヌが露骨に動揺する。


「ティーノの作業が遅くなったのは、メガーヌを意識しすぎたからだよ。食材の箱が軽くなっても、真因の解決にはならないってことさ」

「成る程、そういうことか」


 ブレイドも納得したようだ。

 俺もこうやって説明しているが、シルビアとオーリスに言われなければ気が付かなかったので、少しばつが悪い。


 翌日


「交渉は上手くいったよ。納入業者も重くて大変だったそうだ」


 ブレイドが報告に来た。

 そうか、業者も辛かったのか。

 みんなが楽になるのはいいことだな。

 どこかに負荷をかけた改善など、長続きはしないから。


「それと、ティーノとメガーヌが付き合う事になったぞ」

「そいつぁおめでとう」

「俺としちゃ、仕事に支障がでなければそれでいいさ。めでたい事ではあるがな」

「随分冷めた言い方ですね」

「今度はイチャイチャして、作業が遅くならないか心配なんだよ」

「その時はまた相談に来てくださいね」

「そうするよ」


 ブレイドはそう言うと、相談窓口を立ち去った。


「私も心配して、荷物を運んでくれる男が欲しいわ」

「シルビアよりも力があるなんて、オーガくらいなもんだろ」

「失礼ね」


 シルビアにビンタされて、頬に真っ赤な手の跡が残った。


「アルトは女心がわからなすぎよ」

「はい」


 オーリスがニヤニヤしながら、俺の欠点を指摘する。

 女心の規格なんて、JISにはなかったからな。



品質管理レベル20

スキル

 作業標準書

 作業標準書(改)

 ノギス測定

 三次元測定

 マクロ試験

 振動試験

 電子顕微鏡

 塩水噴霧試験

 引張試験

 硬度測定

 重量測定

 温度管理

 レントゲン検査 new!

 蛍光X線分析

 シックネスゲージ作成

 ブロックゲージ作成

 ピンゲージ作成

 品質偽装

 リコール

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