第40話 温度管理は人の為ならず
「帝国さん汚いやないですか!知らん者にハンコつかせて」
現在俺は密室で女性に囲まれている。
と、そんな状況なら先程のセリフなど出ない。
室内にいるのは俺とシルビア、スターレット、オーリスだ。
外は暑いのに室内はとても快適である。
何故か?
それは俺の新スキル【温度管理】のお陰だ。
新しいスキル【温度管理】の威力は絶大だ。
指定した範囲の温度を自由に操れる。
-1兆2000万度から2兆度まで。
下は絶対零度の概念をぶち壊し、上はゼットンの倍。
そこまでの設定をしたことはないが、スキルを使用したときに、そこまでの設定が出てきた。
一般的に測定室は20度に保つのがよいとされている。
おっと、これらは全て摂氏だ。
間違っても華氏でこの温度にしないで欲しい。
話を戻そう。
この20度に保たれた測定室に、2時間置いた製品を測定するのが正しい測定なのだ。
温度による物質の膨張が安定するのがこのくらいの時間かかるのだ。
個人的にADC12というアルミダイカストの材料を、時間経過による寸法の変化を調べたことがある。
三次元測定機に自動測定プログラムを登録し、同じ場所を測定したのだが、寸法が安定するまでに2時間かかったので、有効な手法だとわかった。
ま、1/100ミリを求めている製品でも無ければ、そんなことこだわる必要もないが。
ADC12での寸法差は最大で0.02ミリだったのだ。
日常の測定は、工場のラインサイドで行われる。
測定室に持ち込んで、初品作成から2時間後に生産開始など、現実的ではないからな。
温度管理は寸法測定の他にも、ヒートサイクルテストや水分除去にも使わている。
そんな管理が俺のスキルに入るのは当然なのだが、
「暑い日も寒い日もアルトがいれば快適ね」
シルビアが満足そうにしている。
「私がアルトにお願いしましたのよ」
オーリスが得意気に自慢する。
そうだ、俺はオーリスに騙されて、この冒険者ギルドの一室の空調管理をするハメになったのだ。
お前蟻地獄物産の破目太郎か!
相談があるからとこの部屋に呼ばれて、相談が終わるまでという約束で【温度管理】のスキルを使ったら、相談が宇宙の果を見つけてきて欲しいとか、おじさん一本取られたよ。
この契約ならポール星人が攻めてきても、ここだけは生き残ることができるな。
「一定の温度の部屋にいると汗の出る量が減って、体内の老廃物が排出されにくくなるから、美容にとても悪いんだよね」
俺がそう云うと三人の顔色が変わった。
「それ本当なの?」
「何でもっと早く言わないのよ」
「私の美貌が失われるなんて世界の損失ですわ」
まあ、新陳代謝が落ちるので、良くないとは思うが、その効果がどれほどのものかは知らん。
嘘も方便だ。
俺が毎日この部屋の空調管理係になる訳にはいかないだろ。
「こうしちゃいられないわ。今日の訓練を始めないと」
シルビアが真っ先に部屋を出る。
それにスターレットとオーリスが続いた。
「ま、エアコンが無いから、偶にはこういうのもいいかも知れないけどね」
前世で他部署の社員から、測定室は一年中空調が効いていて羨ましいと言われたのを思い出していた。
空調は人間のためではなく、製品のためなので、そもそもの目的が違うのだが、彼らにそんな知識が無かったからな。
俺は適度に冷えた室内で、温かいコーヒを飲んだ。
「こんな暑い日に仕事なんかしていられないよな」
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